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世界の人口が80億人に

出石 直  解説委員

世界の人口がきのう15日に推定で80億人に達しました。
食料や水、エネルギーなどに限りがある中で、地球はこの人口増加に耐え続けることができるのでしょうか?80億人が暮らす地球の将来と課題について出石 直(いでいし・ただし)解説委員とともに考えます。

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Q1、以前、人口が70億人になった時に取材しましたが、もう80億なのですね。

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A1、19世紀の初頭には10億人程度だった世界の人口は、20世紀に入って急速に増え始めました。1960年には30億人、1987年には50億人、2010年に70億人を超え、国連の推定ではきのう15日に80億人に達したとみられています。

Q2、それだけ平均寿命が伸びてきたということでしょうか?

A2、農業革命や産業革命によって生産性が向上し、医療技術や保健衛生も発達しました。そうした進歩によって、19世紀の初頭には10億人しか暮らせなかった地球に8倍もの人が暮らせるようになった。人類が生きられる可能性が8倍に増えたと捉えることもできると思います。

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中国とインドの人口はすでに14億人を超えていて、来年2023年にはインドの人口が中国を抜いて世界でもっとも多くなる見通しです。続いてアメリカの3億人あまり、インドネシア、パキスタンの順となっています。

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世界の人口は1日に20万人、1分間に140人のペースで増え続けていて、このまま増え続ければ15年後の2037年には90億人、2058年には100億人に達する見通しです。

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ただすべての国で人口が増えているわけではありません。
国別の人口増加率です。濃い色で示されている人口が急増している国はアフリカに集中しています。人口が減少に転じている国も多く世界全体の人口の伸びは鈍ってきています。

Q3、アジアやアフリカでは人口増、先進国では人口減、世界の人口は二極化しているということですね。こうした人口の変化は社会にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

A3、人口が増えれば働き手が増え個人消費も活発になります。これによって経済成長が期待されます。「21世紀はアジアの時代・アフリカの時代だ」と言われているのは、人口増加による経済規模の拡大を期待しているからです。

一方で急激な人口増加は、食料や水、エネルギー、住宅といった生活に欠かせない資源の不足を招くおそれもあります。

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▽国連によりますと、世界では8億2800万人、10人に1人が飢餓に直面しています。
(The State of Food Security and Nutrition in the World 2022)。
▽安全な飲料水が入手できない人は22億人、毎日700人以上の子どもが不衛生な水が理由で死亡しています。 (WHO, UNICEF)

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▽人口の増加に伴って2050年頃には世界の人口の3分の2(68.4%)が都市部に住むようにあると予測されています。 (World Cities Report 2022)
交通渋滞、大気汚染、ゴミの増加などが深刻化し、公共サービスが受けられないスラムに住む人は2030年には20億人に達すると予測されています。(UN-HABITAT)

これから急激に人口が増えると予想されている途上国では、このような問題が心配されているのです。

Q4、一方、人口が減ってきている国々はどうなのしょうか?

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A4、こちらも深刻です。ひとりの女性が産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率です。1950年には全世界平均で5.0でしたが2021年には2.3にまで下がっています。なかでも日本は1.30、韓国は0.81と極端な少子化が進んでいます。
世界の人口の3分の2は、出生率が2.1未満の国や地域に住んでいて、国連は「この傾向が続けば2050年までに61の国と地域で人口が1%以上減少する」と予測しています。
少子化に伴う高齢化も進んでいます。65歳以上の割合は2022年には10%でしたが、2050年には16%と6人に1人が65歳以上になると予想されています。

人口が減ってきている国々では、労働力人口が減りマーケットも縮小して経済の停滞を招くおそれがあるほか、急増する社会保障費をどうやって負担していくのかという問題に直面することになります。

Q5、途上国では人口が増え、先進国では減ってきている。そんな中で80億人が安心して暮らしていけるためにはどうすれば良いのでしょうか?

A5、国連人口基金という人口動態の調査や途上国への支援を行っている国連の機関の事務局長に聞きました。

(国連人口基金ナタリア・カネム事務局長)
「子育てに苦労している貧困家庭、紛争によって避難を余儀なくされている何百万人もの人々。気候変動による災害の増加。私たちは今、社会的、経済的な不平等が蔓延する時代に直面しています。すべての人々が繁栄を享受するためには、人口の変化によってもっとも影響を受ける弱い立場の人達に手を差し伸べていかねばなりません」

Q6、不平等が蔓延している時代だというご指摘でしたね。

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A6、世界の平均寿命は1990年(64.0歳)から7歳延びて2021年には71.1歳になりましたが、アフリカのサハラ砂漠以南の国々では59.7歳、世界平均とは11歳、日本の84.8歳とは25歳もの開きがあります。

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5歳未満で亡くなる子どもは、世界平均では1000人あたり37.1人なのに対し、サハラ以南のアフリカでは71.9人と2倍近くに達しています。(2021年)

国連人口基金によりますと、人口が急増している途上国では、労働力を得るために本人の意思とは無関係に10代で妊娠、出産する母親が多く、1日に800人の妊産婦が命を落としています。その95%はアフリカとアジアの途上国の女性です。妊産婦が死亡する割合は途上国では先進国の175倍にのぼり、シエラレオネやアフガニスタンでは7人に1人が妊娠や出産が原因で亡くなっています。(UNFPA)

Q7、80億人というのは多すぎるということなのでしょうか?

A7、数の問題ではないと思います。不平等が解消して、すべての人が食べ物や安全な水を得ることができるようになるのであれば、90億、100億人になっても、問題はありません。しかし、食べ物も水も得ることができない、望まない妊娠をしてたくさんの子どもを産み、命を落とすような母親がこれからも増え続けるのであれば、80億人でも多すぎるということになるでしょう。大切なのは「数」ではなく、ひとりひとりの生活の「質」だと思います。46億年前に誕生した地球は今、80億人というかつて経験したことのない人口を抱えるまでになりました。しかしその地球が私達に与えてくれる資源には限りがあります。
不平等を解消し、ひとりひとりが人間らしく安心して暮らしていけるような社会にしていくことが、これからの世界には求められているのではないでしょうか。


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出石 直  解説委員

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