ノンアルコール・ビールでも酔える!?健康志向の「新たなお酒」の魅力

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食の起源(NHKスペシャル)食で健康づくり

お酒で感じる「心地よさ」「開放感」。それは魅力的だけど、飲酒による病気のリスクも気になるという方、多いのではないでしょうか?実は、一挙両得の方法があるかもしれません。私たちが訪ねたのは、ビール王国・ドイツ。今、ノンアルコール・ビールがブームとなっています。最新研究からは、ノンアルコールなのに、本当に「酔える」可能性も見えてきました。酒で「健康」と「酔いの楽しさ」を両立させる取り組みの最前線です。

ノンアルコール・ビールは、色も泡立ちも本物そっくり
ノンアルコール・ビールは、色も泡立ちも本物そっくり

ドイツでブーム!健康志向の「新しいお酒」ノンアルコール酒

昼間からノンアルコール・ビールを楽しむ人も
昼間 ノンアルコール・ビールを楽しむ人たちも

ドイツ・ミュンヘン工科大学のヨハネス・シェル教授が行った研究。マラソン選手たちに競技前の3週間と競技後の2週間に毎日およそ1.5リットルのノンアルコール・ビールを飲用してもらいました。
すると実験後、選手たちは、炎症を示すマーカーの血中濃度が低いことが判明。ビールに含まれている「炎症抑制物質・ポリフェノール」の働きが、選手たちの体の回復を早め、さらに呼吸器の、感染症にかかるリスクを低下させたと見られます。つまり、ノンアルコール・ビールに含まれるポリフェノールが過酷な運動をする選手たちの免疫力の低下を防ぐ役割を果たしたというのです。研究者たちは、こうしたノンアルコール・ビールの健康増進作用は、体に害があるアルコールを抜いたノンアルコール・ビールだからこそもたらされたと考えています。

今やドイツにおいてノンアルコール・ビールは、健康志向の「新たな酒」としてトレンドとなっています。現在、1500ある醸造所のうち400以上でノンアルコール・ビールが造られ、売り上げも伸ばしています。さらに各地で製造技術の開発も進められています。通常のビールからアルコールだけを蒸発させる特殊な装置を開発し、ビール本来の風味や味わいを損なわずに本物と遜色ないノンアルコール・ビールを造り出しています。

アルコールだけを蒸発させる特殊な装置
アルコールだけを蒸発させる特殊な装置

ノンアルコールでも酔いの心地よさを感じる!?

日本でも近年、ノンアルコールのビールやカクテル、ワインなどが販売数を伸ばし、飲み会でもノンアルコール酒を選ぶ人が増えています。ノンアルコール・カクテルを飲む女性に話を聞くと、なんと「ノンアルなのに酔った気がする!」という声が。実は、最近の研究で、ノンアルコール酒でも実際に「酔いの心地よさ」を味わえることがわかってきました。

ノンアルコール・カクテルの女子会
ノンアルコール・カクテルの女子会

京都大学と酒造メーカーが共同で行った実験では、22名の男女にノンアルコール・ワインを150ml飲んでもらい、その後に感じた感覚や気分をアンケートで答えてもらいました。さらに、リラックスの度合いを示す自律神経の働きも装置で計測。その結果を、アルコールを含むワインを飲んだ時と比べると興味深いことがわかりました。被験者が感じた「高揚感」「楽しさ」の強さは、普通のワインよりと同様に、ノンアルコール・ワインを飲んだ後でも数値が上昇しました。

ノンアルコール・ワインの「高揚感」「楽しさ」は、普通のワインと同様の傾向を示した
ノンアルコール・ワインの「高揚感」「楽しさ」は、普通のワインと同様の傾向を示した

さらに自律神経の働きを見ると、普通のワインよりも、ノンアルコール・ワインを飲んだ時の方がリラックスしている可能性が示唆されたのです。ノンアルコールのビールやカクテルで行っても、結果は同じ。つまり、ノンアルコール酒でも、ほろ酔いと同じような気分の変化が起きていたのです。

ノンアルコール・ワインの「リラックス」の度合いは、普通のワインよりも上昇を示している
ノンアルコール・ワインの「リラックス」の度合いは、普通のワインよりも上昇を示している

ノンアルコール酒が呼び覚ます「酔いの心地よさ」

なぜ、ノンアルコール酒なのに「楽しさ」「高揚感」「リラックス」が上昇したのでしょうか?実験を行った龍谷大学の山崎英恵准教授によると、ポイントは、「脳の記憶」だと言います。お酒を飲み、酔いを経験した際、それを心地よいと感じると「酔いの快楽」が記憶されます。このためノンアルコール酒を飲んだ時に、本物そっくりの風味や味わいを感じると脳の中で、お酒を飲んだ時の心地よい記憶が呼び覚まされて「楽しさ」や「高揚感」が増し、「酔いに似た快楽」がもたらされると考えられるのです。

ノンアルコール酒でも脳が記憶した「酔いの心地よさ」が呼び覚まされる
ノンアルコール酒でも脳が記憶した「酔いの心地よさ」が呼び覚まされる

さらに、ノンアルコール酒だと「悪酔いしない」という安心感があるため、「リラックス」の度合いも上昇したと見られます。つまり、ノンアルコール酒で健康を気遣いながらも、酔いの心地よさをほどよく味わえる可能性があるのです。お酒に強い方も弱い方も、日常的にノンアルコール酒という選択肢をうまく取り入れて、お酒との楽しみを増やしみてはいかがでしょうか?

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル 放送
    食の起源 第4集「酒」 ~飲みたくなるのは“進化の宿命”!?~