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平成20年2月12日


NHKのコンプライアンス体制確立に向けて

 

NHK第2次コンプライアンス委員会
委  員  長  八 田 進 二
委員長代行  牧 野 二 郎
委     員  甘 粕    潔
委     員  玉 井 裕 子
委     員  藤 沼 亜 起


はじめに

 NHK第2次コンプライアンス委員会(以下、当委員会)は、経営委員会より、「コンプライアンス体制強化に向けてのガバナンスのあり方」と「内部統制システムの整備・運用状況に関する評価」について諮問を受けた。当面、平成20年2月12日開催の経営委員会までに提出を求められているものは、「現在あるコンプライアンス関連組織中、重複するもの、非効率的なものがあれば、それの指摘、およびその改善策についてのアドバイス」という諮問に対する中間答申である。
 今回、中間答申をとりまとめるに当たり、当委員会としては、コンプライアンス関連組織のあり方についての提言は当然ながら、加えて、昨年9月に執行部案の5か年経営計画を経営委員会が承認しない判断を行った際の見解中に示された「より効果的なコンプライアンス体制を確立するため、より実効性のある施策を示すべきである」との指摘も踏まえ、NHKのコンプライアンス、内部統制およびガバナンスに関する施策に関して、早急に実施または軌道修正、あるいは特に留意すべきと思われる事項を取り上げ、以下の4章にわたり提言としてまとめた。
 なお、本答申をまとめるに当たり、当委員会が認識した基本的な問題事項ないしは考え方について、「おわりに」において、特に強調すべき4点を明示している。

 1章 コンプライアンス推進活動と組織のあり方
 2章 内部統制システム構築に当たっての基本姿勢と留意点
 3章 ITに係る全般統制の取り組みの強化
 4章 改正放送法による新しいガバナンス運用上の課題

 

1章 コンプライアンス推進活動と組織のあり方

(1)総 説
 平成16年7月の不祥事発覚以来、NHKはさまざまなコンプライアンス 施策を実施するとともに、組織・業務体制の見直しを行ってきた。その結果、金銭に関わる不正については一定の抑止効果も表れつつある。しかしながら、円滑な情報伝達を妨げるような縦割り構造ないしはオープンさを欠いた組織風土の根本的な改革はいまだ進んでいるとは言い難い。また、このような中で、業務の重複の発生、あるいは上位組織から下位組織に対して発せられる指示の多さもあって、現場に混乱が生じているとの指摘についても重く受け止めなければならない。
 コンプライアンスの推進は、言うまでもなく、単に形式的に法令を遵守することではなく、役職員一人ひとりが遵守すべき法令や関連規則等の趣旨および目的、並びに、それにより保護される公益や関係者の利益を正しく理解したうえで、それらが求める要請に適正に対応していくことで、はじめて達成されるものである。これまでの施策のフォローアップはもちろん、PDCAサイクルによる業務管理の徹底を図るとともに、不必要な重複や非効率な業務を見直し、効率的かつ実効性ある組織体制に改めることにより、経営管理の実効性を高めるべきである。

(2)現状における課題と取るべき改善の方向
 平成16年7月の不祥事発覚直後の9月に、コンプライアンス活動と適正化施策を総合的に推進するため、新たな組織として「コンプライアンス室」が設置された。また、17年4月には、NHKの適正経理の一層の推進および全国経理審査業務に関する指導・支援を目的として、既存の経理局の財務部(審査)グループが改組されて「中央審査センター」が設置された。さらに、19年6月には、これまでのコンプライアンス施策を包含・整理するとともに、NHKの内部統制システムの構築を目的として、NHK内の各部門(職種)のメンバーにより構成される「内部統制推進プロジェクト」が設置された。このほか、コンプライアンスに関連する業務を担う組織として、業務・経営全般の内部監査を担当する「監査室」、NHKの情報セキュリティを担当する「総合企画室〔情報システム〕」、コンプライアンス関連研修を含む人材育成を担当する「人事総務局労務・人事室」がある。また、放送法の定めにより、NHK執行部の業務の監査を担う「監事」が設置されている。
 このように、現行のコンプライアンス施策については、それぞれの組織が独立して施策を実施しており、取り組みの全体像、方向性、態勢、位置づけおよびスケジュール等が明確になっておらず、個々の施策が整合する形で、適切かつ有効に機能しているとは言い難い。

