遺跡の発掘調査は全国で毎年8000件前後。その全体から見れば数は少ないものの、市民参加を呼びかけているところがあり、地域づくりに生かしていこうという取り組みも見られます。
■「謎のエリア」で発掘体験
例えば佐賀県の吉野ヶ里遺跡。広大な遺跡の一角に、神社があったため長年調査が行われてこなかった「謎のエリア」と呼ばれる場所があります。昨年度から調査が可能になり、ことし6月には、新たに見つかった邪馬台国の時期と重なる墓の調査が行われました。
このエリアでは今月下旬から発掘調査が再開され、10月と11月の6日間、発掘調査体験会が予定されています。
■「国府」解明へ継続参加
こうした「体験型」の発掘調査がある一方で、市民が継続して参加することで、その成果を地域づくりに生かしていこうという取り組みも。
その一例が、福井県越前市です。市街地には古代の役所「越前国府」があったと考えられ、本興寺という寺のあたりが有力視されています。ただ、周辺には建物が密集し調査の機会が限られていたこともあって、具体的な場所は特定できていません。
その本興寺の境内で、今月1日から市民ボランティアが主体となった発掘調査が始まっています。
国府は奈良時代や平安時代に「国」を治めた中心施設で、今の都道府県庁にあたります。
越前国府にゆかりのある有名人が、「源氏物語」の作者として知られる紫式部です。父親の藤原為時が赴任したときに同行し、20代の半ばに1年ほど暮らしていたということです。
今回の発掘調査は、その紫式部が主人公のNHKの大河ドラマ「光る君へ」が来年放送されることを受けて、国府の場所を解明しようと越前市が行っています。
ちょうど本興寺の境内に建物が撤去された場所があり、今年度は今月と来月の2か月間で、およそ100平方メートルを発掘します。
この調査を身近に感じてもらうには市民の参加が欠かせないと、市が立ち上げたのが市民ボランティア「越前国府見つけ隊」です。自分たちの手で国府を探し出そうというプロジェクトに39人が応じ、事前に2回の研修を受けて交代で現場に出ています。
参加者は「自分のふるさとで越前国府の遺跡が見つかれば。われわれの代で見つけたいという思いがあります」「この町のアイデンティティーは国府だと思います。ぜひ物的証拠を見つけたい」と意気込んでいました。
この調査、場所を変えつつ5年がかりで行われます。越前市は、市民が参加して国府の調査を進めることで、郷土への誇りや愛着を持ってもらいたいとしています。
■「民・学・官」の共同事業も
次にご紹介したいのが、地域住民がより主体的に発掘調査に関わっているケースです。
岡山県真庭市の北房地区にある、荒木山西塚古墳。古墳時代前期、4世紀に造られた全長63メートルの前方後円墳です。
去年11月からことし3月にかけて行われた発掘調査では、全国的にも珍しい調査体制がとられています。「民・学・官」の3者による共同事業です。
「民」は地元の文化財の顕彰を進めようと市民が結成した「北房文化遺産保存会」。それまで発掘調査が行われていなかったこの古墳についてもっと知りたいと考え、市に調査を呼びかけていました。
「学」は、この地域で文化遺産を活用した地域づくりに携わってきた、同志社大学。現場では調査の指揮にもあたります。
「官」は真庭市。調査を担当する教育委員会だけでなく、この地域で市民参加のまちづくりを進める振興局も加わっています。
さらには岡山県民にも参加を呼びかけ、86人が応募。地元の小・中学生が参加する日も設けられました。
この中で、現場作業の中心的な役割を担ったのが、「民」である保存会です。
発掘現場では一般参加者とともに調査を行い、保存会のメンバーが指導役を務めます。
現地説明会で調査成果を解説したのも保存会のメンバー。駐車場の誘導や古墳への道案内も行ったということです。
調査を円滑に進めるために、保存会は「発掘」や「記録・広報」「安全管理」など5つの班を設け、およそ30人のメンバーを割り振りました。
保存会の畦田正博会長は「最初はお手伝いくらいに思っていたが、やってみると大変だった。ただ、自分たちの手で土器を見つける喜びがあり、参加した子どもたちにも地域のすばらしさを感じてもらえたのではないかと思う」と話していました。
この調査、昨年度は2か所にトレンチと呼ばれる試掘の溝を設けて掘り進め、墳丘の裾の部分で石の列が見つかりました。壺の形をした土器も出土し、この古墳がいつ、どのように造られたのかを探る手がかりが得られました。
今年度も11月から来年3月にかけて、前方部などに大小7か所ほどのトレンチを入れる計画です。
後円部の真ん中にあると考えられる埋葬施設については発掘せず、非破壊のレーダー探査を行っています。保存会からは「掘りたい」という声もあったということですが、発掘は遺跡に手を加えることになるので、必要最低限にとどめています。
■継続・広がり・身体化
発掘調査を地域づくりにつなげていくためには、2つのポイントがあると思います。
1つは「継続」。真庭市の古墳の場合、調査自体は今年度で終了する予定です。地域の文化遺産の活用を図る取り組みをその後どのように継続していくか、考えていく必要があります。
2つ目は「広がり」。地域の歴史に関心を持ち、こうした活動に参加するのは、年配の方が中心です。若い人が参加しやすい仕組みづくりや、学校との連携も欠かせないと思います。
そしてもう1つ。真庭市の調査に関わっている同志社大学文化遺産情報科学調査研究センターの津村宏臣センター長は、「身体化」の重要性を指摘します。身近な文化財を自分の身体と同じように「自分ごと」としてとらえ、どうすればよいか自分たちで考えるようになることが大切だ、という指摘です。
各地で人口減少が進む中、地域の文化を残していくためには、関心のある人を1人でも増やしていくことが欠かせません。
発掘調査に市民が参加するには、安全管理などの課題をクリアする必要がありますが、歴史を生かした地域づくりを進めていくうえで、有効な手段になるのではないかと思います。
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