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「アメリカ中間選挙まで1か月」(キャッチ!ワールドアイ)

髙橋 祐介  解説委員

来月6日のアメリカ中間選挙まで5週間を切りました。いま議会の上下両院は、いずれも与党・共和党が多数を占めていますが、残り1か月の戦い次第では、トランプ大統領による政権運営と、2年後の大統領選挙での再選の成否にも影響が予想されています。中間選挙の終盤情勢を分析します。

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Q1)
髙橋祐介解説委員とお伝えします。先週までアメリカに出張して各地を取材してきたそうですが、まず現状はどうなっている?

A1)
早い州では既に期日前投票が始まっているが、事前の有権者登録はまだ締め切られていない。まさにこれから勝敗を決する最大の山場がやってくる。そんな印象を受けた。

今回の中間選挙は、具体的な政策論争には乏しい“争点なき選挙”になるかも知れない。かつてのようにテロ対策や戦争の是非が問われるのではなく、また、いまアメリカの景気は絶好調だから、経済や雇用が争点になるわけでもない。トランプ大統領による政権運営をどう評価するか?いわば“トランプ政治”に対する“国民投票”の様相を呈してきた。

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だからこそ、大統領は、現職としては異例の頻度で遊説に回り、梃入れに懸命だ。ただ、「疑惑と問題だらけのトランプ大統領だから。きっと共和党はコテンパンに負けるだろう」と見切るのは時期尚早。2年前の大統領選挙に比べ、共和党の支持層に大きな揺らぎは見られないし、コアな“トランプ支持”はむしろ強化された面もある。いまアメリカの大手メディアは、トランプ大統領に批判的な厳しい声ばかり大きく伝える傾向にあるので若干注意が必要だ。

Q2)
では、議会下院の情勢から見ていきましょう。下院は定数435議席すべてが改選されます。

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こちらは各種の世論調査の平均値をとった、現時点での議席の獲得予測です。これを見ると、民主党がやや優勢なように見えますが?

A2)
確かに下院は民主党に勢いがある。既に193の現有議席を上まわる議席を固めつつある。これに対して、共和党は現有の235議席から減らすのは確実だ。勝敗ラインは過半数の218議席。共和党はどこで下げ止まるかが焦点になる。

なぜ共和党は苦戦しているのか?中間選挙には2つ特徴がある。ひとつは低投票率。もうひとつが現職有利。

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大統領選挙は投票率が毎回60%前後だが、中間選挙は40%前後。前回は36.4%だった。同じ国政選挙でも有権者の関心が薄いので、熱心な支持者をどれだけ動員し、投票に行ってもらえるか?それぞれの党の組織力がモノを言う。
このため、当選回数を重ねて知名度が高く、資金調達力にも勝る現職が新人より有利になる。現に戦後の選挙を平均すると、現職の再選率は上院で80%、下院では93%に達する。
ところが、共和党は、本来有利なはずの現職の下院議員が過去例のない多さで引退する。
他の選挙への転出なども含めると、43人の現職が今回は立候補していない。

対する民主党は、引退議員が少ないばかりか、予備選挙を勝ち抜いた新人候補の中に、女性の躍進が目立つ。マイノリティやプログレッシブ=進歩派と呼ばれる急進左派も多い。
下院ニューヨークの予備選挙では、28歳のプエルトリコ系の女性オカシオコルテス候補が、“次の下院議長”の呼び声もあった重鎮の白人男性議員を破って一躍スター候補になった。

しかし、そんな民主党にも課題はある。求心力を持つ「党の新しい顔」が見当たらないこと。応援は今もオバマ前大統領やバイデン前副大統領らが頼り。党が一丸となって、投票に行ってもらえるか?組織力と言うより反トランプの“風任せ”の観も否めない。
これに対して「共和党の顔」は無論トランプ大統領。支持率は低くても、少なくとも“トランプ支持者”のハートはがっちり掴んでいる。

Q3)
次に上院の情勢を見てみましょう。定数100の上院は、今回35議席が改選されます。

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最新の議席獲得予測では共和党がやや優勢に見えますね?

A3)
その通り。改選される35議席の内訳を見ると、民主党が26に対して共和党は9議席。守るべき現有議席が、圧倒的に少ない分だけ、共和党に有利な選挙になる。

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では、いま接戦となっている8つの州を見てみよう。実は、8つの州のうち青色の西部ネバダを除く赤色の7つの州は、いずれも、2年前の大統領選挙でトランプ候補が勝った州でもあった。このため共和党は、こうした接戦州で首尾よく“トランプ支持者”に投票に行ってもらえれば、過半数確保は十分可能とみられている。

Q4)
しかし、この地図を見ると、南部テキサス州は、共和党の地盤のはずなのに、接戦州になっている。これはどうして?

