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「トランプ政権 対イラン制裁の波紋」(キャッチ!ワールドアイ)

出川 展恒  解説委員

今年5月、「イラン核合意」から一方的に離脱したアメリカのトランプ政権。
イランに対し、「過去最大級の経済制裁」を行うと表明し、
日本を含む各国に対し、今年11月4日までに、
イラン産原油の輸入を完全に停止するよう要求しました。

これに対し、イランは、核合意にとどまる姿勢を示してきましたが、
最高指導者ハメネイ師は、「原油の輸出が保証されること」は、
核合意に残るための絶対条件だとしています。

また、ヨーロッパ諸国、ロシア、中国などは、
核合意を維持することで一致していますが、
ヨーロッパの企業の間からは、イランから撤退する動きも相次いでいます。

各国の企業に対し、
「アメリカをとるか、イランをとるか」を迫るトランプ政権の独自制裁。
イラン核合意への影響と各国の対応を考えます。

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Q1:
スタジオは、中東情勢担当の出川解説委員です。
出川さん、トランプ政権がこうした厳しい制裁を行う理由は何ですか。

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A1:
トランプ大統領は、オバマ前政権が、3年前、
他の5つの主要国とともに、イランとの間で結んだ「核合意」は、
10年から15年の期限つきで、
イランが将来、核兵器を獲得するのを止められない
「欠陥だらけの合意」だとこき下ろしています。
そのうえで、イランとの間で、
今の「核合意」に代わる「新たな合意」を結びたいと考えています。

そして、イランの国家収入の3分の1を占める原油の輸出を遮断すれば、
イランは経済的に立ち行かなくなり、
「新たな合意」を受け入れざるを得ないだろう。
北朝鮮と同様、「最大限の制裁圧力」をかければ、
イランも交渉のテーブルに着くだろうと考えているものと見られます。

Q2:
トランプ政権が目指す「新たな合意」というのは、どういう内容ですか。

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A2:
▼イランの核開発を制限するのではなく、完全に停止させること。
あわせて、
▼弾道ミサイル開発の停止や、
▼シリアの内戦からイランが撤退することなども盛り込みたい考えです。

そして、トランプ政権の独自制裁は、イランだけでなく、
イランと取り引きのある第三国の企業や金融機関も対象としています。
いわば、「アメリカをとるのか、イランをとるのか」の選択を迫るものです。
各国の企業は、アメリカとのビジネスを犠牲にはできず、
イランとのビジネスを断念せざるを得なくなる。
したがって、イランは原油を輸出できなくなると考えているのです。
実際、ヨーロッパの大手企業が相次いで
イランとの取り引きを停止、あるいは見直す考えを表明しています。

Q3:
イランは、どう対応していますか。

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A3:
イランのロウハニ大統領は、トランプ政権を激しく非難しながらも、
これまでは、核合意にとどまる姿勢を示してきました。
アメリカ以外の国が、核合意を維持してくれることに賭けているのです。
ただし、核開発を大幅に制限することに見合う経済的利益が得られない場合には、
核合意から離脱する意向も表明しています。
最高指導者ハメネイ師は、イランが核合意に残るための絶対条件として、
「原油の輸出が保証されること」を挙げています。

そして、イランは、今、外交攻勢をかけています。
ロウハニ大統領が、今月初め、スイスとオーストリアを訪問し、
EU・ヨーロッパ連合から、核合意への支持を改めてとりつけました。

続いて、先週、核合意に署名したアメリカ以外の5か国と、
外相レベルの会合を開きました。
各国は核合意を完全に守ることを再確認したものの、
イランのザリーフ外相は、
「各国が示したアメリカの制裁への救済策では不十分だ」と、
不満を表明しました。
これに対し、ドイツのマース外相は、
「アメリカの制裁の影響をすべて補償することはできない」と述べて、
救済策には限界があるという見解を示しました。

