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2007年3月1日

NHK経営委員会

放送法の改正に対する経営委員会委員の見解

 

 

1.経営委員会の機能強化(ガバナンス関係)

 

 昨年の8月3日に公表した「経営委員会委員の見解」でも述べたとおり、「NHKのガバナンスの在り方」については、民間企業等とは異なる公共放送事業の本来の在り方を十分踏まえた検討が必要である。
 即ち、経営委員会の監督機能や視聴者との結びつきの強化に向け、経営委員会を改革する際にも、元来、経営委員会に意図されてきた、「視聴者の利益・意見を代弁する視点から、NHKの公共性、中立性および多様性をチェック・確保する仕組み」を堅持することが重要である。
 そのためには、監督と執行の分離によって経営委員会とNHK執行部の役割・責任を明確化するとともに、経営委員会委員の独立性と多様性を確保することが肝要である。

 なお、経営委員会の責任・権限の範囲はNHK経営の重要事項に関する決定と会長以下執行部の監督等におのずと限定されるものと思われ、NHKのガバナンスを強化するには監督機関としての経営委員会の改革もさることながら、執行部の改革こそがより本質的かつ重要な課題であると認識している。

 以上が経営委員会委員としての基本的な考え方である。

 ついては、放送法の改正論議が政府・与党を中心に進みつつあることも踏まえ、報道等で知り得た限られた情報に基づくものではあるが、実際に経営委員会業務を遂行する当事者の視点から、以下のとおり、現時点における経営委員会委員の見解を述べることとしたい。

 

(1)経営委員会委員の一部常勤化について

 

 経営委員会委員の一部常勤化及び兼業の禁止については、必ずしも反対するものではないが、運用面で一定の配慮が必要と考える。即ち、全員が社外非常勤、よって兼業である現行体制と比較すれば、執行部との緊張関係が希薄になる虞なしとしない。また、常勤委員と非常勤委員との間で情報量の面で格差が生じ、合議機関である経営委員会の独立性と多様性を損なうとの懸念も否定しきれない。
 一部常勤化等は、ガバナンス強化の文脈から唱えられていると理解するが、重要なことは、経営委員会委員の主な役割は日常的な情報の収集・分析等により、収集された情報に基づき、重要事項を審議し判断・決定すること、執行部への実効性のある監督の在り方を検討・実施することにある、ということである。情報の収集・分析等の機能強化は、実働スタッフ部隊を整備強化する方がよほど効果的であり、今回の改正を機に、経営委員会事務局の機能の拡充・強化が図られることを期待するものである。但し、その際も事務局は、経営委員会委員の意向および問題意識に従って、視聴者の声ないし執行部の日常業務に関する情報を収集・分析すべきであり、その任務を十全に果たせるよう事務局の独立性を確保することも必要となる。

 以上のように、NHKのガバナンス強化のためには、経営委員会委員の独立性と多様性の確保が重要である。従って、委員の一部常勤化を適用する場合にも常勤委員は少数とし、常勤だからといって他の委員に比べて特別な権限が生まれないようにすることが必要であると考える。

 

(2)監査委員会の設置について

 

 監事の廃止と監査委員会の設置については、上場会社の委員会設置会社をモデルとして、経営委員会の監督機能を強化することが目的であると理解している。但し、監査委員は経営委員会の構成メンバーでもあるため、経営委員会と監査委員会の権限上の関係を明確にすることが必要である。
 監査委員固有の権限が過大なものとならないように、或いは過大に運用されないように措置するとともに、監査委員会はできるだけ社外メンバーを中心に構成することが望ましいと考える。

 

(3)経営委員会委員のメンバー構成について

 

 経営委員会委員の任命要件にある地区制限を緩和することについては、公共放送事業の特殊性や経営委員会が視聴者の利益・意見を代弁する機能を有することを踏まえれば、引き続き専門分野、地域、性別等のバランスを重視した任命が重要であると考える。地区制限を緩和しても地域性を踏まえた委員を安定的に任命することによって、メンバー構成の多様性を維持することが重要であると考える。

 

(4)経営委員会委員の処遇について

 