1組織の責任体制

【課 題】

  • 監査・コンプライアンス統括担当理事、内部統制・労務人事・財務・経理担当理事、および情報システム・セキュリティ担当理事が、それぞれにコンプライアンスに関係する任務を担当しており、NHKとしてのコンプライアンス施策全体を推進・統括する責任体制が一元化されていない。
  • 本年4月1日施行の改正放送法で「協会の業務の適正を確保するために必要な体制の整備」が経営委員会の議決事項とされている主旨を体して、これまでのNHK内のコンプライアンス推進、内部統制構築の組織・体制を見直す必要がある。

【改善の方向】

  • 組織としての最終責任の所在を明らかにし、コンプライアンス推進における責任体制を一元化し、実効性あるコンプライアンス推進体制を確立すべきである。とりわけ、執行部に身を置く経営トップの姿勢や日常の言動が、他の役職員に多大な影響を与えることを深く肝に銘じるとともに、率先垂範の取り組みを全社的に示すべきである。
    これまでコンプライアンス施策の包含・整理も含め、内部統制システムの構築は、「組織」ではなく関係部局横断のプロジェクトが担っているが、コンプライアンスの推進と内部統制構築に関する業務は、本来、密接不可分のものであり、さらにリスクマネジメントの観点を加えて、NHKにおける業務の円滑な流れおよび責任体制の明確化のためにも、担当役員の一人制にあわせて統合・一元化を目指した専任組織を早急に設置すべきである。これについては、改正放送法の施行までに整備するのが望ましい。

2コンプライアンス研修

【課 題】

  • コンプライアンス関連の研修や啓発のための会議が別個の組織で実施されており、実施にあたっての指揮命令系統、研修の実施・検証が一元化されていない。具体的には、コンプライアンス室による職員の意識啓発を目的としたもの、人事総務局労務・人事室が人材育成の一環として実施するもの、総合企画室〔情報システム〕が情報セキュリティの意識向上のために実施するものなどがあるが、これらの関係、ないしは、役割の違い等が明確になっていない。

【改善の方向】

  • コンプライアンス関係の「研修」については、関連部署の連携のもとに人事総務局労務・人事室が一元的に実施すべきである。
  • 不適切なテーマ設定や「詰め込み式」による研修には自ずと限界があり、コンプライアンス推進への反発という逆効果を生む危険性がある。啓発型の座学中心の研修も重要なことではあるが、職種、職責、年齢に応じて目的を明らかにするとともに、ケース・スタディの採用などにより、各職員の主体的な参加を促す工夫もすべきである。研修には反復も必要であるが、過去に実施した研修の検証を適切に実施し、受講者の感想や意見を反映させつつ、関連部局がイニシアティブをとり、研修の効果があがるような工夫を凝らすべきである。

3監査、審査体制

【課 題】

  • 監査室による内部監査、経理局中央審査センターの指示に基づく各部局での経費のモニタリング活動など、業務の事後審査(監査)として外形的には同一とも見える作業が行われている。
    これまでは、経理局中央審査センター(各放送局経理部門)が行う事前審査、監査室が事後に行う内部監査という業務の棲み分けがされていたが、一連の経理不祥事を受けての審査強化のため、経理部門による経費のモニタリング活動が付加されたことによって、一時的に業務が重複し、現場の負担が増えた面も見られるが、今後は、これを整理・簡素化していくことが必要である。
  • とりわけ、システム化の導入による業務の適正管理の確保という効果を生かす対策や、そのことによる省力化、効率化が考慮されずに従来の監査体制を維持し、変更しないという姿勢には問題がある。
  • 不祥事を契機に開始されたモニタリング活動における「勤務」と「タクシー利用」のチェック等は、膨大なデータ等に基づく作業であり、あまりにも煩瑣なもので、継続的な実施が可能なのか大いに懸念される。