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こちらのグラフは、イランの原油の輸出先を示したものです。
このうち、中国とトルコは、
トランプ政権によるイラン産原油の輸入停止の要求を突っぱねています。
イランとしては、インド、韓国、日本などとも交渉を行って、
できるだけ原油の輸出量を確保したいと考えています。

Q4:
イランの経済には、すでに影響が出ているようですね。

A4:
はい。
トランプ政権が、核合意からの離脱を表明して以降、
イランでは通貨リアルの価値が暴落し、
物価の上昇が国民の暮らしを直撃しています。
先月下旬以降、首都テヘランやイラン南部で、デモやストライキが起きるなど、
各地で政府に対する抗議行動が広がっています。

トランプ政権は、イランが原油を輸出できなくなれば、
こうした抗議行動がさらに広がり、
イランが、新たな合意に向けた交渉に応じるだろうと考えているようですが、
私は、そうはならないと思います。

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と言いますのは、イスラム革命後のイランは、アメリカを「大悪魔」と呼び、
アメリカの圧力には徹底的に抵抗する意識が、国民の間に浸透しているからです。
そして何よりも、イランには、国連安保理決議のお墨付きも得た
「核合意」を完全に守ってきたという強い自負があるだけに、
トランプ政権の圧力に屈する形で、
「新たな合意」を受け入れる可能性は、ほとんどないと思います。

Q5:
日本政府は、どう対応していますか。

A5:
日本政府も、「イラン核合意」を支持していますが、
トランプ政権の要求に難しい対応を迫られています。
北朝鮮の問題でアメリカと協調しなければならないだけに、
むげにはできないと考えているからです。

日本は、原油の輸入全体のおよそ5%をイランから輸入しています。
日本企業の活動に影響が出ないよう、
イラン産原油の輸入量を減らすことなどを条件に、
制裁の適用除外を受けられるよう、水面下で交渉を続けています。
トランプ政権は、当初、「例外は一切認めない」としていましたが、
ポンペイオ国務長官が、10日、
「いくつかの国が緩和を求めてきているので検討する」と述べるなど、
いくぶん軟化していることから、今後、全力で交渉にあたると見られます。

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仮に、日本がイランから原油を輸入できなくなった場合、
サウジアラビアなど別の国から輸入する必要がありますが、
調達先の切り替えにはコストがかかります。
ガソリンや石油製品の価格が上がるかも知れません。
さらに、トランプ政権の制裁は、原油以外への影響も懸念されます。
たとえば、核合意による制裁解除にともない、
日本企業が計画していた自動車の輸出や
イランの油田開発への投資などもできなくなると思います。

Q6:
トランプ政権の独自制裁は、
イラン核合意と今後の中東情勢にどんな影響を与えるでしょうか。

A6:
最も心配なのは、イランも核合意から離脱して、合意が崩壊する事態です。
今後、日本を含む多くの国々が、イランからの原油の輸入を停止した場合には、
イラン経済への打撃はあまりに大きく、
最高指導者ハメネイ師が予告通り、
核合意からの離脱を決断する可能性もあると思います。
そうなった場合、イランは、核開発計画を再開し、加速させてゆくでしょう。
すでに、核合意が崩壊する事態に備えて、
ウラン濃縮を拡大するための準備作業を始めています。
イランを敵視するアメリカやイスラエルは、
イランの核開発の目的は、核兵器の獲得だと強く疑っています。
また、サウジアラビアなど近隣諸国が核開発競争を始める恐れもあります。
ペルシャ湾岸の軍事的緊張が高まり、
最悪の場合、軍事衝突が起きる可能性も排除できません。
この地域にエネルギーの大部分を依存する日本にとって由々しき事態です。
もし、ひとたび、核合意が崩壊すれば、
新たな合意をつくるのは不可能だと思います。
日本としては、他の国とも協力しながら、現在の核合意を維持するため、
最大限の外交努力を行うことが重要だと考えます。

(出川 展恒 解説委員)

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