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「日米安保は『不公平』か」(キャッチ!ワールドアイ)

増田 剛  解説委員

先月末、G20大阪サミットで来日したトランプ大統領。
記者会見でのこの発言が波紋を呼んでいます。
(トランプ大統領)
「もし日本が攻撃されたら、我々は、全軍で日本のために戦うのに、アメリカが攻撃された場合、日本は戦う必要がない。不公平だ」。
日米安全保障条約について「不公平だ」と不満を表明したのです。
条約は、アメリカに日本防衛の義務を課す一方で、日本がアメリカに施設や区域を提供する義務を定めています。
これに基づいて、アメリカ軍基地は、日本全国に配置され、特に沖縄と首都圏に集中しています。
日米安保は、本当に「不公平」なのか。
きょうは、この問題について考えます。

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Q1)
スタジオには、外交・安全保障担当の増田解説委員が来ています。
増田さん、トランプ大統領の言動には、驚かされることが多いですが、日米安保をめぐるこの発言も、波紋を呼んでいますね。

A1)
そうですね。トランプ大統領は、先月29日、G20大阪サミットの際の記者会見で、「もし日本が攻撃されたら、我々は、全軍で日本のために戦うのに、アメリカが攻撃された場合、日本は戦う必要がない。これは不公平だ」と述べました。一方で、「条約そのものを破棄するつもりは全くない」とも述べています。

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ただ、日米同盟の根幹である安保条約の内容について、アメリカの大統領が公に不満を表明するのは、極めて異例なことです。

Q2)
これは、トランプ大統領の独自の考え方なのでしょうか。

A2)
おそらくそうでしょう。トランプ大統領は、G20の直前の先月26日にも、アメリカのFOXビジネスネットワークのインタビューで、今回の伏線になるような発言をしていました。
「もし日本が攻撃されたら、我々は、あらゆる犠牲を払って日本を守るが、アメリカが攻撃されても、日本は我々を助ける必要はない。ソニーのテレビで、それを見ていられる」というものです。
ソニーというのが、1980年代の日米貿易摩擦をほうふつさせますよね。トランプ大統領は、2016年の大統領選挙で、在日アメリカ軍の駐留経費を日本が全額負担しなければ、アメリカ軍の撤退もあり得ると発言していました。アメリカが、安全保障で過剰な負担を負い続ける一方、同盟国は、アメリカの犠牲の上に経済的な繁栄を享受してきたという世界観を持っているのだと思います。再選を目指す、来年・2020年の大統領選挙でも、「同盟国との長年の不平等を正す」とアピールする狙いでしょう。日本はその格好の標的にされているという印象を受けます。

Q3)
日本政府は、一連のトランプ大統領の発言をどう受け止めているのでしょうか。

A3)
日本政府は、表立った批判は控え、事態を静観する構えです。
ただ、内心は、困惑している関係者も多いと思います。
ある外務省幹部は「トランプ大統領は、日米安保を持ち出して、揺さぶりをかけることで、駐留米軍経費の日本の負担増や米国製装備の更なる購入を引き出そうとしている。また、貿易交渉で、日本に譲歩を迫る狙いもあるのではないか」とみています。

Q4)
貿易に安全保障を絡めるのはトランプ大統領らしい発想ですね。ところで、条約には、トランプ大統領が不満を持つような内容が含まれていると思われますか。

A4)
私は必ずしも、そのような内容ではないと考えています。

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日米安全保障条約は、第5条で、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に、日米両国が「共通の危険に対処するよう行動する」としています。
これが、アメリカの日本防衛義務です。

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そして、第6条は、「日本国の安全に寄与し、極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカの陸海空軍は、日本国において、施設及び区域を使用することを許される」としています。これが、日本の基地提供義務です。

