強い感染力のある「はしか(麻疹)」


一般的に、ウイルスの感染経路には、接触感染、飛沫(ひまつ)感染、空気感染があり、感染力の強さは感染経路によって異なります。
接触感染は、感染者と直接触れ合ったり、ウイルスの付着した物に触れたりすることによる感染で、とびひや流行性角結膜炎などが当てはまります。
飛沫感染は、感染者のせきやくしゃみ、会話などで飛び散った飛沫を吸い込むことによる感染です。飛沫は水分を含んでいるため重さがあり、空気中に放出されると、すぐに地面に落ちていきます。飛沫感染する病気には、インフルエンザ、風疹、おたふくかぜなどがあります。
空気感染は、空気中に漂うウイルスを吸い込むことによる感染です。空気感染するウイルスは周りに水分を持たず軽いことから、長時間浮遊し遠くまで飛んでいく場合があります。そのため、空調を共有している室内であれば、感染者から遠く離れていても感染するおそれがあります。空気感染する病気には、はしか(麻疹)、結核、水ぼうそうがあります。
感染力を表す指標である基本再生産数(免疫を持たない人の集団で1人の患者から平均何人に二次感染するか)では、季節性のインフルエンザは1.3~1.8人、おたふくかぜは4~7人、風疹は6~7人ですが、はしかは12~18人となり、はしかの感染力が極めて強いことがわかります。そのため、はしかでは、免疫がない人が麻疹ウイルスに感染するとほぼ確実に発症すると考えられており、基本的にはマスクの装着や手洗いでは感染を防ぐことはできません。
世界では、2017年の1年間に約11万人がはしかで亡くなっています。2019年の1年間には、疑い例も含めて世界で約130万人がはしかを発症しました。2019年は、日本でも発症者が700人を超え、最近5年間で最多となっています。
はしか(麻疹)の症状と経過

はしかは、麻疹ウイルスに感染した後、10~12日ほどの潜伏期間を経て発症します。発症の初期をカタル期と言い、周りの人に対する感染力が最も強い時期になります。38℃前後の発熱、せき、鼻水、目の充血、下痢などの症状が現れます。また、頬の内側に「コプリック斑」と呼ばれるはしかに特徴的な白い斑点が現れます。

画像:川崎市健康安全研究所 岡部信彦
コプリック斑が出た翌日から耳の後ろから首にかけて小さく赤い発疹が現れる発疹期になります。発疹は、1~2日以内に顔、胸、背中などの上半身から手足の先に至るまで全身に広がります。また発疹どうしがくっつき、徐々に大きくなり、色も濃く鮮やかになります。また熱がさらに高くなり、咳や鼻水などの症状も重症化します。回復期に入ると熱も下がりはじめ、発疹は茶褐色の色素沈着を残したあと、だんだん消えていきます。
はしかの合併症

はしかは、肺炎や中耳炎などの合併症が起こりやすく、1000人に1人ほどの割合で脳炎を発症するとされています。はしかによる脳炎は重症で、重度の後遺症が残ることが多くなっています。
また、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症が起こることもあります。亜急性硬化性全脳炎は、はしかが治ったあと数年から10年ほどたって発症するとされます。麻疹ウイルスが脳内に持続的に感染して徐々に変化して引き起こされる病気で、慢性的に進行します。
初めは「学業成績や記憶力の低下」「感情不安定」などの精神的な症状が起こり、「うまく歩けない」「持っているものを落とす」「字がうまく書けなくなる」「体がガクンとなる」などの運動障害が現れます。その後、体がピクッと動く不随意運動が周期的にみられるようになります。さらに進行すると意識を失ったり、全身の筋肉が緊張して自発運動が困難になったりして、命を落とすこともある重い病気です。
ワクチン接種で予防

はしかには現段階では有効な治療薬はありません。ワクチンを接種して予防することが重要です。ワクチンを接種すると、ウイルスに対する免疫ができ、典型的なはしかを発症することがなくなると考えられています。
はしかの予防接種は、現在、麻疹ワクチンと風疹ワクチンが混合されているMRワクチンを接種するのが一般的です。2回接種することが推奨されており、定期接種では1回目は1歳のとき、2回目は小学校入学前の1年間に受けることになっています。費用は、定期接種の対象年齢であれば国と自治体が全額負担します。定期接種の対象年齢でない場合も、費用は自己負担になりますが、予防接種を受けることは可能です。
成人では、年代によって予防接種を受けているかどうかが異なります。はしかにかかったことがなく、予防接種を受けていない人や受けたかどうかわからないという人は、自分自身だけでなく、周りにいる子どもや家族を守るためにもぜひ予防接種を受けましょう。以前に予防接種を受けたことがある人が、再度予防接種を受けても医学的には問題ありません。
海外から持ち込まれたウイルスで感染

日本では国内由来のはしかは抑えられていましたが、近年では、海外から持ち込まれたウイルスで感染が広がるケースが報告されています。2019年2月、大阪の大型商業施設での集団感染では従業員から他の従業員、買い物客へと感染がひろがり、合計25人の人がはしかにかかりました。海外で麻疹ウイルスに感染した人が帰国後麻疹を発症し、その後、大型商業施設の従業員にうつり、そこから周りの従業員や買い物客に広がったのではないかと考えられています。集団感染を防ぐためにも、積極的にワクチン接種を検討しましょう。