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「繰り返された民間機撃墜 リスクはどう回避できるか」(キャッチ!ワールドアイ)

安間 英夫  解説委員

特集ワールドアイズです。
先月8日、アメリカとイランの緊張が高まるなか、ウクライナの航空機がイラン軍のミサイルで撃墜され、乗客乗員176人全員が死亡しました。
まもなく1か月となるなか、民間機が撃墜されるリスクをどうすれば回避できるのか、現状と課題を考えます。安間解説委員です。

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Q1)まず、今回のウクライナ機の撃墜について、真相はどこまで明らかになっているのでしょうか?

A1)イランの航空当局は先月20日、ロシア製の防空システム「トールM1」を使って地対空ミサイル2発が発射されたと発表しました。
ところが、撃墜に至る細かな経緯はまだ明らかになっていないのが実情です。
真相究明のカギを握るフライトデータレコーダー、ボイスレコーダーの解析も進んでいません。
解析装置は欧米にありますが、イラン側は自国での解析を主張し、合意が得られていないためです。

Q2)
安間さんは6年前にウクライナで起きたマレーシア航空機の撃墜を取材されたということですが、過去の事例から何が言えるのでしょうか?

A2)
主な事例をこちらにまとめてみました。

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1)今回ウクライナ機がテヘラン近郊で撃墜された事件のほかに、
2)2014年、マレーシア機がウクライナ東部で撃墜された事件、
3)2001年には、ロシア機が黒海でウクライナ軍の演習中に誤ってミサイルで撃墜されました。
4)さらに今回加害者となったイランも、1988年、アメリカ軍の艦船のミサイルで誤って撃墜されました。

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過去の事例を見てみますと、共通しているところがあります。
①多くが紛争などの対立で緊迫した状況だった。
②当事国が上空飛行を禁止していなかった。
③軍や政府、航空当局、航空会社の間で情報共有がはかられていなかった。
④すべてのケースではありませんが、軍の当局者が攻撃を受けるのではないかと極限の状況に置かれていた。こうしたことが言えます。
このうち、2014年の事件で、マレーシア機はウクライナの航空当局によって許可された高度を飛行していました。
しかし、この高度まで届くミサイルが地上にあったことは想定されず、情報の共有もされていませんでした。

Q3)緊張が高まっているのであれば、ウクライナの航空機は運航を中止するという選択肢はなかったのでしょうか?

A3)
確かに先月は、3日にイランの革命防衛隊の司令官がイラクでアメリカによって殺害され、アメリカとイランの間で緊張が高まっていたさなかでした。
ところが3日以降も飛行は禁止されていませんでした
イランがアメリカに対して報復攻撃を行ったのが、現地時間の8日午前2時。
空港は通常どおり業務を続け、ウクライナ機が午前6時すぎに離陸するまで4時間の間、オーストリアやドイツ、ロシアなど、8つの航空機がテヘランを出発していました。
ウクライナの航空会社は「イランの航空当局から危険に関する情報は一切なかった」と述べています。
イラン政府は撃墜を認めたあとになって「当時イラン軍はアメリカの攻撃に備えて100%の警戒態勢にあった」と述べましたが、これこそまさに航空会社やパイロット、乗客が事前に知りたかったことではないでしょうか。

Q4)
世界各国や国際機関などは対策をとらなかったのでしょうか?

A4)
実は、2014年のウクライナでのマレーシア機の撃墜事件を受けて、国連の専門機関ICAO=国際民間航空機関で対策が検討されてきました。
当初は危険情報についてホームページ上でデータベースを構築し、情報を共有することが検討されました。
しかし、紛争や軍事など機微に触れる情報を公開することや、他の国から「あの国ではこうしたリスクがある」と掲載されることに反対する国々があり、実効性のあがる仕組みとはなりませんでした。

そこでICAOは2018年、紛争地やその周辺の上空の飛行に関して、各国に原則として適用される、「付属書」と呼ばれる標準的なルールを改訂しました。
また、「リスク評価マニュアル」を策定し、ことし11月までに日本を含め、各国の政府や航空会社に対応策を策定するよう求めています。

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その内容ですが、
▼各国の航空管制機関に対し、潜在的に危険となるリスク評価と軽減策をとること、
▼可能な場合、航空関係者に紛争地域の情報を提供すること、
▼運航する航空会社に対し、安全運航が可能と確かめられなければ飛行を開始してはならないこと、飛行する場合のリスク評価と軽減策をとることを求めています。

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そして「リスク評価マニュアル」では
1)情報収集、
2)脅威の分析、
3)リスクの評価、
4)危険の認識、
5)リスク軽減策を検討、
6)飛行可否の判断、
これらを順を追ってするよう指針が提示され、
これにもとづき、各国、各航空会社が具体的にどのように対応するのか、検討しているところです。

Q5)情報の収集や飛行の判断も含めて航空会社が負うことになるリスクを減らす手だてはあるのでしょうか?

A5)確かに決定的な対策はないというのが実情ですが、過去の実例や海外の報道などで見えてきたものがあります。

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1)上空飛行が許可されていても回避した航空会社があった
2014年のウクライナでのマレーシア機のケースでは、ウクライナ政府が上空飛行を許可していても複数の航空会社がそれを避けていました。
これは、事件の数か月前からロシアとの間で緊張が高まっていたことから紛争地域だけでなく、ウクライナ全体の飛行を停止していたためでした。
リスクをシビアに見極め、慎重な判断を下した結果と言えます。
2)ミサイル回避装置を装備したイスラエルの航空会社の例
イスラエルのエル・アル航空は、ミサイルを熱で感知し、妨害電波でそらすシステムを導入しています。
きっかけとなったのは2002年、イスラエルの航空機がケニアで武装勢力から攻撃を受けたことでした。
ミサイルは当たりませんでしたが、政府が対策をとることを指示しました。
一方で民間機への軍事関係の装備の導入は慎重にすべきだという意見もあります。
3)民間機撃墜をさける兵器の開発
今回の場合、敵味方識別装置が作動していたかなど、詳しい状況は明らかになっていません。
ただ「スマート兵器」の開発が進む中で、ミサイルが民間識別信号を出す航空機を自動的に判断して追尾しないシステムは開発が可能だという指摘も出ています。

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Q6)
民間機撃墜という悲劇を繰り返さないためには、今後どのようなことが求められるのでしょうか?

A6)イランとICAO、関係国による透明性の高い徹底した調査が不可欠となります。イラン政府は、今回の事件について「あってはならない過ち」だと述べました。
イラン政府の責任は大きく、2度と起きないようにするために何が必要なのか考え、国際的にも少しでもリスクを回避する対策を共有していく必要があります。
イラン政府をはじめ、国際社会、各国政府や航空会社にも突きつけられた課題と言えます。

(安間 英夫 解説委員)

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