NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「現代の紛争を考える ~ジャン=マリー・ゲーノ氏に聞く~」(キャッチ!ワールドアイ)

出川 展恒  解説委員

(山澤里奈キャスター)
「特集ワールドアイズ」。
けさは、国連のPKO(平和維持活動)担当の事務次長などを歴任し、
世界各地の戦争や紛争の解決に取り組んできた
ジャン=マリー・ゲーノ氏へのインタビューです。
スタジオは、インタビューした出川展恒解説委員です。

i180802_03.JPG

Q1:
出川さん、ゲーノ氏は、紛争解決の専門家ですね。

(出川展恒解説委員)
A1:
はい。ゲーノ氏はフランス人で、フランス外務省に勤務した後、
2000年から2008年まで国連のPKO担当事務次長を務めました。
2012年には、内戦が続いているシリア問題で、
国連事務総長の特使代理を務めました。

さらに、世界の紛争解決に向け、現地調査に基づいた政策提言を行う国際的なNGO、
International Crisis GroupのCEOとなり、今日に至っています。

i180802_02.JPG

そして、こちらが、去年出版されたゲーノ氏の著書、
『避けられたかもしれない戦争』です。
アフガニスタン、イラク、グルジア、シリアなど、
今世紀、世界で起きた11の紛争の舞台裏を
国連の平和維持活動の責任者の目から分析し、
戦争や紛争を未然に防ぐ「紛争予防」のとりくみが重要だと強調した
非常に興味深い本です。

ゲーノ氏は、先月、JICA・国際協力機構の招きで来日し、
インタビューに応じてくれました。

内戦が続くシリアや、戦争に発展する恐れもあった北朝鮮の問題、
イラン核合意の行方などについて聞きましたが、
まず、今、世界で起きている戦争や紛争が、
以前と比べてどう変わってきたのかを尋ねました。

【ジャン=マリー・ゲーノ氏】
「15年から20年前、紛争の多くは局地的に収拾することができました。
 しかし現在の紛争は、地域の各国が複雑に関係し、
 あるいは世界の大国が関わりを持つようになったのです。」
「そのため、紛争の解決は難しくなっています。
 紛争の当事者のあいだで合意ができたとしても、
 関係国や超大国の間で合意ができないケースが多いからです。」
「シリア内戦がその例です。
 シリア周辺の大国であるイランやサウジアラビアが納得しなければ、
 内戦を終わらせることはできません。
 だから現在の紛争は解決が難しいのです」。

(出川)
ゲーノ氏自身が、国連事務総長の特使代理として、
紛争解決に取り組んだシリアの内戦について、尋ねました。

【ジャン=マリー・ゲーノ氏】
「シリアの内戦は軍事的な意味合いでは、決着したように見えるかも知れません。
 なぜなら、アサド政権が反政府勢力に攻勢をかけ、
 失っていた領土の大部分を奪還しつつあるからです。」
「しかし、シリアは内戦で徹底的に破壊されてしまいました。
 これまで起きてきたことを考えると、シリアの国民が本当の意味で和解し、
 紛争に終止符を打つのは、不可能に近いと思います。」
「最も可能性が高いシナリオは、アサド政権が国土の大部分を支配する一方、
 トルコがシリア北部の一部を支配するというものです。
 クルド人勢力の台頭を脅威と見るトルコとしては、
 シリアのクルド人組織が支配地域を拡大するのを防ぐ狙いがあります。
 そして、シリアは、今後長期にわたって、
 国家として機能不全の状態が続くと考えられます。」

(出川)
過激派組織IS・イスラミックステートは、
すでに壊滅状態で、シリアとイラクからほぼ排除されましたが、
今後、ISと同じような過激派組織が現れる可能性があると、
ゲーノ氏は指摘しました。

【ジャン=マリー・ゲーノ氏】
「過激派組織IS・イスラミックステートよりも前に存在していたアルカイダは、
 現在も存在し、活動を続けています。
 これは、テロを起こそうとする要因がなくなっていないからです。
 人々が正当な権利を奪われ、不公正な扱いを受けていると考えていることに加え、
 戦争の混乱状態も重なって、過激派組織がテロを起こす原因となっているのです。」

Q2:
ゲーノ氏の重要な主張は、「紛争予防」、すなわち戦争や紛争を未然に防ぐことですが、
北朝鮮をめぐる問題では、どんな見解を示しましたか。

A2:
今年6月のアメリカのトランプ大統領と
北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の首脳会談で注目された
北朝鮮の非核化の行方について、ゲーノ氏に聞きました。

