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「米中覇権争い 宇宙でも」(キャッチ!ワールドアイ)

津屋 尚  解説委員

“新たな戦闘領域”として世界の国防当局が関心を寄せているのが・・・宇宙。
そこには通信衛星やGPSなど、軍の活動を支える人工衛星が数多く存在しています。この宇宙空間の覇権を握り、軍事面で優位に立つことを目指してきたアメリカとロシア。そこに割って入るように急激に力をつけているのが中国です。
「宇宙強国」を目標に掲げ、推進しています。
これに対して、アメリカも。
(トランプ大統領の発言)
「宇宙軍を創設する/アメリカは宇宙を支配せねばならない」
大国間の新たな競争の舞台と化した宇宙空間について考えます。

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Q1:宇宙というと、日本では探査機「はやぶさ2」やベンチャー企業によるミニロケットの打ち上げなどが注目を集めていますが、軍事面では激しい競争の舞台になっているんですね?

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A1:宇宙は、宇宙の憲法とも言われる「宇宙条約」というのがあって「宇宙空間の平和利用が全人類共通の利益だ」とうたわれていますが、現実には、宇宙空間では軍事利用が進んでしまっています。宇宙は、陸海空に続く「第4の戦場」とも言われ、サイバー空間ともに安全保障上極めて重要な「新たな領域」とみなされています。最近では「宇宙の安全保障」という言葉もよくききますが、その目的は、「宇宙空間の自由で安全な利用を確保し、必要があれば相手の利用を妨げる」ことです。

Q2:具体的には何をするのでしょうか?

A2:ひと言で言うと、人工衛星を脅威から守ることです。それが安全保障上の新たな課題になっています。

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1957年、人類初の人工衛星、ソビエトのスプートニクが打ち上げられて以来、宇宙空間には数多くの衛星が打ち上げられてきました。いまや宇宙で稼働中の人工衛星は1400以上あって、その種類も通信衛星や気象衛星、GPSなど様々なで、軍事・非軍事を問わず国家や社会にとって重要なインフラにもなっています。

Q3:人工衛星に対する脅威とはどんなものですか?

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A3:大きく分けて2つあります。“宇宙ごみ”と衛星に対する“意図的な攻撃”です。

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一つ目の「宇宙ごみ」ですが、およそ70年前まで宇宙には人工の物体は何もありませんでしたが、数多くの衛星が打ち上げられ、打ち上げロケットの破片や使われなくなった衛星などが宇宙空間に漂っています。衛星への依存が高まるにつれて宇宙ごみはどんどん増えていて、いまや50万個以上ともいわれています。たとえ小さな破片でも、秒速7~8キロの猛スピードで移動しているので、衝突すれば破壊力は大きいのです。実際10年前、ロシアの使用済み衛星がアメリカの通信衛星に衝突し大破したこともあります。また、中国が2007年に行った衛星攻撃兵器の実験では、破壊された衛星が3000個以上の破片となって、今も、人工衛星の脅威になっています。

Q4:そして2つめの脅威「意図的な攻撃」はどういうものですか?

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A4:代表的なのは、地上から発射したミサイルなどで衛星を攻撃する「衛星攻撃兵器」です。衛星に対する脅威を最も強く感じているのが、世界で最も人工衛星に依存しているアメリカ軍です。
米軍は、GPSや通信衛星などを介した衛星ネットワークでつながっているおかげで軍隊が世界のどこに展開しても高度な軍事作戦ができます。
また、人工衛星はいわばアメリカ軍の「目」であり「耳」なのです。

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例えば、偵察衛星があることで、北朝鮮のミサイル動向のように他国の軍や兵器の動きを日頃からつぶさに把握できる。実際の軍事作戦では、衛星によって特定した攻撃目標に対して、敵を圧倒するスピードと正確さでピンポイント攻撃を行うことができる。飛来する弾道ミサイルに対するミサイル防衛も衛星があってこそのシステムです。アメリカの最新兵器を駆使したハイテク戦争は、人工衛星があるからこそ可能なのです。

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しかし、この「強み」は同時に「弱点」にもなりえます。この「目と耳」がつぶされたら米軍の機能は麻痺してしまうからです。中国とロシアは、アメリカのこの弱点を突くため、「衛星攻撃兵器」を開発しています。先ほど、中国の実験について触れましたが、地上から発射したミサイルが宇宙空間で衛星に衝突し破壊するというものです。
さらに、中国は「衛星を攻撃する衛星」も開発しているといわれています。衛星がほかの衛星に近づいていき、“妨害電波”を発信してその衛星の機能を麻痺させるというものです。
起きてほしくありませんが、万が一、近い将来、大国間の戦争が起きるとすれば、第一撃は、軍隊の「目と耳」をふさぐための宇宙空間での攻撃から始まるかもしれません。戦争の姿が変わる可能性があるのです。

Q5:宇宙が軍事上の重要ファクターだとすれば、軍事大国は宇宙の覇権を争う方向になっていくのでしょうか? 

A5:少なくとも米中双方は、そのような意識で向き合っているように思います。
中国は、「宇宙強国」を国家の戦略目標に掲げて宇宙開発を進めていています。

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▽中国版GPSの「北斗」の運用も去年暮れ、全世界で運用をスタートさせました。▽同じく去年暮れ、史上初めて月の裏側に探査機を着陸させました。月の裏側は地球から直接信号が届かないので難易度が極めて高いのですが、この成果によって中国は自らの能力の高さを世界に知らしめました。▽2022年には中国独自の宇宙ステーションの完成も目指しています。いまの国際宇宙ステーションは2024年以降の運用の見通しは立っていないので、将来は中国だけになる可能性もあります。▽さらに、いわゆる「一帯一路」の沿線の国々が今後、中国の支援で衛星を打ち上げることも考えられます。このようにして、中国の影響力が宇宙でも着実に強まっていきそうです。
そして、こうした中国の宇宙利用の多くは、軍事目的にも関連しているとみられています。中国はアメリカ軍の宇宙利用を妨害するだけでなく、自らもアメリカに匹敵するようなハイテク戦争能力を身につけようとしています。それだけに双方の宇宙の覇権争いは激しくなっていく可能性が高いと思います。

Q6:これに対してアメリカは宇宙軍を創設するとしていますが、宇宙軍とはどのようなものなのでしょうか?

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A6:トランプ政権が創設する方針の「宇宙軍」は、陸海空軍などと同格の軍事組織でアメリカ軍が行う宇宙でのあらゆる作戦を担うことになります。宇宙空間の監視や衛星の防護、あるいは攻撃などが含まれるとみられます。ただ、米軍にはすでに宇宙軍の機能を持つ組織があるので、わざわざ新たな「宇宙軍」を作る必要はないという反対論もアメリカ国内でも多いんですが、いずれにせよ、宇宙軍創設の構想は、宇宙がもはや聖域ではなくなったという認識の表れだと言えます。

Q7:これまで平和的な利用が中心だった日本は今後宇宙にどう向き合っていくのでしょうか?

A7:日本政府が示している宇宙に関する戦略には、安全保障の観点も重視されるようになってきています。また、日本は、アメリカと同じような中国に対する懸念を抱いていることは確かで、今後は日米共同の宇宙の監視など自衛隊の任務を強化していく方針です。激しくなっていく米中の宇宙での競争にいやおうなしに巻き込まれるというのではなく、日本としてどのように関わっていくのか、主体的な判断と独自の戦略が問われてくると思います。

(津屋 尚 解説委員)

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