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「米・イラン軍事的緊張の行方」(キャッチ!ワールドアイ)

出川 展恒  解説委員

今月3日、アメリカ軍の攻撃でイランの革命防衛隊の司令官が殺害され、これに対し、イランは、アメリカ軍の拠点に、報復のミサイル攻撃を実施。
大規模な軍事衝突に発展するのではないかと緊張が高まりました。
しかし、トランプ大統領は国民向けの演説で反撃に言及せず、事態のエスカレートを避けたい姿勢を示しました。
こうした中、イラン革命防衛隊が、ウクライナの旅客機を誤って撃墜し、176人が犠牲になりました。
これに怒った大勢の市民が、イラン指導部を非難する激しいデモを繰り広げています。
アメリカとイランの軍事的な緊張は今後どうなるのかを読み解きます。

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Q1:
スタジオには中東情勢担当の出川解説委員です。
まず軍事衝突の危機が高まっていたアメリカとイランについて、現状をどうみますか。

A1:
軍事衝突の危機は、去っていません。むしろ、これから先、何が起きても不思議でない危険な状況が続くと予想されます。理由はいくつかあります。

▼まず、イランが、アメリカ軍の基地に対するミサイル攻撃を行った直後、最高指導者ハメネイ師が国民向けに行った演説です。
ハメネイ師は、「今回の軍事行動は十分でない。この地域からアメリカの存在を消し去ることが重要だ」と述べました。
これは、イランが、時を移して、さらに報復攻撃を行う可能性があること、そして、アメリカ軍を、中東地域から追放することを最終的な目標にしていることを示した発言です。

▼次に、イランの周辺国で活動するイスラム教シーア派の武装組織による報復攻撃の可能性です。

Q2:
具体的にはどのような攻撃が想定されているのでしょうか。

A2:
3日のアメリカ軍のドローン攻撃では、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官とともに、同じ車に乗っていたイラクのシーア派武装組織「カタイブ・ヒズボラ」の幹部ムハンディス司令官も殺害されました。

この組織は、イラン革命防衛隊の支援を受け、過激派組織ISと戦ってきました。
彼らが、ムハンディス司令官やソレイマニ司令官の仇を取ろうとアメリカ軍に対する攻撃を行うことも予想され、実際、ここ数日、イラクにあるアメリカ軍基地を狙ったロケット弾攻撃が起きています。

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同じように、イラン革命防衛隊の支援を受け、イラク、シリア、レバノン、イエメン、パレスチナなどで活動する、さまざまな武装組織が軍事行動を起こす可能性もあり、同盟国のサウジアラビアやイスラエルも攻撃の対象となりえます。

さらに、トランプ政権とイランの軍事的緊張のおおもとの原因である、イラン核合意をめぐる対立は、解決されるどころか、ますます悪化しています。

Q3:
イランが核合意の制限を破る形でウラン濃縮活動の強化などを進めていることについて、フランス、ドイツ、イギリスの3か国は、国連の制裁再開につながる手続きに踏み切りましたね。

A3:
はい。この間、「イラン核合意」をめぐっても、重大な動きがありました。

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5日、イラン政府が、「今後は、ウラン濃縮度や遠心分離機の数など、核合意の制限には縛られず、必要に応じて核開発を進めてゆく」という声明を出したのに対し、フランス、ドイツ、イギリスの3か国の外相が、14日、共同声明を出して、核合意で定められた「紛争解決の手続き」に踏み切る方針を明らかにしたのです。

Q4:
まず、イラン側の意図はどういうものですか。

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A4:
イランは、5日の声明の中で、今後は、核合意の制限に縛られず、ウラン濃縮活動を行う意向を明らかにしましたが、濃縮度や遠心分離機の数など具体的な数字は示しませんでした。
さらに、IAEA・国際原子力機関との協力を続け、査察を受け入れる考えを示すとともに、アメリカの制裁が解除されれば、これまでの対抗措置を撤回して、核合意を完全に守るという考えも、合わせて明らかにしています。

イランの本音としては、核合意を崩壊させることは望んでおらず、アメリカ以外の国も合意を守り、維持してほしい、アメリカの制裁に同調せず、イランとの取引を再開してほしいと切望しているのです。

Q5:
イギリス、ドイツ、フランスが、核合意で定められた「紛争解決の手続き」に踏み切るというのは、どういうことでしょうか。

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A5:
この3か国が、イランの行動、とくに今回の声明を、「核合意への違反」とみなしたことを意味します。

その場合、まず、核合意のすべての当事国が参加する「合同委員会」を開いて解決を目指し、解決できない場合は、閣僚級の会議で協議を続けます。
それでも、解決できない場合には、問題が国連安保理に通告され、採決を経て、イランに対する制裁が再開されることになっています。