激しく敵対し、戦争が起きるかもしれないと心配された両国の首脳どうしが、
直接会談した意義は評価しつつも、
北朝鮮の非核化は決して容易ではないと述べました。

【ジャン=マリー・ゲーノ氏】
「アメリカと北朝鮮が、今後の交渉で、
 北朝鮮を短期間で非核化することで合意するかどうかについて、
 私は大きな疑問を抱いています。
 北朝鮮の指導部がそれを受け入れるとは到底思えないからです。
 むしろ、アメリカ側が、
 段階的かつ長期にわたる北朝鮮の非核化を認めるかどうかが問題だと思います。」

Q3:
「紛争予防」という観点では、トランプ政権が一方的に離脱した
「イラン核合意」の行方、および、イラン側の今後の出方が気になるところですね。

A3:
はい。ゲーノ氏は、トランプ政権による離脱と独自制裁の再開で、
「イラン核合意」の存続が危ぶまれていると指摘したうえで、
仮に、核合意が崩壊した場合、イラン側も自らの影響下にある民兵組織を動員して、
中東各地の紛争への介入を強化し、地域が不安定化する恐れがあると、
強い懸念を示しました。

【ジャン=マリー・ゲーノ氏】
「しかし今、イラン核合意が将来にわたって存続できるかどうかが危ぶまれています。
 なぜなら、イランが核合意を結ぶことで期待していた変化、
 すなわち、制裁が解除され、
 イラン経済が大幅に改善する見通しが立たなくなったからです。」
「もし、イラン核合意が崩壊する事態になれば、
 イランは報復のための行動を起こすと考えられます。
 イランは、強力な軍は持っていませんが、自らの影響下にある民兵組織を動員して、
 中東各地で混乱を起こすでしょう。
 イランの行動が中東地域を不安定にする恐れがあります。」

Q4:
ゲーノ氏は、「紛争予防」、
つまり、世界各地で起きる紛争を未然に防止するという問題に、
どう取り組むべきだと考えているのですか。

A4:
現代の世界で、「紛争予防」の重要性が増している理由は何か、
そして、国際社会は、この問題にどう取り組み、対処すべきなのかについて、
ゲーノ氏に質問しました。

【ジャン=マリー・ゲーノ氏】
「今日の紛争の問題は、市民が紛争に巻き込まれて被害を受けるというよりも、
 紛争の直接の標的にされてしまう傾向があるということです。
 したがって、国際社会は、今起きている状況が、
 国際法だけでなく、人道的な原則に反していないかどうかを見極めて、
 緊急に対応しなければなりません。」
「紛争を予防するためには、構造的な対応が必要だと思います。
 国によっては、社会の格差が紛争の原因となっています。
 都会のエリートと、農村に住む人々との間の格差といった問題です。
 たとえば、シリアでは、困難な状況に置かれた農民がデモを起こし、
 そのデモが拡大することで紛争が始まりました。
 構造的な対応というのは、地方を取り残さない経済発展を実現すること。
 社会の公正さを確保すること。
 政府と国民の間の最低限の信頼関係を維持することなどです。
 特に、政府と国民の信頼関係は、紛争予防において、非常に重要だと思います。」

(出川)
最後に、ゲーノ氏に、日本への期待について聞きました。

【ジャン=マリー・ゲーノ氏】
「日本は紛争予防でも、人道危機の対応でも、平和を支える活動でも、
 すばらしい財産をたくさん持っています。
 なぜなら日本は、狭い視野に基づき自国の利益ばかりを優先する国とは、
 見られていないからです。
 日本は信頼されています。
 その点で、日本は、紛争関係国の政府に対し、
 穏やかで効果的な説得や働きかけができるのです。」

(出川)
ゲーノ氏が、自ら解決に向けて奔走したシリアの内戦について、
次のように語っていたことが印象に残りました。
「シリアの内戦は、国際社会が、個々の国の出来事に影響力を行使し、
 紛争を解決するには、限界があることを露呈させた。
 大国どうしの利害対立と分裂に原因があるが、
 さらに深刻なのは、いずれの大国も、内戦を終わらせるために、
 どんな政策が必要かを見極める能力を持っていないことだ。」

ますます複雑化し、解決が困難となっている現代の紛争、
後手に回れば、犠牲は大きくなるばかりで、
紛争を未然に防ぐ重要性を強く感じさせられました。

i180802_01.jpg

(山澤)
「避けられたかもしれない戦争」の著者
ジャン=マリー・ゲーノ氏へのインタビューから
世界の紛争について出川解説委員と考えました。

(出川 展恒 解説委員)

キーワード

関連記事