新型コロナワクチンの新たな接種が、2023年9月20日から始まりました。「ワクチンは、すでに何回も接種した」という人がいると思います。今回のワクチン接種は、従来のものと何が違うのか、接種するかどうかについて、どう判断したらいいのか考えます。
◇今回のワクチン接種の概要
今回のワクチン接種は、どういったものなのかを示したのが、下の図です。
接種の期間は、2023年9月20日から2024年3月31日までです。開始の日付は、自治体によってはやや遅れるところもあるようです。
接種の対象は、生後6か月以上のすべての人です。
費用については、今回も自己負担はありません。
特徴は、感染者が多い「オミクロン株」の「XBB.1.5」というウイルスに対応したワクチンだということです。「XBB」対応のワクチンは、初めてです。
目的は、重症化予防です。感染や発症の予防については、接種の後、比較的早い時期に効果が低下すると考えられていますが、重症化の予防については、長く継続すると考えられています。
◇今回の接種の必要性
新型コロナのワクチン接種は、2021年2月以降、繰り返し実施されてきました。
65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人など「リスクの高い人」は、上の図の緑の帯で、多い人は接種を6回受けています。最後の接種機会は、ことし5月から行われてきた接種です。
その他のいわば「リスクの低い人」は、接種の機会がこれまで4回ありました。
接種を繰り返してきた中で、再び接種する必要性はどこにあるのでしょうか。
一つは、ワクチン効果の低下です。
重症化予防の効果も、接種後の時間とともに次第に下がってきます。前回接種から半年、あるいはリスクの低い人ではそろそろ1年が経過します。ワクチンの効果が一定程度下がってきていると考えられます。
もう一つは、新型コロナでは、これまで毎年、冬場に感染の拡大を経験しています。これから迎える冬の感染拡大に備えて、ワクチン接種によって、感染しても重症になるのを防いでもらおうというわけです。
◇XBB.1.5対応ワクチンの意味
今回のワクチンは、「XBB.1.5」のウイルス対応ということでした。その意味は、流行しているウイルスに、合わせたワクチンを接種するということです。
下の図は、日本の感染で、どのウイルスが多いか、その割合を示したものです。
2023年8月現在では、オミクロン株の仲間の「XBB.1.5」など、「XBB」という名前のついているウイルスが多くを占めていることがわかります。
オミクロン株が感染のほとんどを占めるようになった2022年以降、感染の主流は「BA.1」から「BA.2」に移り、「BA.5」となりました。それが今は「XBB」です。
今回接種するワクチンは、「XBB.1.5対応」となっていますが、「1.5」も含めて上の図(2023年8月)で、赤で囲った他の「XBB」のウイルスにも効果があるとされています。
これまでのワクチンは、「新型コロナ発生当初のウイルス」や「BA.5のウイルス」などに対応したものでした。XBBのウイルスに対応していませんから、今回のワクチンの方が、高い効果が期待されます。
上の図の2023年8月の棒グラフ部分を見てください。「EG.5.1」というウイルスが増えてきていることがわかります。「EG.5.1」は、「XBB」のウイルスから変異したものです。これまでの研究では「XBB.1.5」対応のワクチンは「EG.5.1」にも「XBB」と同程度の効果があるとみられています。この点は、今後さらに詳細に分析されると思います。
今回のワクチンは、いま流行しているウイルスに、より効果が期待できると考えられています。
◇今回のワクチンのリスク「副反応」
一方で、ワクチン接種には、一定のリスクが伴います。
「XBB.1.5」対応のワクチンとしては、ファイザーとモデルナのワクチンが9月に承認されました。両社のワクチンは、基本的にこれまでと同じ製造方法でつくられています。このため、副反応もこれまでと同程度と考えられています。
副反応の現れる割合別に症状を示したのが、上の表です。接種部位の痛みや疲労、頭痛は50%以上=半数以上の人にあらわれるとみられます。ほかに、関節の痛みや発熱などがあります。
以前接種したとき、副反応があったという人は、今回もそうした副反応があると考えておく必要があります。
ワクチンを接種した際の、効果と副反応=つまりリスクを比べて、接種するか、しないかを判断するということになります。
◇接種をどう考える・・・重症化リスク高い人
まず、重症化リスクの高い人について、みてみます。
これは、高齢者=65歳以上の人や、基礎疾患のある人などです。
基礎疾患のある人とは、具体的にどのような人なのか。
▽慢性の心臓、肝臓、腎臓、呼吸器の病気の人、
▽病気や薬の投与によって、免疫が低下している人、
▽重症化のおそれがあると医師が判断した人などです。
加えて、18歳未満については代謝性疾患など、18歳以上についてはインスリンなどで治療中の糖尿病の人や肥満の度合いを示す指標「BMI」が30以上の人などです。
こうした人たちは、新型コロナに感染した際に、持病の悪化などを伴って重症化する心配があります。
専門家は、重症化リスクの高い人は、「ワクチンを接種するメリットが大きい」と話しています。
◇接種をどう考える・・・重症化リスク低い人
一方、健康な若い人など、重症化リスクの低い人はどう考えたらいいでしょうか。
頻度は、高齢者のように高くはありませんが、重症化することはあります。その重症化の予防、感染が広がる冬に備える、XBBに対応=効果が期待できることなど、接種することのメリット、これを副反応のリスクと比べて、大きいと考えるかどうかだと思います。
子どもの接種など、判断に迷うときは主治医と相談するのがよいと思います。
妊娠している人に関しては、海外では接種をするよう勧めている国もあります。診察の時などに医師と相談して接種するかどうか決めてください。
◇新型コロナとインフルエンザの感染状況とワクチン接種
新型コロナの感染状況が下の図です。
全国的に増加傾向が続いています。医療のひっ迫を警戒する声も医療関係者などから聞かれます。こうした感染状況もワクチン接種を考える上では、一つの判断材料になるかもしれません。
学校では、インフルエンザの感染で学級閉鎖という話も聞きます。上の図の下段は、インフルエンザの感染状況です。新型コロナが現れる前(図中2018年と19年)は、11月や12月ころになって増えました。しかし、2023年は、早くから感染者の増加傾向がみられます。これは、新型コロナの感染拡大以降、インフルエンザの感染者が少ない年が続いて、インフルエンザに対する免疫が下がっている人が多いことなどが影響しているのではないかと専門家は指摘しています。
新型コロナとともに、インフルエンザのワクチン接種を検討している人もいると思います。インフルエンザワクチンは、10月から接種が始まります。
新型コロナワクチンは、基本的にほかのワクチンと同時に接種することはできませんが、インフルエンザワクチンとは、同時接種ができます。同時接種をするかどうかも、選択肢の一つになると思います。
新型コロナの生活などへの影響は、だいぶもとに戻ってきています。しかし今後、どの程度感染が広がるのかなど、わからないことは少なくありません。
ワクチンの有効性やリスクを確認して、主治医と相談するなどして、接種するかどうか決めてほしいと思います。
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