【改善の方向】

  • 監査(審査)体制の万全と効率性を両立させる手法・仕組みを再構築すべきである。二重、三重のチェック体制そのものの必要性は認めるものの、膨大なデータ等に基づくチェックないし、モニタリングは、業務を煩瑣、複雑化させるものであり、その継続性に懸念を抱かざるを得ない。システム化を含め、有効な監査(審査)体制を構築することが必要と考えられる。また、適正なリスク評価を行い、緊急度および重要度の高いリスクを選別し、それに相応した措置を、優先順位をつけて講じる必要がある。
  • 今回の放送法改正に伴う組織変更を機に、これまでの本部担当部局(窓口)を整理・一元化し、責任体制を明確にすることが必要である。そのうえで、経費申請の内容チェックや勤務との整合性および適正性の確認等については、「新業務システム」を軸に簡素化を図り、各現場が適正かつ継続的に取り組める体制とすべきである。また、監査室は本来の役割である、より広い視点に立った独立的な立場からのモニタリングによる業務監査に重きを置くことを模索すべきである。
  • なお、内部監査の強化にあたっては、法定機関である監事との密接な連携作業、あるいは監事のサポート業務の強化という観点で議論を進めるべきである。 また、改正放送法の下で「監事」に代わる機関として設置される、経営委員により構成される「監査委員会」と監査室との関係や連携のあり方についても、今後の新しいガバナンス構造を踏まえ早急に検討しておく必要がある。
  • 監査室が行う内部監査により課題が発見された場合には、業務に関連する組織間による連絡会等が随時開催され、情報の共有と課題への対応策について検討がなされている。これは、今後も引き続き実施すべきである。

4関連団体を含めた施策

【課 題】

  • NHKでは、番組制作をはじめとして個人情報管理などを含め重要な業務を関連団体に委託していることから、NHK本体にとっても相当に大きなリスクを抱えている。しかし、関連団体を含めたNHKグループ全体としてのコンプライアンス対応が十分になされていない。
  • 各関連団体は、設立の経緯、業務内容、社員(職員)構成等が異なっており、これまでは、それぞれの事情に応じて、別個の事業体として団体ごとにコンプライアンス徹底の施策に取り組んできている。また、NHK本体として、各関連団体に対して、様々な通知文書の発信に加え、団体トップへの個別説明や意見交換も行われているものの、講じられた措置等に対する事後的検証に脆弱性があることは否めない面がある。その結果、各団体任せとなり、NHKグループ全体としてコンプライアンスや内部統制に取り組もうとする意識が十分醸成されてきていないとの懸念も残っており、組織的一貫性がないといった問題を生じている。

【改善の方向】

  • 関連団体を含めたNHKグループ全体としてのコンプライアンス施策および体制の構築を図ること。
    NHKの事業運営そのものが関連団体に大きく依存していることからすれば、関連団体を含めたリスク管理は重要課題の一つである。例えば、不祥事があれば、NHK関連団体の関係者が起こした事案でも「NHKが問責される」ことになりがちである。NHKグループ全体が連携をとり、共通の事業体として取り組むという意識を醸成することにより、強固な組織体制を構築すべきである。

5内部通報制度

【課 題】

  • NHKでは、平成16年9月コンプライアンス室設置とほぼ同時に、コンプライアンス通報制度規程が制定された(関連団体規程は平成16年11月制定)。しかし、通報件数、内容、改善対応等についてはNHKの執行部内部に公表されておらず、また、経営委員会に対しても報告されていない。

【改善の方向】

  • 内部通報制度は社内の不正行為を適時に発見、あるいは、未然に防止するための有効な機能を有している。このため、通報の内容と発生問題の原因、改善対応策を積極的に公表し、職員・関係者間で情報を共有化することが必要である。また、通報内容やそれに対して講じた改善内容等をモニタリングするため、適時に経営委員会に報告すべきである。
  • 内部通報制度に対する職員の安心感、信頼感を高め、制度の実効性を向上させるために、「コンプライアンス通報制度規程」の内容を通報者の立場に立って見直す必要がある。例えば、第5条には「通報は、客観的で合理的根拠に基づいた誠意あるものに限るものとし、」とあるが、公益通報者保護法では、事業者内部(内部窓口)への通報については「本人が思料する」つまり主観的にコンプライアンス違反があると判断する場合は保護の対象となり、「客観的で合理的根拠」は要さない。通報に対する心理的な圧迫感を払拭するためにも、再検討すべきである。

