主に大学3年生の就職活動がすでにスタートしています。その1歩目が夏のインターンシップと言われていますが、今年は、例年より長い期間、そして実務の体験を提供する企業が増えています。今井解説委員。
【インターンシップというと、大学生が企業で仕事の体験をして、就職の参考にする活動ですよね】
はい。大学3年生と大学院の1年生を対象にしたものが多く、事実上、就職活動のスタートラインとも言われています。例年、半日や1日といった短い日程で、多くの学生を対象にした「会社説明会」のようなものが多いと言われてきましたが、今年は、加えて
▼ 1週間程度以上で実施するという企業が47%と、去年より11ポイント多く
▼ 内容としても「実務体験」を行うと答えた企業が68%と、26ポイント増えているという調査結果があります。
【長期で、実務体験をする。どのようなインターンシップなのでしょうか?】
日立製作所の研究開発グループ(横浜サイト)で行われているインターンシップを取材してきました。
▼ ここでは、大学院の1年生3人が、3週間かけて、ITのシステムを開発する際に、正しく動くかチェックするソフトウェアを、生成AI=人工知能を使いながら開発する課題に取り組んでいました。
▼ どのような設計でつくるか、生成AIをどの場面で使うかなど、社員からアドバイスを受けたり、互いに相談したりしながら作業を進めていきます。
▼ このほか、職場や仕事への理解を深めてもらおうと、若手社員との交流会や部門のトップとの1対1での対話の場なども設けられているということです。
なぜ、こうした長期のインターンシップに応募したのか。参加した学生は
「自分の研究をいかしたいと思っているので、企業が実際にやっていることを体験し、キャリアにいかしていていきたいと思ったから」
あるいは、
「仕事内容も働く環境も重視していきたいと思うので、就職する前にそういうものがわかるといいなと思ったから」などと答えてくれました。
【学生さんが、企業を見極める機会になっている印象を受けますね】
日立は、学生に仕事の中身や職場の環境を、まさに見極めてもらおうと、3年前に試行的に長期のインターンシップを開始。今年は、440のテーマで、去年より200人多い、800人を対象に行う予定です。営業や経理など文系向けのテーマもあって、実際に顧客先を一緒に訪問したりするということです。
【他の企業はどうなのですか?】
例えば、
▼ JTBは、デジタルの分野でホームページ上のウェブ広告づくりやアプリの開発を体験してもらうほか、地域社会や顧客企業の課題を解決する新しい事業の提案をしてもらう、2つのコースで実施。
▼ キリンホールディングスも、マーケティング職の希望者、あわせて60人を対象に、新しい顧客を獲得するための事業プランについて提案してもらう。
▼ さらに三井化学は、試行的に、人事職に関心のある学生2人を対象に行います。
【人事もあるのですか・・】
はい。例えば、工場の魅力を学生に紹介したり、社員のやりがいを高めたりするなど、人事上の課題を解決する施策について提案してもらう内容で、大企業を中心に、このように長期で、実際の仕事を体験してもらうインターンシップを新たに導入したり、拡大したりする動きが広がっています。
【受け入れる現場は大変ですよね。なぜ、力を入れているのですか?】
背景にあるのは、大きく2点。インターンシップに関する「就活ルールの変更」。そして「内定辞退を減らしたい」という思いです。
【就活ルール。どう変更されたのですか?】
政府が要請している就職活動の日程です。主に大学4年生になる直前の3月から企業の説明会、そして、エントリーシート(応募書類)の提出が始まり、6月から面接・内定が解禁ということになっています。そして、インターンシップは、大学3年の夏から本格化します。これまでは人材育成の一環だとして、参加した学生の情報を採用に使うことは認めないという姿勢でした。それを今年から、5日以上実施するなど、一定の条件を満たした場合、来年3月以降ではありますが、採用に使うことを認めました。
【でも、これまでも、インターンシップは採用に関わると言われてきましたよね】
はい。政府の要請に拘束力はありませんので、これまでも、実際にはインターンシップに参加した学生を、早期選考会や社員との座談会に誘い、優秀な学生に早めに内定を出す企業は多くありました。ただ、今年はお墨付きが与えられたことから「選考直結型」とうたって、募集する企業も出始めています。本気で関心を寄せてくれる学生の応募が増えるとの期待があるというのです。
その上で、企業側としては、内定辞退を減らしたいということも狙いの1つにあるのです。
【内定辞退は増えているのですか?】
はい。今年の4年生の採用活動では、内定を出した学生の40%以上から、辞退されたという企業。6月の時点で、大企業だけでも34%にのぼり、去年の同じ時期より7ポイント増えたという調査結果もあります。
日立製作所人事勤労本部の大河原久治部長代理は
「早い段階で自分はこの分野で活躍していきたいと考える学生が増えている。理解してもらった上で応募してもらうとミスマッチを減らせるし、学生の志望度も上がっていくと考えている」と話しています。
【働く現場の実態をあらかじめ知ってもらい、辞退率を減らしたいということですね】
はい。学生側からみると、80%を超える学生が、就職先を決める前に配属先=仕事の内容や勤務先が確約されていた方がよい、と答えている調査結果もあります。ひと昔前と違って、今は、定年まで同じ会社で働き続けられる保証はありません。最近の学生は、自分の専門性や経験がいかせる仕事について、そこで高いキャリアを身に着けてステップアップをはかりたいという希望が強いといいます。長期のインターンシップを行う企業では、参加した学生が入社した場合、体験をした職場に配属するというケースが多いので、学生にとってみると、あらかじめ仕事の内容や職場の雰囲気を見極め、納得した上で応募ができることになります。企業からみると、だから、内定の辞退が減るのではないか、というのです。
【実際、どうなのですか?】
実際、長期を受けた学生は辞退が少ないという声もあがっています。また、入社後に、やりたい仕事と違ったと、すぐに辞めてしまう。そのミスマッチ(=配属ガチャ)を防ぐことにもつながるという期待もあるのです。
【学生と企業と双方にメリットがあるのですね。でも、長期のインターンシップは、受けられる人数が限られますよね。受けられない学生は不利になりませんか?】
企業の採用意欲は高く、多くの企業は、長期とは別に、半日や1日のオープンカンパニー、2~3日の体験会、さらにワークショップや座談会などの場を多く設けています。冬休みに長期のインターンシップを開く企業もあります。そして、こうしたプログラムに参加した学生を対象に早期選考を行う傾向は、今年も変わらないとみられています。
【チャンスはあるのですね】
人によって感じ方に差はあると思いますが、全体としては、学生側が有利の売り手市場です。就活の早期化に加えて、長期のインターンシップが増えることで、授業や研究の妨げにならないよう、企業はこれまで以上に日程に配慮することが求められますが、こうしたインターンシップ。学生にとっても、企業を広く、あるいは、深く知るよい機会です。短期と長期をうまく組み合わせて、納得のいく就職活動をしていってほしいと思います。
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