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つまり、アメリカに日本防衛の義務を課す代わりに、日本はアメリカ軍に基地を提供する義務を負います。
双方が同じ義務を負う伝統的な同盟ではありませんが、一方だけが義務を負う片務的な内容ではありません。非対称ではありますが、双務的で、かつ、バランスも取れていると思います。

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また、日本の基地提供義務に基づき、ご覧のように、アメリカ軍基地は、日本全国に配置されています。在日アメリカ軍専用施設の70%以上が沖縄に集中しているのは有名ですが、沖縄の次に集中しているのが、首都圏です。

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空軍司令部がある横田基地、陸軍司令部があるキャンプ座間、海軍航空部隊の拠点・厚木基地、海軍司令部がある横須賀基地といった具合です。
あまり知られていませんが、東京のど真ん中、六本木にも、アメリカ軍の基地があります。松田さんは、ご存知でしたか。

Q5)
もちろん、東京に基地があることは知っていますが、詳しい場所までは覚えていませんね。

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A5)
そうですか。この基地は、港区六本木にあるヘリポートで、赤坂プレスセンターといいます。面積は2万7千平方メートル。アメリカ軍が終戦直後に、旧日本陸軍の駐屯地を接収して基地にしたもので、現在、東京23区内にある唯一のアメリカ軍基地です。近くには、六本木ヒルズや東京ミッドタウンが立ち並んでいます。

Q6)
本当に東京のど真ん中ですね。

A6)
そうなんです。ただ、この一画だけは、フェンスに囲まれていて、近くの繁華街とは、全く別の雰囲気です。
アメリカ政府や軍の高官が、東京近郊の基地と都心を移動する際の中継点になっていて、5月にトランプ大統領が来日した時も、都心から横須賀基地に移動する際に使われました。
ただ、近くの永田町には、国会や総理大臣官邸が、霞ヶ関には、官庁街があります。
そうした一国の首都の中心部に、外国の軍隊の基地があることは、世界的にみても、異例だといわれています。

Q7)
この赤坂プレスセンターについて、沖縄の普天間基地のように、返還を求める動きはないんですか。

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A7)
あります。地元の港区と港区議会は、2004年から毎年、基地の撤去を求めて、防衛省に要請書を提出しています。基地周辺の住民に、ヘリによる騒音と事故への懸念が根強くあるからです。

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ただ、こうした要請に対し、防衛省は「赤坂プレスセンターは、米軍にとって、都心で唯一、迅速な要人輸送が可能な施設で、現時点で返還は困難だ」としています。毎年、同じような回答で、地元の撤去要請に応じる気配は全くありません。

Q8)
このように見ていきますと、この条約は、日本だけでなく、アメリカにも、相応の利点があるように思えますが、どうですか。

A8)
その通りだと思います。
日本は、日米安全保障条約に基づき、数多くの施設・区域をアメリカ軍に提供しています。
この中には、首都の中心部にある赤坂プレスセンターや、アメリカにとって東アジア最大の空軍基地とされる沖縄の嘉手納基地、原子力空母「ロナルド・レーガン」の事実上の母港で、アメリカ海軍第7艦隊の司令部がある横須賀基地などが含まれています。
つまり、在日アメリカ軍基地は、日本防衛のためだけにあるのではなく、アメリカ軍が、インド太平洋地域でプレゼンスを示し、戦略的な機動性を維持するための拠点になっている。アメリカ軍の世界展開を支えているのです。実際、イラク戦争では、沖縄に駐留する海兵隊がイラクに派遣されました。しかも、日本は、在日アメリカ軍の駐留経費を年間2千億円近く負担しています。

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ある自衛隊幹部は、私に「世界中で、日本ほどアメリカに協力的な国はなく、日米同盟ほど機能している同盟はない」と断言しました。こうした意味で、日米安保は、アメリカにとって、不公平どころか、測り知れないメリットをもたらしていると思います。日本政府は、トランプ大統領に、こうした同盟の内実をきちんと説明し、誤解を解く必要があります。

(増田 剛 解説委員)

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