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キャッチ!インサイト 「失踪する外国人実習生」

広瀬 公巳  解説委員

【技能実習生】
日本で働きながら、さまざまな技能の習得を目指す「外国人技能実習生」。
ところが最近実習生が受け入れ先の企業から失踪するケースが増え続けています。

【14年国務省報告書】
日本の実習制度はアメリカの国務省が「強制労働」と指摘するなど、
賃金の不払いや長時間労働などが国際的な批判の対象になっています。

【実習生 建設現場 雑感】
失踪の背景には何があるのか。
日本は、外国人の力をどう活かすことができるのか?
技能実習生の問題を考えます。

(香月Q1)
スタジオには広瀬公巳解説委員です。
外国人が姿を消してしまうというのはどういうことなんでしょう。

(広瀬委員A1)
たとえばきのうまで働いていた外国人が突然姿を消し、
連絡がとれなくなってしまうというようなことです。
【パスポート技能実習】
今回問題になっているのは「技能実習」という在留資格の人で滞在期限は最初は1年、
多くの場合は延長が認められて3年となっています。
 
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この期間を超えて滞在している外国人が相当数いるものとみられ、
これは日本での不法滞在ということになります。
      
(香月Q2)
どれぐらいの外国人がいなくなっているのでしょうか。
 
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(広瀬委員A2)
失踪する実習生の数は急増していて、
全部で16万人ほどいる技能実習生のうち5000人にのぼっています。
最近では、帰国間際ではなく、日本に入国して一年以内に、
行方不明となるケースも増えています。
主な国籍を見ると中国が全体の6割程度、
そのほかベトナムやインドネシア人などとなっています。
 
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日本にいる外国人の不法残留は減り続けていたのですが、ここにきて増加に転じています。
技能実習生はその一因となっています。
 
(香月Q3)
そんなに多くの外国人がなぜ失踪してしまうのでしょうか。
 
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(広瀬委員A3)
一つは労働環境の問題です。
パワハラや賃金の不払いや長時間労働など報告されています。
しかし実習生側からの苦情や文句の届け出はあまりありません。
雇い主を告発すれば自分も帰国せざるを得なくなる弱い立場です。
失踪をふせぐためにパスポートや貯金を
強制的に預けさせられる例などが報告されています。
「技能実習制度」は、アメリカの国務省が「強制労働」という言葉を使うなど
外国人労働力を「安く便利」に使うものためのものとして
国際的にも批判されてきました。
       
(香月Q4)
改善のための取り組みは行われていないのでしょうか。

(広瀬委員A4)
実習の監督の強化などを盛り込んだ新法が今国会に提出され
制度の改善に向けた取り組みが始まっています。

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新しい法律案では、監理団体や企業に対する監督を強化するため
立ち入り検査などの権限を持つ組織を新設するほか、
・実際の実習計画は認定制、
・実習実施者は届け出制、
・監理団体は許可制、とするなど
人権侵害につながるような不当な労働が行われないような改善策が講じられています。
ただ、失踪をなくすためには外国人の人権を守るという視点だけでは、
十分ではないと考えられています。
       
(香月Q5)
労働環境を改善するだけでは足りないということですか。

(広瀬委員A5)
外国人側にも問題、もしくは事情があるからです。
【VTR:実習生】
多くの受け入れ先では、外国人は大切に扱われ、
技能を身につけてもらいながら働いています。
しかし、収入を確保するために在留資格の期限が切れた後も本国に帰国せず、
日本で働き続けようとする外国人が大勢いるものと見られています。

(香月Q6)
なぜそのようなことが起きるのでしょうか。

(広瀬委員A6)
それを知るためには、「技能実習」がどのような制度なのかをみて行く必要があります。
 
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「技能実習」はもともとは外国に進出する日本企業が
日本で仕事を習得させようとしたもので、
当初は「研修生」と呼ばれていました。
しかし研修生では、労働者と扱うことができません。
そこで技能を習得するという名目で、
実際には働くことができる在留資格の「技能実習」が生まれました。
ですので制度上、政府は途上国の人づくりを行う国際貢献の一環と位置づけています。
しかし、実際には単純労働者の不足を補うもので、
外国人側から見ると入国の抜け道になってきました。
こうしたことから外国人の中には最初から出稼ぎ目的という人が少なくありません。
出国の際に本国の紹介機関に借金をしている人も多く
在留の期限が終わっても日本で働き続けようとする土壌があるのです。
     
(香月Q7)
外国人実習生の失踪をなくしていくためにはどんな対策があるのでしょうか。

(広瀬委員A7)
それは簡単ではありません。

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実習生の受け入れ支援を行っている国際研修協力機構では、
実習中の外国人が不法滞在しないよう、
「不法滞在は強制退去や刑事罰の対象になる」
「不法滞在するとその弱みに付け込まれて犯罪に加担させられる」などと
呼びかけ失踪の防止に努めています。
かつて、就労を目的とした日本語学校の学生の増加が問題となったことがありますが、
募集の段階で来日の目的をしっかりと確認することも大切なことです。
      
(香月Q8)
日本以外の国ではどうなっているのでしょうか。
 
(広瀬委員A8)
韓国では、かつて外国からの研修生を労働力として用いていましたが、
10年ほど前に単純労働者を受け入れる制度に切り替えています。
これが韓国の雇用許可制です。
 
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特定の分野の仕事について、まず韓国国内で働き手の募集を行い、
希望者がいないことが確認されれば、外国人に就労の許可を出すという仕組みです。
人材の送り出し国と個別の調整を行い、
問題のある人材仲介の取引の例も減り
国連からも優れた労働政策として評価されています。
途上国支援なのか、人材調達なのか、あいまいな日本とは異なり、
単純労働者としての受け入れを決め、制度を現実に合わせていったのです。
    
(香月Q9)
日本は韓国と同じようにいかないでしょうか。

(広瀬委員A9)
韓国の例でも問題がないわけではなく、どのように考えていけばよいのか難しい問題です。
この問題、大もとにあるのは「単純労働者は受けいれない」という国の方針で、
これをどうするのかは幅広い議論と国民のコンセンサスが必要なことです。
【VTR:実習】
外国人実習生は今後、「介護」という人を相手にする分野でも、
受け入れが進められようとしている身近な問題です。
それと同時に、失踪の問題は外国人の不法な定住が進んだり
犯罪の温床となることも懸念される深刻な問題でもあります。
失踪の実態把握を急ぎ、有効な対策をできるだけ早く取る必要があると思います。
 

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