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「シリア難民 留学生受け入れ」(キャッチ!ワールドアイ)

二村 伸  解説委員

アメリカのトランプ大統領による中東などからの入国制限と難民の受け入れ停止をめぐる波紋が世界に広がっています。大統領令では、テロ対策としてシリア難民の受け入れを無期限停止するとしています。一方、国際社会は、難民はテロの犠牲者だと反発しています。シリアの紛争はまもなく7年目に突入、国外に逃れた難民は490万人に上ります。そうした中、紛争により教育の機会を奪われた難民の若者たちに、日本で学んでもらおうという取り組みが始まりました。これまで閉鎖的と言われてきた日本の難民受け入れの新たな動きを探ります。

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Q1.難民受け入れの新たな動きとはどんなことですか?

留学生として難民を受け入れようという取り組みです。シリアでは紛争で国民の半数にあたる1100万人が住む家を追われ、このうち490万人が難民として国外に逃れています。紛争が長期化し祖国に戻るめどが立たないこうした人たちを、各国が分担して受け入れるよう国連は求めてきました。そこで日本政府は、難民としては難しいため留学生として受け入れることにしたのです。

Q2.難民ではなく留学生としてなのですね。

日本はこれまで難民の受け入れが欧米各国に比べて極めて少なく、閉鎖的だと批判されてきました。紛争から逃れてきただけでは難民として認めない厳格な審査が壁となっているのです。社会全体が難民を受け入れる態勢が整っていないことも背景にあります。

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戦後最悪の難民危機と言われた2015年に、日本が難民認定した人は27人。このうちシリア人は3人。紛争が始まってからの合計でも6人にとどまっています。一方、ドイツは2015年末時点で11万6千人、スウェーデンが5万3千人で、これらの国々と比べるとあまりに少ない数字です。
今回日本政府が、留学生として受け入れるのは5年間で最大150人です。

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このうち文部科学省が国費外国人留学制度を利用して年に10人、JICAが技術協力制度の一環として年に20人、大学院で学ぶシリア人を受け入れます。妻や子どもの同伴も認め、実際に日本に来るのは200人から300人になると見られています。あくまでも留学であり制度上は難民の受け入れではありませんが、日本での就職も可能で、定住につながるという点では一歩前進だと評価する声も聞かれます。さらに、今回注目したいのは政府とは別に民間レベルで留学生を受け入れる取り組みです。

Q3.民間でも受け入れるのですか?

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NPO法人の「難民支援協会」が、日本語学校と協力して、シリア人の難民を留学生として受け入れるもので、第1陣としてシリアからトルコに逃れた10代と20代の男性3人、女性3人のあわせて6人が来月下旬、日本に来て4月から勉強を始めます。

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日本への留学希望者は3週間で212人にも上り、応募の理由としては、日本での経験を祖国の復興にいかしたい、日本と中東の架け橋になりたいなどといった声が多かったということです。

Q4.政府の受け入れとは何が違うのですか?

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A政府が受け入れる留学生は、大学院の修士課程で学び、月に14万円あまりの生活費が支給されます。妻や子供の同伴も認められ、JICAの留学生だと、妻にも1万3000円、子どもも1人6500円支給されます。一方、NPOの場合は、高校卒業資格を持つ26歳以下の難民が対象で、日本語学校で2年ほど勉強し、大学への進学をめざすことになります。日本語学校の授業料は免除されますが、食費や住居費などの生活費はアルバイトをして稼がなくてはなりません。

Q5.働きながら勉強するのはたいへんですね。

民間の場合は寄付金が頼りで財源が限られ、より多くの難民に機会を与えるためにはしかたないとして、難民支援協会では自立を促したいとしています。

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難民支援協会の石川えり代表理事は次のように話しています。「民間が受け入れを示すことで日本が積極的になるのではないか。日本の社会にどれだけ馴染んでいけるか、また受け入れる土壌を作っていけるか。生活者としてどう日本の社会に入っていけるか、それをどう支えていくかが課題です」
難民支援協会では来年以降も受け入れを続けたいとしており、それには政府の協力とともに幅広い民間のサポートが必要です。また、日本にはシリアから留学生としてきたものの紛争で国に帰ることができなくなった人や紛争の途中で、自力で日本に来て勉強している人も大勢います。

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留学生として日本で学んだシリア人のイマドさんに話を聞きました。「大学に通うのは危なかった。日本で一番うれしかったことは平和です。学校に不安なく行けて夜帰ることができる。シリアではそれがないのです。留学制度によりシリア人に希望、チャンスが与えられることを感謝しています」イマドさんはこのように話していました。

Q6.海外では民間の受け入れはどうなっているのでしょうか?

「Private Sponsorship」と呼ばれ、欧米ではNGOなどの団体や教会、企業などが積極的に難民を受け入れています。とくにドイツでは、政府とは別に民間が2万人以上のシリア難民を受け入れ、大学も数十人単位で奨学金を出して受け入れているところがいくつもあります。

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また、難民を積極的に受け入れているカナダのトルドー首相は、難民に冷たいトランプ大統領に対抗して、ツイッターで「迫害やテロから逃れてきた皆さん、カナダ人は進行に関わらずあなた方を歓迎します」と表明し、株を上げました。カナダでは政府の認可を受けた民間の受け入れ団体が100をこえ、シリア難民の3分の1が民間主導の受け入れだということです。

Q7.日本での民間の受け入れは定着するでしょうか。

日本はまだ経験も少なく、社会全体で受け入れる態勢になっていませんが、民間での関心は高く、これを機に支援活動が広がるか注目したいと思います。とりわけ将来を担う若者たちに教育の機会を提供することは重要な意味があります。アメリカのトランプ大統領のような他者を排除するやり方ではかえって反感を招きテロを助長しかねません。日本として何ができるか一人一人考え、行動に移すことが重要だと思います。

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