Q6:
核合意の維持は厳しいということでしょうか。

A6:
はい。これまでイランの立場に理解を示していたフランス、ドイツ、イギリスが、イランの行動と声明を、核合意違反と見なしたのは、イランにとっては大きな痛手です。

この3か国も、紛争解決の手続きに踏み切るのは、「核合意を維持するのが目的」だと強調していますが、今後の協議で、解決の道筋が見い出せない場合、イラン側が、先の声明を撤回、あるいは、修正しない限り、核合意の維持は、極めて困難になると思います。

Q7:
一方のアメリカですが、ミサイル攻撃を受けて、イランに対し追加制裁を科すなど、今後も圧力を強める方針を示していますね。

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A7:
はい。イランの高官8人と17の企業が対象で、資産凍結とアメリカ人との取引を禁止する内容です。
イランにさらなる圧力をかけ、交渉のテーブルに引きずり出し、現在の核合意にかわる、より厳しい内容の「新たな合意」を結ぶのが狙いです。

これに対し、イランの指導部は、トランプ政権からの交渉の呼びかけを一切拒否しています。

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イギリスのジョンソン首相も、14日、BBC放送のインタビューで、「現在の核合意を無効にするなら、代替案が必要だ。『トランプ合意』に切り替えよう」と述べるなど、イランに対し、非常に厳しい姿勢に転じつつあります。

イラン側と欧米側の溝が深まり、問題解決は非常に難しくなっています。

Q8:
イラン軍がウクライナの旅客機を誤って撃墜したというニュースも衝撃的でした。

A8:
はい。犠牲になった乗客と乗員の国籍は、イラン、カナダ、ウクライナなど7か国ですが、大部分はイラン系でした。
イランがアメリカ軍をミサイル攻撃した4時間後のことで、発生当初、イラン政府と軍は、撃墜の事実を全面的に否定し、3日後に、一転して、敵機と誤認して旅客機を撃墜したことを認め、犠牲者の遺族と関係国に謝罪しました。

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ロウハニ大統領によれば、「当時、イラン軍は、アメリカの攻撃に備えて100%の警戒態勢にあり、それが人為的なエラーに繋がってしまった」とのことです。

イランの指導部は、この出来事への対応をめぐって窮地に陥っています。

Q9:
イランの国内各地で起きている大規模な抗議デモですね。

A9:
はい。11日以降、3日連続で起きました。
デモの参加者は、犠牲者を悼むとともに、発生当初、撃墜の事実を隠蔽した政府や軍、革命防衛隊を激しく非難しています。

イスラム体制のイランでは、タブーとされる「独裁者に死を!」と、最高指導者ハメネイ師を直接非難する声も聞かれ、治安部隊が武力も使って、抑えこむ姿勢です。

イランでは、去年11月、政府がガソリン価格を大幅に引き上げたのをきっかけに、全国数十か所で民衆の抗議デモが起き、治安部隊が実弾も使って鎮圧を図り、1000人以上が犠牲になったと見られています。

今回、アメリカ軍が革命防衛隊の司令官らを殺害したことで、国民の非難の矛先は、いったんアメリカに向けられましたが、それも束の間、再びイラン指導部に向けられています。
指導部が取り扱いを誤れば、体制を揺るがす大きな騒乱に発展する可能性もあります。

Q10:
地域の緊張が高まる中、安倍総理大臣が、サウジアラビアなど中東3か国を訪問しましたが、緊張緩和に向けた日本の役割について、どう考えますか。

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A10:
軍事的緊張の根本的な原因は解決されず残ったままです。
もし、ペルシャ湾一帯で軍事衝突が起きる事態となれば、この地域にエネルギーの大部分を依存する日本の経済は立ち行かなくなります。

それだけに、日本政府には、軍事的緊張を緩和し、衝突を回避し、「核合意」を維持するための外交に、全力を傾けてもらいたいと思います。

とくに、安倍総理大臣は、イランの指導部とトランプ大統領の双方に直接働きかけることができる立場ですから、誤解や読み違いによって衝突が起きるのを避ける、「橋渡し役」になれるのではないかと思います。

現在の核合意を維持するためには、イランの指導部に、核合意を完全に守らせるだけの十分な動機を与える必要があり、イラン経済の柱である原油の輸出の道を、何らかの形で確保できるかどうかがカギを握ります。

そのためには、ヨーロッパ諸国、ロシア、中国などと連携した戦略づくりが欠かせないと思います。

(出川 展恒 解説委員)

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