 

2章 内部統制システム構築に当たっての基本姿勢と留意点

(1)総 説
 内部統制は、その呼称からも、本来意図する目的が理解されない場合には、現場等で拒絶反応が生じる可能性もある。したがって、本来は、健全な経営管理のための有効なツールとしての意味を有するものであり、適切な内部統制を確立することで円滑な業務運営に資することになるとの理解を持つとともに、全役職員の意識改革へと繋げるべきである。ともすれば、NHKは事業体として特別な存在であり、内部統制そのものがなじまないとの意識も持たれがちであるが、本来、内部統制は健全な経営管理そのものであり、事業内容のいかんを問わず、すべての事業体に適用されるべき仕組みないしはプロセスと認識すべきである。とはいえ、一方で、内部統制を実効性の高いものにするためには、公共放送という業務形態にあわせてシステムを構築する必要がある。その意味でも、NHKの場合、その特質ともとらえられる部門間障壁の高い縦割り構造を打破して、風通しのよい横断的かつ民主的な組織としての整備を行うことが、内部統制システムを機能させるための大前提となる。

(2)現状における課題と取るべき改善の方向

1組織風土

【課 題】

  • 組織の縦割り構造が強いことは、当該専門業務が特定の個人に依存しているということでもあり、業務を適切に管理すべき内部統制全体の責任者がわかりにくいという側面がある。そのため、内部統制の責任者が業務全体を俯瞰できないことから、十分な統制を実施できないリスクも発生し得る。
    業務プロセスの「見える化」ないしは「文書化」により、業務プロセスの可視化が期待されているが、前述のとおり、NHKの業務は特定の個人によって業務運営がなされるという属人的色彩が強いことから、職員が「自分の業務は独特で他の人にはわかりにくい、または、自分しかできない」との考えから脱却できず、そのこと自体が腐敗につながる土壌となる恐れがある。そうした風土の中では、業務を中心とした経営管理を念頭に置くCOSOの考え方による内部統制の考え方は、基本的に浸透しにくく、組織全体の有効かつ効率的な業務運営には貢献できない恐れがある。

【改善の方向】

  • 経営トップの意向を十分に理解してもらうために、トップがリーダシップを取り、各現場における生の声を汲み上げるなど、組織内において十分かつ円滑なコミュニケーションを図れるような健全な内部統制環境を築くとともに、NHKの業務に見合った適切な内部統制システムを構築すべきである。
  • 内部統制は、単にコンプライアンスの推進に留まらず、組織としての使命を達成するため、経営トップの意向を十分に浸透させることが極めて重要である。研修等の活用により、職員および関係者の理解度を高めることも含め、さまざまな工夫や粘り強い啓発活動を繰り返していくことが有効な内部統制整備の土壌となる。COSOの内部統制の枠組みを基本とする場合にあっても、すべての事業体に共通する一律的な基本ルールを堅持しつつ、NHKの業務に見合ったシステムを構築すべきである。
  • 組織横断的な環境整備を行うため、部門間障壁となっている縦割り構造の課題の洗い出しを徹底的に行い、適切な改善策を導き出すべきである。内部統制システムの構築は、独立した個々の組織が個別に取り組むのではなく、全社的な視点からの取り組みが必須となる。そのため、組織間および職員間の風通しを円滑にし、自由にものが言える民主的な環境整備を行うことが重要である。

