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「広がるデジタル通貨」(キャッチ!ワールドアイ)

櫻井 玲子  解説委員

「デジタル通貨」をめぐり各国の動きが活発になっています。
日銀は先月、ヨーロッパ中央銀行などとグループを作り、デジタル通貨について本格的な研究に乗り出しました。
中央銀行が現金に替わる決済手段として発行する電子的な通貨を「中銀デジタル通貨」と呼びます。
櫻井解説委員にききます。

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(Q1)
デジタル通貨というのは、リブラなどの暗号資産とは、何が違うのですか?

(A1)
リブラなどの暗号資産の発行主体が民間企業であるのに対し、中央銀行デジタル通貨は、文字通り、国の責任で発行するものです。

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スマホーつで支払いや送金ができるという使い勝手の点では似ていますが、中銀デジタル通貨は現金に等しいですから、発行する国の信用を反映したものになります。

(Q 2)
例えばですが、お札やコインが「デジタル円」や「デジタルドル」にかわる、ということですね。

(A 2)
そういうことです。
ここにきて各国の検討が急ピッチですすめられるようになり、 2020年は「中銀デジタル通貨元年」になるのでは?とも言われているんです。

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▼特に注目されるのは中国の動きです。
先月からデジタル人民元の発行の下地になるとみられる「暗号法」を施行しています。
新センや蕪州で地域限定の実証実験をスタートさせた上で、全国展開へと踏み切るのではとみられています。
▼また、この分野で先行するスウェーデンはeークローナの試験運用を始めるほか、カンボジアが3月にも本格的な導入にすすむ見通しだといわれています。
▼さらにはバハマや東カリブ諸国機構の中央銀行も、年内の発行を目指しています。
▼国際決済銀行の最新の調査結果では、デジタル通貨を今後6年以内に発行する可能性がある、と答えた中央銀行は全体のおよそ2割。
前の年にくらべ、 2倍に増えています。

(Q 3 )
なぜ今、ここまで関心が集まっているのでしょうか?

(A3)
実はデジタル通貨は古くて新しいコンセプトで、「デジタル通貨を使って利便性を高めよう」という観点からの研究は、数年前から各国ですすめられてきたんです。
ところが、ここにきて、誰が世界の通貨を制するのか?という「通貨覇権争い」へと潮目が変わってきたことが最大の理由だと思います。

(Q 4 )
「通貨覇権争い」とは、どういうことでしょうか?

(A 4 )
新しい形の通貨の出現によって、第2次世界大戦以降続いてきたドル基軸通貨体制が変わるかもしれない、ということです。
ここで強調しておきたいのは、「基軸通貨」を握るというのは、絶大な力をもつに等しいことです。

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アメリカがこれまで繁栄を続けてこられたのも、ドルが世界で最も使われる通貨となり、ドルがなければ国際取引が事実上できない。
だからドルを手に入れるためになんらかの形で各国とも、アメリカと取引を続ける必要があり、それがアメリカの富を拡大させる、というしくみになっていたからです。
しかしスマートフォンーつあれば使える「デジタル人民元」や「デジタルユーロ」が開発され、銀行口座を持たないような途上国の人々は、ドル紙幣より、中国やヨーロッパのデジタル通貨を好んで使うようになるかもしれません。
デジタル通貨がアメリカドルにとってかわって基軸通貨になるポテンシャルがあると考える人も増えているのではないでしょうか。

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(Q 5 )
このように各国が考えるようになったきっかけはなんだったんですか?

(A 5 )
きっかけは3つ、ありました。

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ーつ目はアメリカの巨大 I T企業フェイスブックが去年の夏に打ち上げた「グローバルデジタル通貨・リブラ」の構想です。
世界中に20億人以上のユーザーをもっフェイスブックが、どの国にいても使えて、ドルや日本円と同じような価値を持っデジタル通貨を、 2020年中にも発行したいと発表したとたん、国際送金に時間と高い手数料をとられている利用者からは、歓迎の声があがりました。
これが日本を含む、各国の中央銀行関係者に、刺激を与える形となりました。
民間企業がライバルとして現れたことで、中央銀行の役割が逆に問われる形になったわけです。

(Q6)
2つ目のきっかけは?

(A 6 )
フェイスブックに触発された中国の動きです。
アメリカ企業に世界の通貨を牛耳られてはたまらないとばかりに、数年前にスタートしたデジタル人民元の開発を加速させると表明したのです。
ゆくゆくは、デジタル人民元を一帯一路ならぬデジタルシルクロードの周辺国に広げ、デジタル人民元とその技術を「世界標準」にしたいという思惑もある、とみられています。

(Q7)
そして3つ目のきっかけは?

(A 7 )
イングランド銀行の力ーニー総裁がアメリカ西部の避暑地・ジャクソンホールで開かれた世界の中央銀行関係者の非公式会合で、第2次世界大戦後以降続いてきたドル基軸通貨体制に疑問を呈する大胆な提言を行ったことです。
新興国の成長で世界が多極化しているのに、ドルへの一極集中が続けば弊害も出てくる。
そうした中で、デジタル通貨がドル基軸通貨体制を変えるきっかけになるかもしれないと述べたのです。
専門家はこれがデジタル人民元を推し進める中国の動きとあいまって、ヨーロッパの当局者にデジタルユーロの検討をすすめるべく背中を押したのではないかと話してぃます。

(Q 8)
ドルの基軸通貨体制が揺らぐことになれば、アメリカも黙ってはいませんよね。

(A 8)
まさに、そこがカギになりそうです。
現状を維持したいアメリカは、これまでデジタル通貨の発行に消極的でした。
ただ、今はムニューシン財務長官が「今後5年間は必要ない」という言い方をしていて逆にいえば、その先の可能性を否定しているわけではありません。
また先週、中央銀行にあたるFRB・連邦準備制度理事会のブレイナード理事は「アメリ力は当然、デジタル通貨の研究でも最先端にいなければならない」と述べました。
数か月前に同じテーマで講演を行ったときには、「デジタル通貨を発行しない理由」を前面に出す、より慎重な言い方をしていたんです。
中国の動きなどをみながら、柔軟に対応を変えてくる可能性はあると思います。

(Q 9)
こうした中、日銀も共同研究に乗り出したわけですね。
日本はこの先、どうするのでしょうか?

(A 9)
日銀はこれまで、国内では現金決済が主流であることや、安全性の確保の観点から、「デジタル通貨の発行を検討していることはない」と、慎重でした。
ただここにきて新しい枠組みで共同研究に踏み切る理由について日銀の雨宮副総裁は「技術革新がすすみ、デジタル通貨の二ーズが急に高まる可能性がある。今のうちに研究を進めておく必要がある」と説明してぃます。

(Q10)
「デジタル円」が実現する可能性はどれくらいあるんでしょうか?

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(A 10)
デジタル通貨は、海外送金にかかる時間と手数料の削減、偽造対策や脱税防止に役立っとみられる反面、サイバー攻撃や、民間の金融機関への影響、買い物や送金履歴などの個人情報の保護など、課題もあります。
こうした問題を克服する制度設計が果たして可能なのかがカギになると思います。
ただ、技術革新により急速にすすむ社会のデジタル化と、変化する各国のパワーバランス。
2つの波が重なる中で、通貨の世界でも、変化は避けられそうにもありません。
私たちにとっても、どういう通貨の形が最適なのか、幅広な議論も、必要になってくるのではないでしょうか。

(櫻井 玲子 解説委員)

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