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「どうなる スーダンの民主化」(キャッチ!ワールドアイ)

出川 展恒  解説委員

「特集ワールドEYES」、けさは、アフリカのスーダン情勢についてです。30年にわたる独裁政権を築いたバシール前大統領が、2か月前、民主化を求める民衆のデモと、軍のクーデターにより失脚しました。実権を握った軍に対し、民主化勢力は、民政への移行を求めて、今週、ストライキなど「不服従」の抗議行動を開始しました。緊迫の度を加えるスーダンの民主化について考えます。スタジオには、出川解説委員です。

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Q1:
こうした事態に至った原因は何でしょうか。

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A1:
今回のスーダンの政変、2つの要素があります。「民衆革命」と「軍によるクーデター」です。バシール前大統領は、もともと軍人で、1989年、クーデターで政権を握りました。軍による支配と「国民イスラム戦線」というイスラム主義政党による支配を結合させた特異な独裁体制を築き、30年にわたって君臨したのです。反対勢力を徹底的に抑え込み、2003年、西部のダルフール地方で起きた紛争では、およそ30万人が犠牲になりました。バシール前大統領は、大量虐殺を命じた容疑で、国際刑事裁判所から逮捕状が出されています。

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8年前、スーダンの南部が、「南スーダン」として分離独立すると、スーダン政府は、石油収入の4分の3を失い、財政難に陥りました。去年12月、補助金のカットで、主食のパンの値段が3倍に跳ね上がって、人々の怒りが爆発し、バシール前大統領の退陣を求める抗議デモが、3か月以上続きました。

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そして、4月11日、国防相など軍の幹部らが、バシール大統領の身柄を拘束し、軍事評議会を設立し、暫定統治の主導権を握りました。これに対し、民主化勢力は、「軍人が支配する暫定政権は認められない」として、速やかに民政に移行するよう強く要求。首都ハルツームにある軍の本部前で、抗議の座り込みを続けました。

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先月15日、軍事評議会と民主化勢力の代表が、協議の結果、3年後に選挙を実施し、民政に移行することで基本合意しました。ところが、軍事評議会は、選挙までの期間、主導権を手放さない姿勢を示したため、両者の協議は行き詰まりました。こうした中、今月3日、軍事評議会が、武力によるデモ隊の強制排除に乗り出したのです。民主化勢力によりますと、ダルフール紛争で住民虐殺を行った民兵組織を母体にした部隊が、銃や刃物でデモの参加者を次々と殺害し、遺体をナイル川に投げ込んだということで、120人以上が犠牲になり、500人以上がけがをしたと見られています。

Q2:
これだけ多くの犠牲者が出ると、民主化勢力は、非常に強く反発するでしょうね。

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A2:
はい。関係修復は困難です。軍事評議会のブルハン議長は、デモ隊を強制排除した際、先の合意を破棄し、9か月以内に選挙を実施すると表明しました。その後、後ろ盾のサウジアラビアなどの説得もあって態度を軟化させ、対話の再開を呼びかけたものの、民主化勢力は、「大勢の市民を殺害した軍事評議会は信用できない」として、これを拒否しています。そして、責任者を処罰するため、国際的な調査を求めるとともに、9日、今週日曜日から、ストライキなど、非暴力、不服従の抗議行動を開始し、徹底的に抵抗する構えです。

Q3:
スーダンの民主化は、危機的な状況にあると言えるわけですね。

A3:
はい。平和的な抗議行動を行っていた人々を武力で排除し、大勢の犠牲者が出たわけですから、そう簡単に、対話の再開とはならないと思います。民主化勢力側は、「民政への移行が実現するまで、不服従の運動を続ける」と宣言しており、各地でストライキなどの抗議行動を続ける構えです。これに対し、軍事評議会側は、ストライキに参加しようとする人々を逮捕したり、脅迫したりして、拡がりを抑え込もうとしていますが、軍事評議会も一枚岩ではないようです。

