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「中国の海洋進出にどう向き合うのか」(キャッチ!ワールドアイ)

津屋 尚  解説委員

史上初の米朝首脳会談に世界の関心が集中する中、着々と軍事力の増強を強める国があります。それは「一帯一路」の構想をかかげ、世界への影響力拡大を狙う中国です。南シナ海では、国際法廷でその主張が否定された後も、人工島の軍事化を着々と進めています。先ごろシンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、中国の海洋進出に対し、各国の国防のトップから強い懸念が示されました。

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(フランス・パルリ国防相)
「板門店に世界の焦点が当たっているからといって南シナ海の問題が消えたわけではない」
(アメリカ・マティス国防長官)
「中国は脅迫と威圧のため島に軍を配置している」
中国の軍拡と海洋進出について考えます。

軍事・安全保障問題が専門の津屋尚解説委員です。

Q: アメリカは最近、ハワイに司令部を置く「太平洋軍」を「インド太平洋軍」と名称を改めました。中国の海洋進出と軍備増強がその背景にあると聞いていますがそうなんでしょうか?
A: その通りです。この名称変更の背景には中国の存在があります。中国の海洋進出がインド洋にも広がろうとしていることを受けての対応です。中国に対する警戒感の大きさを示すものです。最近は、北朝鮮情勢にメディアの関心が集まりがちですが、長期的に見れば、中国の軍備増強や海洋進出は、日本の安全保障にとってより大きな問題だと言うこともできます。

■続く軍備増強

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Q:中国の国防費が年々増える傾向は続いているのでしょうか?
A:いぜん高い水準で伸び続けています。3月に発表された今年の中国の国防費は、去年より8,1%増えて1兆1069億元(約18兆4000億円)。30年間で実に50倍です。10年前と比較しても3倍以上にもなっています。
予算の額だけでなく、質的にも飛躍的に向上しています。1月にアメリカ国防総省が公表した「国防戦略」という戦略文書は、中国が軍事技術を飛躍的に向上させていることを念頭に次のように分析しています。
『アメリカの軍事的優位性は失われつつある』。
『“陸・海・空・宇宙・サイバー”というすべての戦闘領域で優位性を失う可能性がある』。極めて厳しい情勢認識と危機感を示しています。
今月初め、世界各国の国防のトップや専門家がシンガポールに集まってアジアの安全保障問題について議論する「アジア安全保障会議」が開かれ、私も参加しました。この会議では毎年、中国の軍拡や海洋進出が議論の大きなテーマになりますが、今年は例年にも増して各国の参加者から強い懸念が示されました。

■進む南シナ海の「軍事化」

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Q:どんな懸念ですか?
A:特に問題が深刻化しているのが、南シナ海の情勢です。南シナ海は世界経済にとって極めて重要なシーレーンで、日本にとっても中東から運ばれる石油のほとんどはここを通過します。中国は、そのほぼ全域が自国の海だと主張して周辺国と対立してきました。そして、浅瀬を埋め立て人工島を次々と造成して、その人工島も自国の領土だと主張しています。ところが、おととし7月、ハーグの国際法廷は、この主張を否定する判断を下しました。にもかかわらず、中国はこれを無視して、その後も人工島の造成を続けています。
アメリカは、中国の主張を打ち消すため、人工島周辺の海域に米海軍の艦艇をわざと入れて航行させる「航行の自由作戦」を行っていますが、中国は主張を改めていません。時間の経過とともに人工島はどんどん大きくなり、港湾施設や滑走路やレーダーなどの施設が次々に完成。軍用機の発着も確認されるなど、人工島の“軍事利用”が着実に進んでいます。
これについてアメリカのマティス国防長官は「中国は脅迫と威圧を目的に人工島の軍事拠点化を進めている。習近平国家主席が2015年、オバマ大統領に人工島の軍事化はしないとした約束したが、それに反している」と厳しく批判しました。
この批判に対して中国人民解放軍の可雷中将は、「自国の領土に軍隊が駐留するのは国際法が認める当然の権利だ。南シナ海を軍事化しているのは軍の艦艇を送り込んでいるアメリカの方だ」と強く反論しました。この発言があった大会議場に私も居合わせていて直接その主張を聴いていましたが、中将は顔を赤らめて、非常に大きな声で主張を展開していたのが印象的でした。中国はこうした国際会議の場では、国際社会からの批判も意識して、特に人工島の「軍事利用」については慎重に発言していたという印象がありましたが、今回は、自分の島に軍が駐留するのは当たり前と開き直った形です。もうここまで来たら誰も止められないだろうと中国は自信を深めているように思います。会議では、「法に基づく国際秩序」の重要性が多くの参加者から語られましたが、南シナ海の現状を見る限り、まったく逆の方向に進んでいると言わざるを得ません。


■日本周辺でも海洋進出。
Q:中国軍の活動は日本周辺でも目立ってきていますよね?
A:その通りです。こちらの地図を見てください。

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見慣れた日本周辺の地図ですが、横にして見ると中国が抱える地理的な制約がわかります。日本列島と南西諸島の島々の連なりが、中国にふたをするように位置し、中国が外洋に出て行くのを妨げているようにも見えます。この島々の連なりは「第一列島線」と呼ばれています。

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中国の海軍艦艇はかつて「沿岸防衛型」といって、この内側での活動がほとんどでしたが、いまはこの外側で活動する「外洋型」への変貌を図ろうとしていて、
実際、太平洋への進出が常態化しています。その際、空軍機もその上空を飛行するケースも多く、海軍と空軍が連動して活動していることをうかがわせています。

■インド洋にも・・・。

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Q:太平洋と南シナ海、中国の海洋進出は広がっていますね?
A:実は中国の活動はインド洋にも広がっています。インド洋では、中国の潜水艦の行動が確認されているほか、アフリカのジブチには去年、中国初の海外軍事基地がつくられ、補給拠点となっています。さらに、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカなどインド洋沿岸の国々には、中国が資金を出して、港湾施設が建設されています。将来、必要が生じた時、軍事拠点としてこれらの港湾施設を使いたいという思惑があるではないかと指摘されています。
そして、有名な「一帯一路」構想は、経済的な観点から語られることが多いですが、経済支援をテコに安全保障面でも影響力を拡大することに本当の狙いがあるのではないかと安全保障の専門家は指摘しています。そこには、アメリカが
支配してきた世界の海洋秩序を自国の都合のよいように書き換えたいという思惑があるとみられます。

■国際社会の対応は・・・。
Q:国際社会は中国の動きにどう対処すべきでしょうか?
A:いまは、中国への警戒感を共有する日米豪印といった多国間の協力が注目されていますが、状況は簡単ではありません。特に、南シナ海について言えることですが、法に基づいて国際秩序を維持することが望ましいですが、経済力と軍事力にものを言わせて国際ルールを無視する中国に対しては、有効な手立てを
見つけられないのが現状です。
 海洋を通じた世界との貿易によって支えられる日本にとっては、違う価値観を持った中国の海洋進出の動きは、一層注意を払って見ていく必要があると思います。

(津屋 尚 解説委員)

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