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「中間選挙後のトランプ政権は?」(キャッチ!ワールドアイ)

髙橋 祐介  解説委員

髙橋祐介解説委員とお伝えしていきます。

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Q1)
今回の中間選挙の結果、全体を通してどう見る?
A1)
上院は共和党が多数派を維持して下院は民主党が8年ぶりに多数派を奪還。この結果は当初から最も可能性が高いと大方が予想していたシナリオだから、その意味ではサプライズではなかった。
でも投票率が暫定集計で47.3%という中間選挙としては異例の高さとなった。投票者数も初めて1億人を超えた。とくに女性有権者が多かった。投票率の上昇は予想していたが、有権者の関心がここまで高かったことには若干驚いた。
なぜこうなったのか?「トランプ政治にストップを」という反トランプの動き。危機感を募らせて挙って投票に行ったトランプ支持者たち。良くも悪くも今回の中間選挙はやはりトランプ大統領に対する事実上の信任投票だったのだろう。

山澤)
最新の開票結果はこちらです。トランプ大統領は、中間選挙から一夜明けてホワイトハウスで記者会見に臨みました。

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Q2)
「今回の選挙は自分と共和党に素晴らしい勝利をもたらした」と1時間半に及んだ記者会見で熱弁をふるったトランプ大統領。一連の発言をどう聞いた?
A2)
「ドナルド・トランプの辞書に敗北の文字はない。なぜなら敗北を敗北とは認めないからだ」そんなジョークもある大統領のことだから、強気一辺倒の発言に不思議はない。民主党に下院の主導権を握られたのは事実。大統領の発言には悔しさもにじんでいた。
ただ、上院については、共和党が「期待以上の成果」を挙げたのもまた事実。共和党が獲得した議席は、いま見かけの上では現有51議席と同じだが、まだ開票後の集計結果を精査している中西部インディアナ、ミズーリ、ノースダコタ、もしかすると西部アリゾナも勝てるかもしれない。すると共和党は最大で55議席になる。これは確かに「勝利」と言って良い。

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実は今回の中間選挙では、全米50州のうち36州で行われた知事選挙も隠れた注目点だった。州レベルで共和・民主両党の得票の力がそのまま現れるだけでなく、州知事は次の大統領選挙に向けて、資金集めや有権者登録の制度運用、2020年の国勢調査に基づく選挙区割りの見直しなどで、重要な役割を果たすことが多いからだ。その州知事選挙で、共和党はトランプ大統領をおととしの当選に導く原動力となった激戦州の南部フロリダ、ラストベルトの中核をなす中西部オハイオ、大統領選挙の開幕を告げる緒戦となる中西部アイオワ、いわば“落とせない重要な州”でしっかり競り勝った。最終的に勝利を決定づけたのは、トランプ大統領の応援遊説だった。
今回様々な南部の州に行って保守派の選挙運動を見てきたが、共和党支持層のトランプ人気と動員力、結束はすごかった。大統領が今回の結果に手ごたえを感じ、みずからの再選戦略にも自信を深めているのは確かだろう。

Q3)
今回の結果を受けて、来年1月から上下両院で多数派の党が異なる“ねじれ状態”になる。政権運営にどんな影響が予想される?
A3)
アメリカでは上下両院で多数党が異なることを「ねじれ」ではなく「分断議会(Divided Congress)」と言う。よくあることで決して珍しくはない。これまでも下院を野党に握られると、予算も法案も大統領が望むような形で議会を通りにくくなった。今回も与野党の間で政治的な調整が必要になる。それが可能かどうかは判らない。
民主党の出方次第という側面もある。次の下院議長に復帰する民主党のナンシー・ペロシ院内総務は「分断はもう沢山」とひとまず融和姿勢をアピールしている。
下院で民主党が多数派になれば、ロシア疑惑をめぐり、トランプ大統領に対する弾劾訴追が現実味を帯びるという見方が当初あった。しかし民主党執行部は、ただちに弾劾への動きを本格化させることには慎重だ。仮に下院で弾劾訴追しても大統領を罷免するためには上院で3分の2の賛同を必要とする。これは可能性ゼロ。可能性ゼロが判り切っているのに弾劾訴追に踏み切れば、民主党が政治停滞の責任を国民から問われかねない。
ただ、来年から下院の各委員会の委員長職は民主党が占めることになる。民主党は、連邦議会の政府に対する監督(Oversight)権限を行使して、トランプ政権にまつわるロシア疑惑にとどまらず、脱税や司法妨害、利益相反など様々な疑惑や問題をひとつひとつ徹底的に追及していく方針。公聴会を開いたり、政権幹部らを証人として議会に呼んだりする。それはトランプ大統領が今もっとも恐れている事態だ。

