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「パンデミックと選挙 民主主義を守るには」(キャッチ!ワールドアイ)

出石 直  解説委員

新型コロナウイルスによる感染の拡大が続く韓国で先週、国会議員を選ぶ4年に1度の総選挙が行われ政権与党が圧勝しました。投票所では事前に徹底した消毒が行われ、感染して入院中の人にも郵便による投票が認められました。一方、政府が外出の自粛を呼びかける中で先月行われたフランスの統一地方選挙では、投票率が前回より20ポイント近くも下がり、翌週に予定されていた2回目の投票は中止に追い込まれています。
感染拡大と選挙、各国の選挙への影響と対策について考えます。

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ここからは出石 直(いでいし・ただし)解説委員とお伝えします。

【韓国総選挙】
Q1、韓国の総選挙はかなり投票率が高かったそうですね。

A1、66.2%、4年前に較べて8ポイント以上も高く近年にない高い投票率でした。
新型コロナウイルスへの対応や経済対策が争点になっていましたので、▽選挙への関心は高かったこと、▽2年後の大統領選挙の前哨戦ということで選挙戦が盛り上がったこともありますが、投票所で感染が広がらないよう徹底した対策が取られたことも投票率が上がった要因ではないかと思います。

Q2、どんな感染防止策が取られたのでしょうか?

A2、▽全国に1万4000以上ある投票所を事前に消毒し、投票日まで一切の立ち入りを禁止しました。▽投票日当日は、入口で手の消毒、使い捨ての手袋が配られ手袋をしたまま投票しました。▽体温検査で37.5度以上の熱があった人は別室で投票を行いました。さらに▽感染して入院している人には郵便による投票が認められ、▽濃厚接触者や海外からの帰国者は一般の投票が終わった後、指定された時間に投票を行うという特別措置もとられました。感染が広がる中での選挙は日本国内でも世界各国でもいくつか行われていますが、全国規模での選挙を予定通り行い、投票率も高かったということで、世界的にも注目されました。

Q3、選挙というと有権者と握手をして支持を訴えるというのが通常の姿ですが、運動の仕方にも変化はあったのでしょうか?

A3、選挙戦が始まった当初は、候補者はマスク姿で握手も控えるなど有権者との距離も保っていましたが、投票日が迫るにつれて次第に熱を帯び、素手で握手したりハグをしたりする場面も見られました。
インターネットやSNSなどを使った選挙運動も活発に行われました。

(VTR:イ・ナギョン候補の動画)
「政府にも現場の状況を伝えマスクの流通方法の改善を提案します」

候補者としては自らの政策を有権者に直接訴えたい、有権者からすれば候補者の政策や人柄を自分の眼で見極めたいという思いがあったはずです。この点は、候補者、有権者双方にとってもマイナスだったのではないでしょうか。

【各国への影響】
Q4、韓国以外の他の国の選挙にはどんな影響が出ているのでしょうか?

A4、先月15日にフランスで市町村議員を選ぶ統一地方選挙の1回目の投票が行われました。外出自粛要請が出されている中での選挙でしたが、投票率は44.6%と前回の62.13%から18ポイント近くも下がってしまいました。1週間後に2回目の投票が予定されていましたが、議会で緊急措置法を可決し、投票は6月に延期されました。これによって議員の任期も延長されることになりました。

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イギリスは来月7日に予定されていた統一地方選挙を来年5月に延期、南米のチリも今月26日に予定されていた国民投票をことし10月に延期、エチオピアも8月に予定されていた総選挙の延期を決めています。ある調査では、およそ30か国が選挙の延期を決めているということです。

一方、ポーランドは来月10日に投票が行われる大統領選挙を予定通り実施するとしています。
アメリカのウィスコンシン州では、州知事が民主党の予備選挙を延期することを決めましが、州の裁判所は知事には選挙日程を変更する権限はないとしてこれを認めない判断を示し、選挙日程が二転三転するという混乱もありました。

【求められる対策】
Q5、延期を決めた国、予定通り実施する国、様々なようですが、感染の拡大防止も大事、選挙も大事。難しい選択ですね。

A5、その通りです。スウェーデンのストックホルムに拠点を置く研究機関が最近「選挙と新型コロナウイルス」という興味深い報告書を出しています。この中で、感染が拡大した際の選挙についていくつかの提言を行なっています。

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▽まず「すべての人々が平等に投票できる環境を保つことが必要だ」と指摘しています。
感染を心配して投票を控える人や、感染して投票所に行くことができない人達も選挙に参加できるようにすること、そのためには郵便やネットによる投票を取り入れるべきだとしています。

Q5、自宅からインターネットで投票できるようになれば、わざわざ投票所に行かなくても済みますね。

A5、いち早くネット投票を導入したのがIT立国としても知られるバルト3国のひとつエストニアです。2005年にまず地方議会議員の選挙、2007年からは国政選挙にもネット投票を導入しています。パスワードを入力して投票画面から候補者を選択するだけで投票ができます。

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日本でも有識者による研究会を設置して検討は進められているのですが、▽どうやって個人を特定するのか、▽投票の秘密をどうやって守るのか、つまり強制ではなく本人の自由な意思によって投票しているかどうかをどうやって見極めるのか、▽安全で安定的なシステムをどう構築するのかなど、クリアしなければならない課題がたくさんあります。

Q6、ネット投票は難しくても郵便による投票はできるのでは?

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A6、日本でも病気などを理由に指定された病院や施設で不在者投票をすることは認められています。しかし今の公職選挙法では、郵送による投票は身体障害者手帳を持った人や「要介護5」の人などに限られていて、感染症の患者や隔離者は対象になっていません。

Q7、色々と課題が多いようですが、そうなると選挙を延期した方が良いということでしょうか?

A7、報告書は、選挙日程の変更については慎重に判断すべきだと警告しています。
選挙制度は各国様々ですが、国によっては大統領や政府、あるいは議会が選挙日程を決めるところもあります。投票日の延期が有利か不利か、政治的な思惑で選挙日程が決められるおそれがあるというのです。
私は事前の備えが何よりも大切だと思います。ニュージーランドの例をご紹介したいと思います。

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ニュージーランドでは9月に総選挙が予定されていますが、選挙管理委員会は不測の事態に備えた計画を作成しています。
具体的には、▽投票所に行けない人のための移動投票チームの編成、▽視覚障害者などアシストが必要な人のために導入されている電話による口述投票の対象の拡大などです。こうした計画をホームページ上にも公開して国民に周知しています。
選挙は自分達の代表を選ぶ民主主義の基本です。パンデミックによって公正な選挙が失われることがあってはなりません。パンデミックに左右されない万全の態勢を日頃から整えておくことが民主主義を守ることにつながるのではないでしょうか。

(出石 直 解説委員)

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