IgA腎症とは?原因や症状、早期発見のポイント、検査・治療法について

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IgA腎症腎臓

透析治療の大きな原因の1つ 「IgA腎症」

日本には、腎臓病がある人が1330万人いると推定されています。腎臓病が進行し、やがて腎不全になると透析治療が必要になります。現在、透析治療を受けている患者さんは、国内で約34万人います。その3割近くを占めるのが「IgA腎症」という病気です。

IgA腎症が起こるしくみ

IgA腎症が起こるしくみ

「IgA」とは、細菌やウイルスなどから体を守る免疫物質の一種で、のどなどの粘膜の表面で活躍します。たとえば、かぜのウイルスなどが鼻や口の中に侵入すると、IgAがウイルスにくっついて無力化します。

IgA腎症が起こるしくみ

そのIgAが、血液中でかたまりをつくることがあります。

IgA腎症が起こるしくみ

そのかたまりが血流にのって腎臓まで運ばれると、腎臓の組織を攻撃し炎症が起こります。これが「IgA腎症」です。炎症によって腎臓の細い血管が破れると、血液が尿中にもれて「血尿」が起こります。

IgA腎症が起こるしくみ

炎症が進行すると、体に必要なたんぱくが尿中にもれ出して、「たんぱく尿」が現れます。

IgA腎症は「指定難病」

腎臓病の多くは、糖尿病や高血圧など、なんらかの病気が原因で起こります。ところがIgA腎症の場合、病気が原因とならないのが特徴とされ、原因がはっきりわかっていません。重症な場合は完治につながる治療法がないことから、指定難病に認定されています。IgA腎症は、特に20~30歳代に多くみられますが、子どもも含めてどの年代でも起こります。

IgA腎症の原因で有力なのが口蓋扁桃(こうがいへんとう)の免疫の異常

原因について、現在有力な説が、のどにある「口蓋扁桃(こうがいへんとう)」の免疫の異常が関係しているということです。口蓋扁桃は、のどの奥の両側にある組織で、細菌やウイルスが気管や肺に侵入するのを防ぐ働きがあります。一般には扁桃腺とも呼ばれます。かぜに伴い扁桃炎などを起こすと、口の中に住み着いている歯周病菌などの細菌が活発になり、それをきっかけにIgAに異変が起こって、IgA腎症を発症すると考えられています。また、遺伝的な要因も関わっていると考えられており、IgA腎症の約10%は家族性のものと考えられています。

IgA腎症は「尿検査」で早期発見できる

IgA腎症の多くは、自覚症状がありません。初期からある症状は、肉眼ではわからないほど微量の血尿です。進行すると、たんぱく尿が出るようになりますが、この段階まで至るとかなり進行していて、完治させることが難しくなります。そのため、IgA腎症は、早期発見することがとても重要です。その鍵となるのが「尿検査」です。

IgA腎症を尿検査で調べる

尿検査の項目のうち、「尿潜血」では血尿を調べ、「尿たんぱく」では尿に含まれるたんぱくを調べます。尿潜血が陽性だったり、尿たんぱくが「±」あるいは「+」以上だったりした場合は、IgA腎症を含め腎臓病が疑われます。こうした場合、医療機関を受診し、より詳しい検査を受けてください。特に、たんぱく尿が出ている場合は、必ず受診しましょう。

尿検査は、生活習慣病予防の「一般健診」や、小・中学校の健康診断で行われており、日本では、IgA腎症の約70%が尿検査がきっかけで見つかっています。特に、小・中学生は、その多くが尿検査で早期発見されて治療を始めています。IgA腎症は、定期的に尿検査を受けていれば早期発見できる病気なのです。

肉眼で見える血尿で発見されることもあります。かぜなどの感染によって一時的に腎機能が悪化すると「しょうゆのような色」の血尿が出て、自分で気づけることもあります。また、高血圧を発症したことがきっかけで検査を受けた結果、IgA腎症が発見されることも少なくありません。腎臓病が進行すると、体内の水分や塩分の量をうまく調節できなくなるため、血圧が上がりやすくなるのです。

IgA腎症を確定診断する検査

尿検査で腎臓病が疑われたら

医療機関を受診すると、再度、尿検査が行われます。そこでも血尿やたんぱく尿があった場合は、細い針で腎臓の組織の一部を採って顕微鏡で調べる「腎生検」が行われます。その結果によって、腎臓病があるかどうかや、腎臓病がある場合は「IgA腎症」などのタイプが確定診断されます。
また、血尿がある場合は、腎がんなどを含め泌尿器系のがんが原因で起こっている場合もあるので、尿をさらに詳しく調べるなどして、がんの有無を確認することも重要です。

IgA腎症の治療

早期の場合の治療

IgA腎症の一部の患者さんでは、腎機能の低下がみられず、自然に症状が治まることがあります。たんぱく尿の量が少なく、血圧が低く抑えられている場合は、腎機能が維持されやすいと考えられるため、経過観察となることがあります。しかし、尿たんぱくや血圧の数値がよくないなど、腎機能の低下が進行しやすい状態の場合は、進行度に応じた治療が行われます。

IgA腎症の主な治療

早期の場合、免疫の働きを抑える治療が中心です。「副腎皮質ステロイド薬を8か月間のみ続ける治療」や「扁桃を摘出する手術」「扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用」などが行われます。扁桃摘出術の目的は、扁桃に歯周病菌などが感染してIgAが増え、腎機能の低下が進行しやすくなるのを防ぐことです。扁桃を摘出することによる影響はほとんどありませんが、まれに味覚異常や、手術後に多量の出血が起こることがあります。しかし、IgA腎症が進行するリスクに比べて効果が大きく、早期であればそれだけで完治することもあります。

早期のIgA腎症の治療の主流「扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用」

現在、早期のIgA腎症の治療の主流となりつつあるのが「扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用」です。ステロイドパルス療法とは、副腎皮質ステロイド薬の点滴を1か月おきに3日間続けながら、2日に一度のみ薬を服用する治療法で、6か月間行います。

IgA腎症に加えて高血圧もある場合は、ACE阻害薬やARBなどの降圧薬を服用します。これらの薬は、血圧を下げるだけでなく、たんぱく尿を減らす効果もあります。また、腎臓以外の臓器の炎症やがんがあると腎機能の低下が早まるので、こうした病気がある場合は、その治療もしっかり行ってください。

生活習慣の改善も欠かせません。高血圧の有無にかかわらず、「減塩」は重要です。特に、腎機能が低下している場合は、1日にとる食塩の量を6g未満にします。高血圧がなく、腎機能が保たれている人でも、食塩をとりすぎている場合は、高血圧予防のために食生活を見直します。また、肥満や喫煙は、腎機能低下やたんぱく尿の悪化につながります。肥満解消や禁煙に努めましょう。

進行した場合の治療

進行したIgA腎症である場合や、扁桃摘出術を受けても完治しない場合は、透析治療の開始を遅らせることが治療の目的となります。現在は、IgA腎症そのものを治療する方法がないため、生活習慣の改善を続けます。
腎臓には、薬の成分を排せつする働きもあるため、腎機能が低下すると、薬の効果が出すぎて副作用が現れやすくなります。市販薬も含めて、持病などで使用している薬など、使用する薬についてはすべて担当医に伝えるようにしてください。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2020年3月 号に掲載されています。

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