山澤)
ロシア疑惑に関連して、先ほどセッションズ司法長官が解任されました。

Q4)
このセッションズ司法長官の突然の解任も中間選挙と関係ある?
A4)
もちろん関係が大いにある。セッションズ司法長官はロシア疑惑をめぐり自分が就任前にロシアの駐米大使と面会していたことを理由に手を引いた。その結果、司法副長官によるモラー特別検察官の任命という事態を招き、トランプ大統領から不興をかった。辞任は時間の問題と言われていた。トランプ大統領は中間選挙前に長官を更迭すると「疑惑隠しだ」と世論から反発を浴びて選挙戦に悪い影響を与えるので選挙が終わるのを待っていた節がある。
先ほどの記者会見で、トランプ大統領は「モラー特別検察官の解任に踏み切るか?」と聞かれ「解任しようと思えば出来るがそんな下品なことはしない」と言っていた。次の焦点は、モラー特別検察官による捜査報告が、いつの時点でまとめられるか。実は、これがかなり近いという観測がある。
トランプ大統領としては、今回の中間選挙の結果、来年から下院の主導権が民主党に移る前に、この疑惑の幕引きをはかりたい。つまり年内に片付けたい。そこで、選挙が終わったこのタイミングで、司法長官の解任に踏み切ったのだろう。

Q5)
内政が停滞した場合、トランプ大統領は政権浮揚のため、自分の権限で実行できる外交や安全保障に活路を見出す可能性が高いと言われているが、外交とくに日本との関係では、どのような影響がありそう?
A5)
日米の通商交渉は年明けから始まることが決まっている。貿易赤字の削減を強く迫ってくるのは確実だが、それも既に織り込み済み。過度に心配する必要はない。来週はペンス副大統領も来日して安倍総理らと会談する。そこで選挙後の内政と外交の立て直しをはかるトランプ政権と日本は安全保障戦略をすり合せなければならない。
焦点となるのは貿易戦争や南シナ海問題など「新冷戦」と言われる米中関係。トランプ大統領は今月末の南米アルゼンチンでのG20に合わせて、習近平国家主席と会談する見込み。ここでディールがあるか?あるとすればどんなディールか?その行方を日本も細心の注意を持って見なければならない。
トランプ大統領は、今回の中間選挙の結果、内政で得点稼ぎが難しくなった分、中国に対しても北朝鮮でも中東でも積極的なディール外交を展開する可能性がある。安易な妥協は無論困るが、逆にトランプ大統領に妥協の余地がまったく無くなることも心配だ。

Q6)
今回の中間選挙によって、これまでの2年に比べて今後2年のトランプ大統領には変化は出てくる?
A6)
その点は、トランプ大統領と因縁の深い過去ふたりの大統領のケースが参考になる。歴代の大統領にとって最初の中間選挙は鬼門と言われる。かなり痛い目にあうのが通例。
クリントン元大統領は、1994年、初めての中間選挙で保守派ギングリッチ旋風に圧倒され、上下両院で多数派の座を失う大敗を喫した。そこで、左派的な政策から中道寄りに軌道を修正し、再選を果たした。2期目もスキャンダルはあったが、軌道修正で財政赤字を減らしたお蔭で経済も絶好調、2期8年の任期を全うできた。
オバマ前大統領も8年前、初めての中間選挙は、保守派ティーパーティー旋風に圧倒され、下院で66議席も減らして多数派の座を失う惨敗だった。しかし、クリントン氏とは対照的に、リベラル路線から軌道修正を拒み、いわば唯我独尊を貫いた。その結果、オバマ氏は、リベラル派からの支持で再選は果たしたが、保守派からいっそう反発も受け、2期目は目指す法案はほとんど成立せず、2回目の中間選挙で上院の多数派も失ったため、議会を迂回して自らの権限で漕ぎ着けたイラン核合意もTPPもパリ協定も、後任のトランプ大統領によって悉く覆された。
トランプ大統領はおそらくオバマ前大統領のような道を選ぶだろう。みずからを支持する保守派のための政治、みずからの支持層のための外交を展開し、強気一辺倒でわが道を行くゴーイングマイウェイのスタイルは今後も変わらない。

Q7)
2020年の大統領選挙に向けた展開をどう見る?
A7)
今回の中間選挙によって、ひとつハッキリしたのは、トランプ大統領が共和党内の主導権を完全に掌握したこと。「トランプなしに選挙は勝てない」と多くの党員が認識したことにある。2020年の共和党全国大会は近年激戦州となっている南部ノースカロライナ州シャーロットで開かれることが決まっているが、ここでトランプ氏以外の対抗候補を立てられる可能性はほぼ無くなったと見て良いのではないか。今回の選挙応援での働きから見て副大統領候補も引き続きペンス氏で決まりだろう。
民主党側はまだ“ポスト・オバマ”がはっきりしない。今回もオバマ・バイデンコンビに頼りきりだった。自薦他薦で様々な観測はあるが、党内で求心力を持つ「新しい顔」が見当たらない。それが今の民主党の課題であり、2年後に向けた今後の大きな注目点であろう。

(髙橋  祐介 解説委員)

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