2関連団体を含めた統制

【課 題】

  • 関連団体を含むNHKグループ全体の内部統制システム構築については、コンプライアンス委員会発足時の初期の段階から、多くの懸念が示されているものの、ほとんど検討がなされていない。
    一般企業では、通常、内部統制の検討は、連結ベースで全社的に進められるが、NHKの計画によれば、関連団体を含めた検討は2年目以降に予定されており、初期の段階では関連団体との連携が全く取れていない。2年目以降の検討着手では、ゼロからの見直しとなることが予想され、無駄な取り組みとなる恐れがある。
  • 少なくとも、現在なされている内部統制システムの構築は、個別の業務プロセスにおける個別の対応(経理関連の中での伝票の処理や出張旅費の管理等)に限定されており、総合的施策として検討されてはいない。したがって、進行中の作業については、相互の関係が明確にされていないため、各業務プロセスにおいて相互の合理的連携が確保されているか、また、重複や無駄がないかの点検ができない。

【改善の方向】

  • 内部統制システムの構築にあたり、関連団体を含めたNHKグループ全体としての検討を最優先させるべきである。
    NHKの業務は、番組制作をはじめとして、多種多様な業務が関連団体に業務委託されている現状から考えれば、関連団体を含めた検討を後順位にするのではなく、リスクの高い関連団体があればそれを最優先にして検討を進めるなど、計画の軌道修正を早期に図ることが必要である。改正放送法においても、「NHKと子会社を企業集団として内部統制システムの構築をすべきこと」としていることから、法的にも、また、社会情勢からの観点から見ても、NHKグループとしてリスクのあるまたは後れている部分を最優先にし、重点的に取り組むことが喫緊の課題と言える。

 

3章 ITに係る全般統制の取り組みの強化

(1)総 説
 NHKにとってITに係る全般統制(以下、IT全般統制)の強化は、必須かつ喫緊の課題としてとらえなければならない。「平成18年度〜20年度 NHK経営計画『NHKの新生とデジタル時代の公共性の追求』」(平成18年1月)においても、デジタル時代に対応するための諸施策が提示されているが、それらの多くがITに深くかかわるものと言える。
 テレビのデジタル化や通信と放送の融合が進む中、NHKは全国のネットワークを生かしながら、地域の様々な情報を、その地域だけでなく、全国に向けて積極的に発信するとともに、デジタル技術を活用した新しいサービスの開始など、デジタル時代に対応する体制を作るとしている点からも、IT全般統制を明確にすることは避けて通れない。
 また、様々な分野の業務が関連団体等により支えられるNHKグループにおいては、NHK本部、各放送局、各子会社など相互のデータの交換が必須となり、ネットワークによって結ばれ、高度なIT利用を前提とする以上、関連団体を含めたNHKグループ全体のIT全般統制に万全の体制をしかない限り、コンテンツの流通、アクセス制御などの確保はおぼつかない。
  さらに、NHKでは、視聴者サービスの一環として、受信契約者を対象に番組関連情報の提供など、インターネット会員サービスの検討が進められているが、その実施に当たっては、ネットワークの安全な確立に留まらず、コンテンツの流通および情報管理など体系的なIT全般統制を確保しなければ、その実現も心許ないものと言える。
 そのほか、インターネット網を利用した様々なサービス提供の検討も進められおり、多様なコンテンツが作成され、それらを流通、活用して各家庭に配信する仕組みを確立するためには、安全なコンテンツの流通システムの確立とともに、それにアクセスする視聴者情報の安全確実な管理が必要となる。インターネットの利用は、便利である反面、それと同等の危険性を有することを認識しなければならない。
 こうした状況の中、IT全般統制に関する基本方針およびその実施に関して的確な対応が求められていると考えられるが、現状では、NHKグループ全体の取り組みとして、極めて大きな課題があると言わざるを得ない。

(2)現状における課題と取るべき改善の方向

1内部統制におけるIT全般統制の位置づけ

【課 題】

  • 現状では、IT全般統制の基本方針の決定および政策判断が適切に行われていない。抽象的レベルでの方向性は示されているが、NHKとして、どのようなIT戦略を持つのか、IT全般統制をどのようにとらえ、どのように進めるかについて検討がなされていない。
    内部統制推進プロジェクトが進めている内部統制システム構築の検討においても、IT全般統制については十分に検討されていないどころか、ほぼ完全に欠落している。加えて、内部統制全体の仕組みの中で検討がなされない以上、統一性を持った対応は不可能であるとの理解がなされていないことも等閑視し得ない問題である。

