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「女を修理する男」(キャッチ!ワールドアイ)

二村 伸  解説委員

アフリカのコンゴ民主共和国では、数々の武装勢力や政府軍の戦闘が続き、法秩序が失われた国では多数の女性が性暴力の被害を受けています。そうした女性の治療と心のケアを続ける産婦人科医のデニ・ムクウェゲ氏を描いたドキュメンタリー映画がUNHCR駐日事務所主催の難民映画祭で上映されています。

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そのムクウェゲ氏が10月始めに市民団体の招きで日本を訪れ、コンゴ民主共和国で何が起きているのか語りました。紛争下の人権侵害や違法行為に対して、日本をはじめ世界は何ができるのでしょうか。NHKのインタビューで、ムクウェゲ氏は、女性や子どもの人権とともに、鉱物資源の違法な採掘の規制を訴えました。

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「紛争地域で人々は奴隷のように働かされ、武装勢力のリーダーたちは鉱物の違法採掘によって裕福になっているのです。日本の人たちにこの問題を知ってもらい、意識してほしい。『皆さんが買っているものに気をつけてください』と言いたい」

ムクウェゲ氏は、4万人に上る性暴力の被害者の治療以外に、武装勢力が資金源としている鉱物資源の違法な採掘や奴隷労働の実態を世界に訴えてきました。その活動が評価され、これまでに国連人権賞やサハロフ賞などを受賞、ノーベル平和賞の候補にも毎年あがっています。
ムクウェゲ氏が、武装組織や政府の脅迫に屈せず活動を続けられるのは、女性に勇気づけられているからだと言います。
「私が治療した女性たちを見ていると、女性こそが人類が前進する推進力の源だと気づかされます。悲惨な状況にあっても女性たちは自分の子どもや夫、家族のこと、社会のことを考えます。女性たちのそばで治療をしていて女性の力を知り勇気づけられてきました」

武装勢力の違法な行為を糾弾しているムクウェゲ氏は命を狙われ、暗殺未遂事件も起きたため、一度は国外に避難したのですが、帰国を願う女性たちの熱意に打たれ、帰国しました。映画でそのときの感動的なシーンが紹介されています。国連による厳重な警戒の中、帰国したムクウェゲ氏を大勢の女性が出迎えた場面です。実は、女性たちは大統領や国連の事務総長に手紙を出し、ムクウェゲ氏が無事帰国し安全でいられるよう請願しました。そして野菜や果物を売って得たお金を出し合って医師のために航空券を買ったのです。

「確かにあの時、彼女たちを見て感動しました。彼女たちの決意と、物事をやり遂げる力を改めて感じ、胸が震える感動を味わいました。特に、家に彼女たちがつきそって来てくれた時の事は忘れられません。その様子は映画では出ていないかもしれませんが、私が必要だろうと思う品物をすべて持ってきてくれました。そして、「25人の女性たちが毎日交代で私の家を警備する。」といったのです。そんな彼女たちを前に、私は思わず涙しました」

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ムクウェゲ氏が日本や世界に訴えたいことは、2点あります。1つは、コンゴ民主共和国で何が起きているのか、実態を知ってほしいということ。もう1つは、武装勢力が資金源としている鉱物の違法な採掘や売買を止めることです。

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アフリカではこの20年ほどで見違えるような発展を遂げた国が少なくありませんが、この国はダイヤモンドや錫、希少金属など世界屈指の資源国でありながら、貧困率70%、世界最貧国の1つです。とくにムクウェゲ氏が活動拠点を置く東部は、20年ほど前に内戦状態となり、女性や子供が奴隷のように働かせられ、多くの女性が性暴力の被害を受けています。ムクウェゲ氏は犯罪者が裁かれない現状を変えるために世界に訴えかけているのです。
「専門家によると600万人が殺され、数十万人の女性が性的暴力を受け、数百万人が強制移住させられました。しかし、それらの犯罪行為は処罰されずにいます。その点を日本は国連(安保理?)の一員として問いただすことができます。なぜこれだけの規模の戦争犯罪が裁かれないままなのかと」

2点目の鉱物の規制について、アメリカではパソコンや携帯電話に使われるタンタルなどの鉱物を「紛争鉱物」に指定し、企業に原産国の調査・公表を義務付けており、日本に対しても規制の強化を求めています。
「企業が鉱物の出所を確認できるような法律です。これは大きな一歩ですが十分ではありません。ヨーロッパも一歩進みました。紛争鉱物がヨーロッパ内に入るのを禁止する法律を作ろうとしています。日本のような国が同様の措置をとれば、非常に大きな枠組みとなるでしょう。日本のテクノロジーが含まれた様々な製品が世界中で消費されているのですから。日本の人たちにこの問題を知ってもらい、意識してほしい。『皆さんが買っているものに気をつけてください』と言いたい」

女性や子どもの権利の保護や法の支配、紛争鉱物の規制、そして地域や世界の平和まで、危険にさらされながらも訴え続けるその熱意と行動力は称賛に値します。国際社会はこうした声を重く受け止め、暴力や搾取のない社会を築こうという地道な取り組みを後押しすることが求められます。

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