 経営委員会委員の責任の明確化や視聴者意向の一層の反映といった観点、さらには委員としてのこれまでの経験からは、経営委員会委員の任期の短縮(但し、再任は妨げない)を検討すべきと考える。また報酬についても、現行の日当方式は経営委員会委員の役割や実態に合致しない面があり、役割や職務に応じた年額ないし月額体系に改定することが望ましいと考える。

 

(5)経営委員会の運営方法について

 

 経営委員会が独立性と多様性を確保しつつ、時々の経営課題に、監督機関として機動的かつ柔軟に活動できるようにすることが重要である。そのためには、経営委員会の運営については、できるだけ、その自由度を委員会自身に委ねるべきであると考える。 
 従って、法に明記するのは経営委員会の役割や職責に留めることが望ましい。視聴者意向の反映に向けた施策・仕組みなど、具体的な職務行動に関する事項まで詳細に法や政省令で定めることは、委員会の独立性や多様性を確保する上での妨げとなる恐れがあるからである。
 経営委員会としては、その活動内容や議事内容をできるだけ速やかに公表することなどにより一層透明性を高め、視聴者への説明責任を果たすことが重要であると認識している。

 

(6)執行部の改革について

 

 NHKのガバナンス強化を果たすためには、監督機関である経営委員会の改革や機能強化と同様ないしはそれ以上に、業務執行の妥当性を高めるための執行部の改革や機能強化が、重要である。
 特に、視聴者第一主義を軸に、意思決定・業務推進・内部統制・説明責任(情報公開)といった組織活動全体に亘って、PDCAサイクルが徹底される自律的・主体的マネジメント体制を構築することが求められる。

 そのためには、縦割構造の弊害等も意識し、会長権限の適切な配分による理事の役割・責任の明確化と組織横断的な権限の強化などが必要と考える。
 加えて、トップによる改革への一貫したリーダーシップの発揮、視聴者第一主義に基づく行動規範の構築・浸透、そのためのオープンなコミュニケーションの推進等、組織風土の改革に本格的に着手する必要がある。

 なお、役員の責任の明確化や、組織風土にも影響するトップの長期在籍を回避し、緊張感のある執行体制を維持する観点から、会長、副会長、理事の任期を短縮する、さらには任期の終期を統一するといったことなども検討すべきであると考える。

 

 

2.受信料の支払い義務化等について

 

(1)受信料の支払い義務化について

 

 受信料の支払い義務の法定化については、非営利の公共放送を維持するためには、国民が広く均等に負担する受信料方式を取らざるを得ないということを確認する意味で、「支払い義務の明確化」に留まる限りは、受信料の性格を大きく変えるものではなく、また受信料の支払いの根拠を視聴者にわかり易く伝えることに繋がり、受信料の公平負担に一定の役割を果たすと考えられることから、必ずしも否定するものではない。

 但し、受信料の税金化に繋がるとの指摘もあり、NHKとしては、受信料制度の丁寧な説明による公平負担の実現とともに、国営放送ではなく、政治的な中立を保つという立場をより一層明確にしなければならない。また、コンプライアンスの徹底、情報公開の促進、受信料使途の合理性の確保、経営効率化の推進など、関連団体も含めた自らの改革を加速し、視聴者の理解を得ていくための一層の努力が必要である。

 

(2)受信料の値下げについて

 

 民事手続きの活用や支払い義務の法定化によっても受信料の支払い率や収入が短期間の内に大幅に改善されるとは考えにくい。一方で、NHKの財政は、依然として継続的なコスト削減が不可避であり、予断を許さない状況にある。 
 ガバナンス強化、組織のスリム化、契約収納活動費を含むコスト削減を進めながら、放送・サービスの質を守り、「NHKならでは」の放送の充実を目指す。現在は、こうしたことに役職員が緊張感をもって取り組むべき段階であると考える。
 もとより、NHKには受信料の適正かつ効率的・効果的運用を果たす責務がある。従って、受信料の具体的使途、料額根拠、収入見通し、個人・事業所を問わずより合理的かつ納得感のある受信料体系の在り方、さらには、今後の放送・サービス・技術開発の展望など、受信料に関する現状と今後の方向性について、視聴者に納得の得られる説明を行う必要がある。