A4)
私もそこが気になったので現地の様子を見てきた。テキサス選出の共和党の現職の上院議員はテッド・クルーズ氏。おととしの大統領選挙にも立候補したので覚えている方も多いだろう。草の根のティーパーティー旋風で頭角を現した保守強硬派。テキサスは、この四半世紀、上院は共和党が議席を守ってきた「保守の牙城」だから、今回も“安泰”と見られていた。
ところが、民主党の新人ベト・オルーク下院議員が、猛烈に追い上げ、まさかの接戦となっている。オルーク氏は、ご覧のように甘いマスクで“JFKの再来”とか、歯切れの良い演説の語り口で“オバマの再来”とか言われている人物。この同世代のふたりの戦いは全米からも注目を集めている。

ふたりの訴える政策は見事に対照的。クルーズ氏は銃規制に反対。移民規制や国境管理の強化を訴えているのに対し、オルーク氏は、銃規制強化と寛容な移民政策を訴えている。またクルーズ氏は、あれほど批判していたトランプ大統領に今は露骨に擦り寄って、応援も要請しているのに対し、オルーク氏は、トランプ大統領を徹底批判、自分が当選したら弾劾も辞さないとしている。
人となりも正反対。クルーズ氏は、大学生時代はディベートの全米チャンピョンになり、ハーバードロースクールから連邦最高裁の調査官も務めたバリバリのエリート。キューバ移民の息子でカナダ生まれ。名前はアメリカ流に「テッド」の愛称で呼ばれている。
これに対して、オルーク氏は、もともとミュージシャンでパンクロッカー。アイルランド系だが、メキシコとの“国境の街”エルパソで生まれ育ち、ロバートという名前も、スペイン語読みのロベルトからとった「ベト」のニックネームで呼ばれている。

先日のテレビ討論会で、オルーク氏は、かつて飲酒運転で逮捕された過去を質される場面があったが、「確かに自分は過ちを犯したが、今は深く反省し、第2のチャンスを与えられている。しかし、今のアメリカには、人種差別や偏見によって、チャンスを与えられない人が沢山いる。誰もが第2のチャンスを与えられるアメリカをつくりたい」と言って切り抜けた。問題をはぐらかさない。真摯な受け答えが逆に好感を呼んだ。

オルーク候補「今のアメリカには“不正義”がある。人種や民族、肌色の違いによって2つの司法システムがある」

いまテキサスは変化の真っ只中にある。法人税率が低く、企業進出や投資が盛ん。先頃トヨタも北米本社をテキサスに移した。人口はカリフォルニアに次ぐ全米2番目の多さ。「テハーノ」と呼ばれるヒスパニック系が3分の1以上を占めている。ヒューストン、サンアントニオ、ダラスと、100万都市が州内に3つもあり、「保守の牙城」も都市部に限ってはリベラル化の傾向がある。
オルーク氏は、そうした変化を体現する人物でもあるのだろう。かつてオバマ前大統領は、人種や支持政党で分断されたアメリカの現状に警鐘を鳴らして注目を集め、新人の上院議員から一躍、大統領への道を駆け上がっていった。オルーク氏というスター誕生に、同じ姿を重ねる向きもある。今回はクルーズ氏に届かないかも知れないが、将来性は要注目だ。

Q5)
今回の中間選挙の結果次第で、トランプ大統領による政権運営には、具体的にどのような影響が出てくるのか?

A5)
実は影響は既に出始めている。空席となっている連邦最高裁判所の新しい判事の承認問題がそのひとつ。トランプ大統領は、保守派のカバノー判事を指名したが、36年前に性的暴行を受けたとする女性から告発があり、FBIが捜査している。共和党は捜査が終了次第、採決に入る方針だが、その結果は選挙情勢を左右する公算が大きい。

トランプ大統領は、もともと共和党が地盤とする州から選出された民主党議員に圧力をかけ、カバノー判事の承認に賛成票を投じるよう求め、もし反対したら容赦なく落選運動を強化する構え。とりわけ、大統領が支持基盤とする保守的なキリスト教徒は、この連邦最高裁の承認問題にはきわめて敏感だから、キリスト教福音派の教会などが中間選挙に向けて大動員をかける可能性がある。

もし共和党が上下両院で多数を維持できたら、トランプ大統領は、2年後の再選に向けて大きく弾みをつけることになる。反対に、上下両院とも多数派の座を失えば、再選にはただちに黄色信号が点滅する。

現時点で最も可能性が高いのは、上院は共和党が多数を維持し、下院は民主党が多数を奪還するケース。いわゆる“ねじれ”の状態になる。議会は予算と法案審議に絶大な権限を持っているので、予算が成立せず政府閉鎖が起きたり、トランプ政権が目指す法案が議会を全く通らなくなったりする。そうなると、トランプ大統領は、民主党に歩み寄るよりも、むしろ移民や通商政策などで大統領令を連発する、あるいは、みずからの権限で出来る外交で、これまで以上に突っ走る可能性が高い。大統領の暴走を食い止めるのは、本来議会に課せられた役目でもある。中間選挙は、そうしたチェック機能が改めて問われる機会となるだろう。

(髙橋 祐介 解説委員)

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