おいしいと感じる理由とは?味覚と脳の関係について

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食の起源(NHKスペシャル)食で健康づくり

私たちが、日々の食事で感じる「おいしさ」。あなたは体のどの場所で「おいしさ」を感じていると思いますか?「味」は舌で、「風味」は嗅覚で感じていますが、おいしいという判断の大部分は『脳』自身が担っていることが、最新研究で分かってきました。脳の仕組みを知れば、あなたにとっての「理想の食」に近づくヒントが見つかるかもしれませんよ!

おいしさを感じるのは脳!?
おいしさを感じるのは脳!?

脳は「情報」を食べている!?

番組では、脳が感じるおいしさの不思議を実感するため、ある実験を行いました。20代から40代までの男女30人に集まってもらい、AとB、2つのグループに分けます。みなさん全員に、同じ食材を使ったポタージュスープとペペロンチーノを食べてもらいました。

実験で提供した、ポタージュスープとペペロンチーノ
実験で提供した、ポタージュスープとペペロンチーノ

すると、食べた料理は全く同じなのに、感想がまるで違いました!Aグループは「味が薄い」「クスリ的な味がする」と不人気。一方のBグループは「後味が良かった」「優しい味でした」と大好評だったんです。一体、なぜなんでしょう?

実は2つのグループ、食べるときに伝えられた「料理の名前」が違ったんです。例えば、スープは、Aグループには「低脂肪ごぼう健康スープ」、Bグループには「鳴門鯛のダシたっぷりポタージュ」。パスタは、Aグループには「パスタ風ズッキーニと大根の炒め物」、Bグループには「モチシャキ2色麺の創作ペペロンチーノ」と伝えられていました。どちらがおいしいそうかと聞かれたら、皆さんも、Bグループの方だと感じるのではないでしょうか。実際、料理の名前を「おいしそう」にするだけで、食事に満足する人の割合は、Aグループが60%なのに対し、Bグループは87%と上昇しました。私たちは、自分の舌や嗅覚より、人から与えられる情報でおいしさを感じるという、不思議な能力があるのです。

同じ料理でも名前が違うとおいしさが変わる!?
同じ料理でも名前が違うとおいしさが変わる!?

同じような社会実験がアメリカで行われていて、その成果が確かめられています。世界的な研究機関「better buying lab」では、世界有数の企業やホテルと手を組み、人気の薄いヘルシーな料理をどうにかしてお客さんに食べてもらおうとある試みを行いました。それは、「料理の名前を、美食をイメージさせるものに変える」だけ。

例えば「肉なしソーセージ」という料理名を、ソーセージ作りで有名な地域名をつけた「カンバーランド地方のスパイス野菜ソーセージ」にネーミングチェンジ。たったそれだけのことで、ヘルシーメニューの売り上げは76%もアップ!人は伝えられる情報だけで、簡単に感じる「おいしさ」が変わってしまうんです!

脳は結構ダマされやすい?

そのとき私たちの脳では何が起きているのか。最新研究で、実験からわかってきました。用意したのは、同じ苦さの2つの液体。ただし、一方は「強い苦味」、もう一方は「弱い苦味」だと被験者に伝えます。2つの液体を飲んだ時の脳の活動を調べると、興味深い結果が得られました。

注目したのは、苦味に対する嫌悪感を生み出す、「扁桃体」と呼ばれる脳の部分の反応です。「強い苦味」と伝えられた液体を飲むと、扁桃体は強い嫌悪感を示しました。ところが、同じ苦味の強さなのに「弱い苦味」だと伝えられた液体を飲んだ後は、嫌悪感が大きく弱まったのです。

あなたはどちらが苦そうに感じますか?
あなたはどちらが苦そうに感じますか?

このとき脳全体の活動を見ると、もう一つ、活発に働いている場所が見つかりました。それは、「眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)」。眼窩前頭皮質は、味覚や嗅覚の情報だけでなく、体の五感全ての情報が集まる仕組みになっています。そのため、「苦くない」という情報を事前に伝えられると、眼窩前頭皮質はこれから口にする味を「苦くない」と予測。その後実際に苦い液体を口にしても、「苦くない」という判断を下すことが確かめられたのです。

苦手な食べ物がある人も、誰かに上手に料理してもらって、「これはおいしいよ!」と言われて口にしたら、脳が「おいしく」感じてくれるかもしれませんよ!

「同じ釜の飯を食う」と愛情ホルモンが出る!?

誰かと一緒に食事をとることも、脳にとっては重要な意味があることが分かってきています。それを教えてくれるのが、人類と共通の祖先を持つチンパンジー。地球上の多くの生物は、食べ物を分かち合うのは、血のつながった家族の間だけです。

一方、チンパンジーはまれにですが、人間と同様、家族以外の仲間とも食べ物を分かち合うことが確認されています。そのとき、体の中ではある特別な物質が働いていることが突き止められました。その物質とは、脳から放出される「オキシトシン」というホルモン。「愛情ホルモン」とも呼ばれ、通常は毛づくろいなど相手と触れあった時に出て、相手への愛情や信頼感を強める働きをしています。

ところが詳しく調べると、「毛づくろいしているとき」よりも、「仲間と食べ物を分かち合っているとき」の方が、およそ2.5倍も多くオキシトシンが出ていることがわかりました。「一人で食べるとき」に比べても、5倍の量に達しています。家族であるなしを問わず、食を分かち合うことが、集団の絆を強めるというとても有益な効果を生んでいたのです。

研究を行った、ドイツ・マックスプランク研究所のローマン・ウィッティグ博士は、食を分かち合うことで脳がオキシトシンを作る出す仕組みを、私たち人間はさらに強めていったと考えています。

『「食を分かち合う」とは、互いの絆を強めることです。それによって、仲間を増やせるだけでなく、共に助け合って生きていけるようになります。食を共にすることで絆を育むこの仕組みは、人類の繁栄にとって非常に重要なのです。』

「食を分かち合う」とは、互いの絆を強めること

誰かと共に食べることで、脳が反応し、互いの絆を深めてくれる。そう思うと、何だか誰かを食事に誘いたくなりませんか?

食の起源 第5集「美食」 ~人類の果てなき欲望!?~
3月28日(土)夜7:30~ 放送 (73分特別版) BS4K

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル 放送
    食の起源 第5集「美食」 ~人類の果てなき欲望!?~