 フルデジタル時代を目前にNHKの放送・サービスはどうあるべきか。NHKは視聴者にいかなる公共放送の価値を提供すべきか。
 受信料の値下げについては、こうした視点も加えて、視聴者にとって何が最も利益になるのかという観点から、視聴者の意向を十分に踏まえ、また視聴者の理解を得る努力を十分に尽くした上で、NHKが自主的・主体的に判断すべきであると考えている。

 

 

3.国際放送の強化

 

(1)新たな国際放送について

 

 世界に向けた日本発の情報発信や、在外邦人への情報伝達が重要であることは言うまでもない。昨年1月に発表したNHKの「3か年経営計画」でも述べたとおり、これらは公共放送の担うべき重要な役割であると理解している。
 従って、新たな映像国際放送の実施を含め、NHKブランドを活用し、国際放送を強化する方向については異論はない。但し、その財源・運営規模にはおのずと限界があるとも思われ、国際放送を強化する際の目的および、その優先順位を明確にすることが重要である。そうすることで、どこの、誰に、何を届けるのかが明確になるとともに、その目的が達成できているのか否かも明確にできるからである。
 なお、受信料をさらに投入する場合には、視聴者の意向を十分確認しながら進める必要があると考える。

 

(2)命令放送の見直しについて

 

 今回の見直しについては、これまでの制度運用の考え方を整理し、より明確にしたものと理解しており、命令放送制度を維持するとの前提に立てば、その適切な運用を期待するものである。
 いかなる形態であれ、NHKは公共放送として、自主的な編集のもと自主自律を貫き、その実績を重ねることにより、視聴者の信頼を得るよう努力することが重要である。

 

 

4.アーカイブスの利用(番組アーカイブのブロードバンドによる提供)


 アーカイブスは過去の受信料によって創出され、蓄積された成果であり、その価値の所有者は番組を作ったNHKではなく、公共放送という仕組みにあると考える。アーカイブスは、いわば国民的財産であり、これを利活用し、将来に継承し、放送文化の発展に役立たせていくことも、公共放送の重要な役割の一つである。
 今回の法改正は、一定のルールのもとで一層の利活用を図るものと理解しており、経理・会計基準の在り方も含め、新たな仕組みの創設に異論はない。視聴者が安心して利活用できる環境の整備に向け、著作権処理、無断転用等に関しても専門的視点からの検討が一層進展することを期待するものである。

 

 

5.放送法違反の場合の放送事業者に対する措置

 民放の番組捏造問題を契機に、虚偽報道等の放送法違反があった場合に、放送事業者に対し、再発防止計画の提出の求めを行うことができるよう、法改正を行うことが検討されていると聞いている。
 言うまでもなく、番組の捏造は放送の果たすべき使命・役割に照らし、あってはならない重大な問題である。
 再発防止に向け、放送界全体で取り組みを強化すべきであるが、何よりも重要なことは、放送事業者、放送界全体が自主的・自律的に対応し、問題を解決することである。法改正による行政処分の考え方は、表現の自由などの観点から、慎重に検討すべきと考える。

 

以上


日本放送協会 経営委員会


 

委員長 

石原 邦夫

関東・甲信越地区

 

 

 

東京海上日動火災保険社長

 

委員長職務代行者

梅原 利之

四国地区

 

 

 

四国旅客鉄道会長

 

委員

深谷 紘一

東海・北陸地区

 

 

 

デンソー社長

 

委員

武田 國男

近畿地区

 

 

 

武田薬品工業会長

 

委員

小丸 成洋

中国地区

 

 

 

福山通運社長

 

委員

保 ゆかり

九州・沖縄地区

 

 

 

オフィスピュア代表

 

委員

一力 徳子

東北地区

 

 

 

よろづ園茶舗常務

 

委員

小柴 正則

北海道地区

 

 

 

北海道大学大学院情報科学研究科長

 

委員

小林 緑

地区を通じて任命

 

 

 

国立音楽大学教授

 

委員

佐々木涼子

地区を通じて任命

 

 

 

東京女子大学文理学部教授

 

委員

菅原 明子

地区を通じて任命

 

 

 

菅原研究所所長

 

委員

多賀谷一照

地区を通じて任命

 

 

 

千葉大学法経学部教授