糖尿病によって起こるDKD(糖尿病性腎臓病) 2つのタイプ・検査・治療法

更新日

糖尿病腎症糖尿病腎臓

透析治療の最大原因「DKD(糖尿病性腎臓病)」

糖尿病があると、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が続き、全身の血管にダメージを与えます。

腎臓は、糸球体という細い血管が集まった組織が、左右の腎臓の合計で約200万個ある

腎臓は、糸球体という細い血管が集まった組織が、左右の腎臓の合計で約200万個あります。そのため、糖尿病による影響を受けやすい臓器です。

糖尿病が原因で起こる腎臓病は、従来は「糖尿病性腎症」と呼ばれており、病気の特徴として、アルブミン尿があることが診断の前提とされていました。ところが最近では、糖尿病が原因で起こす腎臓病のなかに、「アルブミン尿がないタイプ」のものがみられ、しかもその割合が増加していることがわかってきました。

このことを受けて、日本腎臓学会と日本糖尿学会は連盟で、アルブミン尿の出るタイプ、出ないタイプの両方を含めて、糖尿病が原因で起こる腎臓病全体のことを「DKD(糖尿病性腎臓病)」と捉えると発表しました。DKDは、透析治療の原因となる腎臓病のなかで最も多く、約4割を占めています。毎年新たに1万6000人以上のDKDの患者さんが、透析治療を始めています。

DKDの起こるしくみ

以前から知られている「アルブミン尿」タイプのしくみ

アルブミン尿があるタイプのDKDは、腎臓の糸球体が壊れることで起こります。

アルブミン尿があるタイプのDKDは、腎臓の糸球体が壊れることで起こります。

糸球体は、血液中の余分な水分や塩分、老廃物などをろ過しています。ろ過されたものは尿細管から尿管を通って尿として排せつされます。

糖尿病になるとアルブミンがもれる

糖尿病があると、糸球体の入り口につながる血管が拡張し、出口につながる血管が収縮します。そのため、糸球体内に高い圧力がかかって、糸球体が壊れます。その結果、血液中に含まれるたんぱくの一種であるアルブミンが、尿中にもれ出るようになります。

「アルブミン尿が出ない」タイプのしくみ

糖尿病があると、血管の動脈硬化が進行していきます。

動脈硬化により腎臓全体の機能が低下

腎臓は細い血管が集まる臓器のため、動脈硬化により腎臓全体の機能が低下し、DKDが起こります。ただし、このタイプの場合、糸球体は壊れないため、アルブミンは尿中にもれ出ることはありません。現在は、この「動脈硬化タイプ」のDKDが多くなっていると考えられています。

その理由は、まだはっきりとはわかっていませんが、次のようなことが推測されています。動脈硬化は加齢によって進行します。社会の高齢化に伴い、患者さんの平均寿命が延びたことで、動脈硬化タイプのDKDが増えていると考えられます。また、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの治療が進歩し、血糖値や血圧、LDLコレステロール値などが全体的にみると改善してきています。そのため、糸球体が壊れずに保たれる傾向にあり、「アルブミン尿タイプ」のDKDが減って、相対的に「動脈硬化タイプ」のDKDが増えていることも考えられます。
糖尿病がある人は、「アルブミン尿がなくても腎臓病を発症している可能性がある」ということを、ぜひ知っておいてください。

DKDを早期発見するための検査

DKDは、適切な治療が行われないと、腎機能が急激に低下してしまうため、早期発見が大変重要です。糖尿病がある人は、アルブミン尿を調べる尿検査と、「eGFR」を調べる血液検査を、数か月おきに受けるようにしましょう。尿検査の結果、アルブミン尿が「+(陽性)」の場合は、「アルブミン尿タイプ」のDKDが疑われます。

DKDを早期発見するための検査

eGFRは、腎機能の状態を示す数値です。腎機能が低下すると老廃物が体にたまります。この老廃物の1つがクレアチニンで、eGFRは血液中のクレアチニン値などから換算されます。血液検査の結果、eGFRの値が「60未満」の場合は、腎臓病を疑う必要があります。たとえアルブミン尿がなくても、必ずDKDを疑ってください。クレアチニン値は、特定健診(40~74歳の人が対象)でも、必要に応じて調べられるようになっています。
DKDが疑われる場合は、糖尿病の主治医に相談の上、腎臓の詳しい検査を受けるようにしてください。

DKDの治療

DKDがあっても、しっかりと治療を行えば、腎機能の低下をゆるやかにすることができます。

DKD治療の基本

糖尿病や、すでにDKDがある場合、血糖、血圧、コレステロール、中性脂肪などの値や、体重をしっかりとコントロールすることが治療の基本となります。(※図にそれぞれの目標値)
糖尿病がある人は、こうした総合的なコントロ-ルを行うことによって、心筋梗塞や脳梗塞などの血管の病気を防げることが多くの患者さんを調べた研究で明らかになっています。細い血管が集まっている腎臓に対しても同様の対処が有効で、DKDの予防や進行予防につながります。

DKDの治療 生活習慣を見直す

こうした数値をコントロ-ルするためには、適度な運動、減塩といった食生活の改善、禁煙などの生活習慣の見直しが欠かせません。薬による治療も行われます。

ACE阻害薬やARBなどのレニン・アンジオテンシン系阻害薬の効果

第一選択薬とされているのが、ACE阻害薬やARBなどのレニン・アンジオテンシン系阻害薬です。これらの薬は血圧を下げる薬として知られていますが、それだけでなく、糸球体を守ったり、たんぱく尿を減らしたりするという腎臓を保護する働きもあります。ただし、「動脈硬化タイプ」のDKDの場合は、これらの薬で血圧が下がった結果、糸球体にかかる圧力が下がりすぎると、急性腎障害などが起こることがあります。そのため、血液検査でeGFRを定期的にチェックし、急激な低下がみられれば、ほかの降圧薬に替えたりして対処します。

高齢者の場合 DKDの治療

高齢の患者さんの場合は、血糖値や血圧が下がりすぎると、起立性低血圧による立ちくらみや、脱水による急性腎障害の危険性が高くなります。そのため、図のように、目標値が少し高めになります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬で血圧が下がりすぎる場合は、カルシウムきっ抗薬に変更することがあります。血圧は、医療機関で計ると、ふだんよりも高い値になることがよくあります。毎日、家庭での血圧を測って記録し、受診したときにその結果を医師に伝えることが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2020年3月 号に掲載されています。

きょうの健康テキスト
テキストのご案内
※品切れの際はご容赦ください。
購入をご希望の方は書店かNHK出版お客様注文センター
0570-000-321 まで
くわしくはこちら

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    新常識! 腎臓病「糖尿病でなる“DKD”」