【改善の方向】

  • 会長の責任のもと、IT全般統制を推進するための戦略を明確にするとともに、職員のインターネット利用および放送局や外部ネットワークの利用などについての総合的な政策判断を行うべきである。
  • 現在、検討が進められている内部統制システムの構築にあたっては、全社的な視点からのIT全般統制の位置づけが不明確であることから早急に見直しを行って、有効なIT全般統制を構築する必要がある。

2IT全般統制の統一的検討

【課 題】

  • NHK本体におけるIT対応の統一的な検討がなされていない。
    NHK本体に限った場合においても、本部(放送センター)、関連施設、各放送局、各担当部署などで、どのような情報処理があり、どのようなネットワークの構築が必要か、あるいは、外部ネットワーク(インターネット公衆回線)でよいのか、総合的なLANの構築が必要なのか、また、それぞれがどこまで整備され、どこに問題があるのかなどが明確にされていない。
  • ファイルサーバをはじめとする、各種サーバの設置、関係者のアクセス制御の基本方針などが明確になっておらず、統一的検討もなされていない。
  • 現在、大容量のデータ等の受け渡しに対応するために、ファイルサーバ構築が進められているが、それが、内部統制あるいはIT全般統制とどのように関連するのか、また、関連団体相互、NHK本体と関連団体との間のファイルサーバの利用関係も十分に検討されていない。さらに、NHKのネットワーク構築の基本的な方針が定まっていないことから、子会社等関連団体とのネットワークやシステムの連携および他のネットワークとの関係も明らかにされていない。

【改善の方向】

  • 内部統制推進プロジェクトの実施体制上の位置づけについては、例えば、会長直下に置くなどの方法により、IT全般統制を含む総ての決定が職制上有効に機能するようにすべきである。
    現在、分散しているIT関連の対応機能(情報システム関連部局等)を集約するとともに、IT全般統制のあり方やインフラ整備を含めたシステム全体の検討を行うべきである。

3NHKグループ全体のIT全般統制および情報セキュリティ

【課 題】

  • 子会社など関連団体を含めたNHKグループ全体のIT全般統制の検討が進んでいない。
    子会社等関連団体のIT全般統制の概要が把握されておらず、通達、連絡レベルでの対応で済まされているに過ぎず、IT全般統制および内部統制対応が機能しているとは言えないのが実情である。IT全般統制に関する限り、現状では、放送法の求めにも応え切れていないと言わざるを得ない。
  • また、情報セキュリティ事故への対応が十分ではない。
    子会社であるNHKエンタープライズの情報漏えい事故の原因究明の内容や対応策を見る限り、同様な事故の再発が防止できるとは言い難い。
    NHKエンタープライズ情報漏えい事件の本質は、委託者と受託者の間のファイルの共有に関連する設定ミスが表面的原因であるが、その本質は、委託・受託の関係の制御がなされていないこと、情報へのアクセス制御の方法が定められておらず、担当者任せになっていることやNHK外部のプロバイダのサーバが無原則的に利用されるなど、一般の企業ではあり得ない方式となっていることが原因である。こうした事故は5年ほど前に他の企業でも頻発したため、その後、多くの企業では体制が整備され、現時点では目立つものは起きていない状況になったとの背景がある。
    こうした初歩的な制度設計のミスがあることから、その根本的な問題を認識することなく、担当者の注意喚起のみを強調しても、同様な事故の再発防止はできない。これもIT全般統制の視点を欠いたことによるものと考えられる。

【改善の方向】

  • 子会社・関連会社のIT全般統制を実施するため、各社のIT責任者を巻 き込んだ徹底的な点検を実行し、子会社等関連団体全体を包含するIT全般統制の協議を進め、新たな計画の決定と実施が求められる。

 

4章 改正放送法による新しいガバナンス運用上の課題

 19年12月に可決成立した改正放送法では、経営委員会の権限強化を明確にするとともに、その役割についても具体的に明示されている。
 これは、会社法で規定する委員会設置会社に類似するガバナンス体制の構築を求めるものであり、現行の監事制度の廃止、並びに、これに代わる経営委員からなる監査委員会の設置に変更されるとともに、監査委員会は執行部の業務に対する監査のみならず、経営委員自身をも監査の対象とされるということは特筆に価することである。

