糖尿病の原因になる肥満を解消する胃の手術法・受けられる条件とは

更新日

糖尿病太ってきた全身

肥満は糖尿病に直結

肥満は糖尿病に直結する
肥満があるとインスリンが効きにくい

肥満糖尿病の大きな原因です。糖尿病は血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が異常に高くなる病気です。血糖値はインスリンというホルモンの働きで正常に保たれますが、肥満があるとインスリンが効きにくくなり血糖値が上がってしまいます。インスリンはブドウ糖が筋肉で消費されたり肝臓や脂肪細胞に形を変えて蓄えられたりするときに働く必要がありますが、肥満があるとその働きが低下してしまうのです。

内臓脂肪型肥満

内臓脂肪型肥満は皮下脂肪型肥満に比べ、糖尿病のリスクが特に高まります。内臓脂肪型肥満は内臓の周囲に脂肪がたまる肥満で中年男性などに多く見られます。

肥満解消 胃を手術する治療法

生活習慣が影響し中年以降に発症しやすい2型糖尿病で高度に肥満した人の場合、手術で胃を小さくすることによって、肥満を解消させ糖尿病を改善させる治療法があります。食べる量が減る、食べた物が消化吸収されにくい、食欲をつかさどるホルモンが変化して必要以上に食べたいと思わなくなる、といった効果によると考えられています。

腹腔鏡

手術は腹腔鏡を使って行います。腹部に小さい孔を5箇所ほど開け、医療器具を挿入します。胃の一部を切除し、残った胃を縫い合わせます。胃の形が服の袖(スリーブ)のような形になることから「スリーブ状胃切除術」と呼ばれています。

スリーブ状胃切除術
スリーブ状胃切除術 胃の一部を切除

2014年から保険適用になりました。
手術は1週間ほど入院して行います。手術の前後には、特別な食事をとります。エネルギー量を低くし必要な栄養素を確保した食事です。退院後も食事療法を続けます。

血糖値が下がり 糖尿病の薬も減った事例

スリーブ状胃切除術を受けた患者さんの事例

この手術を受けたAさんの例です。Aさんは42歳の男性で糖尿病歴7年。身長170cmで体重110kgでしたが、手術後は80kgに減りました。血糖値の平均を示すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、8.5%から6.7〜6.8%に低下しました。HbA1cは糖尿病の一般成人では7.0%未満が基本の目標です。Aさんはそれまで達成できなかったこの目標を手術によって達成できたのです。また糖尿病の薬を4種類使っていましたが、1種類だけに減りました。Aさんは高血圧もありましたが、手術後は血圧が正常になりました。

手術の直後は固い物が食べられませんが、これは短期間で終わります。その後は、あまり多く食べると胃が受けつけないことがあります。また、食べ過ぎのくせが戻って体重が再び増えてしまうことがまれにあります。これがこの手術で最も避けたいことです。

スリーブ状胃切除術 受けられる条件

スリーブ状胃切除術 受けられる条件

この手術が受けられるのは、肥満とそれによる糖尿病などの病気があり、6か月以上専門的な治療を受けても改善しない人です。また、肥満度を示すBMI(体重[kg]÷身長[m]÷身長[m] で計算) が35以上、糖尿病の場合は32以上、年齢は18歳〜65歳です。手術を実施できるのは一定の設備や技術を満たした医療機関です。

肥満は「なまけ」が原因といった見方もされてきましたが、現在では慢性の病気であり早めの治療が必要だと考えられています。食事や運動の努力をしても肥満や糖尿病がどうしても改善しない場合、手術という選択肢があることを知っておいてください。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2020年8月 号に掲載されています。

きょうの健康テキスト
テキストのご案内
※品切れの際はご容赦ください。
購入をご希望の方は書店かNHK出版お客様注文センター
0570-000-321 まで
くわしくはこちら

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    この病気も? 糖尿病最新報告「肥満が原因 ひろがる治療の選択肢」