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トップのブルハン議長は、民主化勢力に対話の再開を呼び掛けていますが、デモ隊の強制排除を命令したヘメティ副議長は強硬一辺倒で、軍事評議会の内部で権力闘争が起きているという見方もあります。
スーダンで民主化運動による政変が起きたのは、初めてではありません。1964年と1985年にも、それぞれ、当時の独裁政権が、民衆のデモやストライキの結果、倒れていますし、かつては、イギリスによる植民地支配に対して、民衆が抵抗運動を繰り広げた歴史もあります。このように、スーダンの民衆の間には、民主化運動や強権政治に抵抗してきた経験とノウハウが蓄積されているのです。

Q4:
民主化運動をリードする組織はあるのでしょうか。

A4:
今回、民主化運動の担い手となっているのは、1年前に発足した「スーダン専門職者協会」という、職能集団や学生、青年、女性などを中心にした連合組織です。
彼らが望んでいるのは、軍による支配が続く中で、できるだけ速やかに選挙を行うことではありません。むしろ、選挙の実施には、かなりの時間が必要だと考えています。

Q5:
「専門職者協会」など、民主化を求めている人たちは、具体的にどんな要求を掲げているのでしょうか。

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A5:
まず、暫定政権を、軍の主導ではなく、文民主導のものにすることです。今の「軍事評議会」に代わる「最高評議会」を新たに設置し、文民、すなわち、民間人主導の構成にすることを要求しています。そのうえで、自由で公正な選挙ができる条件を整え、民主的な選挙を実施し、新たな憲法をつくり、正式な政権をつくることです。9か月以内の選挙など、短い期間では無理な話で、数年単位の時間がかかることは、織り込み済みなのです。

Q6:
自由で公正な選挙を行ううえで障害となるのは何でしょうか。

A6:
冒頭でも述べたように、バシール前政権は、軍事政権だったと同時に、イスラム主義政党による独裁政権でもあったわけです。宗教の政治利用、すなわち、イスラム法を強制するやり方によって、反対勢力を徹底的に抑え込んできました。それだけに、拙速に選挙を実施すれば、強い組織力を持つイスラム主義政党が、再び権力を握ることは明らかです。

Q7:
なぜ、選挙の結果、イスラム主義政党が権力を握ることになるのですか。

A7:
選挙では組織力、動員力がモノを言います。スーダンでは、長年、バシール前政権を支えてきた「国民イスラム戦線」のネットワークが国じゅうに張り巡らされ、民主的な選挙に不慣れな有権者の投票行動をコントロールする力があるからです。

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現に、8年前のいわゆる「アラブの春」を経験したチュニジアやエジプトでも、選挙の結果、イスラム主義政党が躍進し、いったんは、権力を握りました。
スーダンの民主化勢力が強く望んでいることは、まず、軍と宗教を、政治権力から切り離すことです。そして、時間をかけて、民主的な政治制度を確立し、長い内戦で疲弊したこの国に、平和を実現することです。

Q8:
国際社会は、この事態にどう対応しようとしていますか。

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A8:
国連のグテーレス事務総長は、「軍が行った強制排除を非難する。平和的な対話による民政への移行を求める」という声明を出しました。
アメリカやEU・ヨーロッパ連合も、軍事評議会側の対応を厳しく批判しました。

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さらに、スーダンも加盟するAU・アフリカ連合は、6日、市民主導の暫定政権を設立するよう求め、これが実現するまで、スーダンがAUの活動に参加することを停止すると発表しました。

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一方、国連安全保障理事会は、4日、非公式会合を開きました。軍による市民殺害を非難する内容の声明案が用意されましたが、「バランスを欠いた内容だ」と主張するロシアと中国の反対によって、採択は見送られました。

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また、サウジアラビアやエジプトなど、アラブの主要国は、軍事評議会側を擁護する姿勢です。これは、スーダンが、イエメンの内戦に民兵組織を送り込み、サウジアラビア主導のアラブ連合軍の一翼を担っていることや、スーダンの民主化運動が、自国に波及することを恐れているためと見られています。このように、国際社会の足並みは、必ずしも揃っていません。
今年8月、TICAD・アフリカ開発会議を開く日本としても、スーダンをはじめ、アフリカの国々で起きている出来事を注視し、民主的な国づくりに向け、どんな支援策を打ち出すことができるか、考える必要があると思います。

(後説)
緊迫するスーダン情勢について出川解説委員とお伝えしました。

(出川 展恒 解説委員)

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