【課題】

  • 監査委員会の業務の適切な遂行に際しては、経営委員会からの監査委員会の独立性の確保とともに、監査室スタッフの充実と監査室による監査委員会に対するサポートなどが課題となる。

 

おわりに

 本答申における提言ならびに課題をまとめるに当たって、当委員会が認識した基本的な問題事項ないしは考え方について、最後に、次の4点を特に強調しておきたい。
第1に、NHKではこれまで、コンプライアンス体制整備、内部統制システム構築および情報セキュリティ対策のいずれにおいても、まずNHK本体での実施を優先させ、関連団体は後順位とする傾向が見てとれるということ。しかし、内部統制システム構築ひとつをとっても、一般の事業会社等においては、最初から企業集団としての連結対象会社全体で取り組むのが趨勢になっていることに加え、改正放送法では、経営委員会の権限としての議決事項の中に「協会(NHK)およびその子会社から成る集団における業務の適性を確保するための体制」が盛り込まれた趣旨からしても、これまでのNHKの対応については早急に軌道修正されるべきである。コンプライアンスやIT全般統制を含む今後の内部統制システムの構築は、NHKグループ全体で一体的かつスピーディに取り組んでいく必要がある。
第2に、最新の情報に関わる業界でありながら、NHKの場合、統一的かつ包括的な、IT全般統制を念頭においた内部統制システムの整備が十分になされていないということ。当委員会の審議途中において発覚した、職員によるインサイダー取引疑惑の問題は、情報セキュリティ対策の基本が欠落していたことを示すもので、まさに、当委員会が抱いていた危惧が現実となったものと言わざるを得ない。したがって、NHKのコンプライアンス体制の強化に向け、IT全般統制の全面的見直しを早急に図らなければならない。
第3として、NHK職員によるこれまでの様々な不祥事のほとんどは、入社間もない者によるものというよりも、中堅ないしは中間管理層に位する立場の職員によるものであるとの特徴が見られるということ。本来であれば、NHK改革の旗手となることが期待される世代の者でありながら、視聴者の信頼を裏切り続けてきているということから見て、もはや、通り一遍のコンプライアンス研修ないしは啓もう活動では、対処できない側面もあるものと思われる。したがって、全役職員が対象となって実施されたとNHKが標榜する「視聴者活動」の実態について詳細なレビューを行うことで、役職員の行動様式についての検証を行うことが求められる。加えて、関連団体等を含むNHKグループにおける経営トップのリスク感覚について、早急に検証することが求められる。
第4に、従来、NHKのコンプライアンス推進活動においては、平成16年7月に発覚した金銭不祥事以来の経緯から経理面の不正防止の面が強調されてきたということ。しかし、現在進められている内部統制システム構築においては、「NHKの使命を果たしていくうえでのリスク全体に対処するという意味での法令等の遵守」「業務の重複等の排除による経営資源の効果的活用」「意思決定の仕組みや業務プロセス、組織体制を明解なものにすることによる現場の活性化とモチベーションの向上」と、その対象を広くとらえている点は特記に値する。そもそも内部統制とは、少なくとも日本においては、企業経営者が自らの経営責任を適切に履行し、かつ、最大限の成果をもたらすための経営管理そのものであることに思いを致せば、その対象を金銭不祥事に限らず広くとらえる考え方は妥当である。内部統制システムを形式に終わらせず有効に機能させるために、今後とも、このような考え方をさらに発展させ、実効性の高いものとしなければならない。

 

【付記事項】

 本中間答申の一部内容(関連団体を含むNHKグループとしてのコンプライアンスの取り組み、および、アーカイブス・オンデマンド推進室の位置づけ)について、執行部に対するヒアリングや意見聴取における時間的制約等もあり、報告書における記述に不十分ないしは不正確な点が確認できましたので、ここに、中間答申の当該個所を一部修正したものを差し替えて公表いたします。

(平成20年4月10日)