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関東大震災100年 あなたの住宅は大丈夫? 木造住宅の耐震性

中村 幸司  解説委員

2023年9月1日で、関東大震災から100年になります。
住んでいる建物の耐震性は、地震対策の大切なポイントの一つだと思います。ただ、木造住宅の耐震性については、十分知られていないことがあります。そこで今回は、木造住宅に注目して、建物の耐震性について考えます。

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◇現在の木造住宅の耐震性
住宅について、関東大震災が起こった100年前とは違って、耐震性は向上しています。
ただ、今も強い地震で被害が報告されています。木造の被害が注目された地震というと、2016年の熊本地震があります。

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上のグラフは、木造の被害の程度の割合です。左は、1981年以前の基準=いわゆる「旧耐震」の基準で建てられた木造の建物の被害。右は、建築基準法が改正された後=「新耐震」です。下ほど建物の損傷が大きいことを示しています。赤は、倒壊や崩壊した割合です。
旧耐震では大きな被害を受けた建物が多いことがわかります。新耐震への改正では、壁の量をそれまでの1.4倍にするなど、耐震性が強化されました。相対的に強度が低い旧耐震の時期に建てられた建物で被害が多く報告されています。

◇旧耐震と耐震診断
こうした被害を見ると、旧耐震の住宅の耐震性をチェックすることが大切であることがわかります。

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具体的には、専門家による「耐震診断」を受けることが勧められています。診断で「耐震性が十分でない」と判断されたら「耐震改修」をしてもらうという流れです。

ただ、耐震診断や耐震改修には、お金がかかります。「どうしたらいいのかわからない」という人も多いのではないでしょうか。

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そういった人は、まず、地元の自治体に相談することが、よいと思います。
耐震診断の費用を助成してくれる自治体や、無料で耐震診断の専門家を派遣してくれる自治体もあります。耐震改修の費用は、建物の規模などによって違うので、一概に言えませんが、日本建築防災協会によりますと、100万円から150万円くらい、ないし200万円くらいまでのケースが多いということです。
改修も、多くの自治体で助成制度があります。補助の金額は、自治体によって違いますので、自治体の窓口で聞いてみてください。

◇新耐震でも2000年以前の木造は注意を
先ほどの熊本地震の被害で、もう一つ、新耐震で2000年以降に建てられた木造の被害を加えたのが下のグラフです。

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同じ「新耐震」でも、被害の割合が違うことがわかります。特に無被害の割合が大きくなっています。
なぜ、こんなに違うのでしょうか。
木造の建物は、2000年に適切な建て方の徹底を図るよう、法令の改正がありました。

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具体的には、上の図のように、柱や梁などの接合部に金属を使うなどの方法です。接合部は、確実に固定することが大切ですが、地震でこの部分が壊れるケースがありました。このため、建築する際、上の図の写真のような基礎と柱の固定や、斜めの「筋交い」の固定に金属を使うなどのことが、徹底されるようになりました。こうすると、地震の時に柱や梁、壁がしっかり建物を支えてくれるようになります。

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新耐震であっても、適切な建て方の徹底前=2000年より前に建てた木造の中には、接合部の作り方などが、今の基準を満たしていないものがあります。

◇2000年以前の新耐震の耐震診断と助成制度
そうなると、旧耐震だけでなく、新耐震でも2000年以前に建てた人は、耐震性確認の必要性を感じているかもしれません。

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ただ、耐震診断の助成制度では、多くの自治体では、1981年以前の「旧耐震」の建物を対象にしています。そうした中、最近は2000年以前の新耐震も対象にする自治体がみられるようになってきています。大阪市や熊本市、そして東京都などです。

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東京都が、助成の対象にしたのは2023年度(2023年4月)からです。東京都内には、2000年以前の新耐震の建物の中に、耐震性が不足しているものがおよそ20万棟あると推定されています。東京都は、これらの耐震化を進めて、首都直下地震などに備えようとしています。
この時期の建物を助成の対象にしている自治体は、まだ、多くないとみられていますので、自治体に問い合わせてみてください。

◇新築を建てるとき考えてほしいこと
これから、木造住宅を建てようという人もいると思います。新築であれば、2000年の基準も満たすことになります。ただ、注意してほしい点があります。それは、建築基準法が「最低限の基準」だという点です。

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住宅の壊れ方は、「無被害」から「軽微・小破・中破・大破・倒壊・崩壊」とあります。建築基準法の考え方は、大規模地震の時、倒壊や崩壊といった壊れ方をしないようにするというものです。建築基準法を満たしていても、柱が斜めになるような「大破」の被害を受けることはあるということなのです。「小破」や「中波」くらいにとどめる基準だと考えている方も少なくないと思いますが、そうではありません。
この最低限というのは「大規模地震の激しい揺れを受けても人の命を守る」ということを指しています。「倒壊や崩壊」といった、建物がつぶれてしまうような壊れ方は、中の人が命を落とす危険があるので避けなければなりません。これに対して「大破」は、人が生き残れる空間が確保されています。このため、大破まではやむをえないとしています。
地震の強さなどの状況によりますが、建築基準法=今の新耐震の基準、ギリギリの住宅を建てると、大きな地震で被災した時、危険で自宅に入れない、あるいは建て替えなければならないということになるかもしれません。

◇被災後も使用できる住宅にするには
では、大規模地震の後でも建て直さなくてすむ住宅にするには、どうすれば良いのでしょうか。

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最低限の基準ではなく、もっと耐震性が高い建物を作るよう促す制度があります。壁を増やしたり強くしたりして、耐震性をいまの新耐震の基準の1.25倍、あるいは1.5倍にするというものです。第三者の評価を受けて、建築基準法=つまり今の新耐震のレベルなら「耐震等級1」、耐震性が1.25倍と認められれば「耐震等級2」、1.5倍なら「耐震等級3」となります。等級は3までです。

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耐震等級2や3にすると、大規模地震の後、継続して住むことができる可能性が高くなります。耐震等級3の住宅は、熊本地震でも被害が抑えられていました。
耐震性を上げると、建設費がかかります。一戸建て住宅ですと、建設費が数十万円程度の上乗せになるといいます。
知っておいてほしいのは、耐震等級の評価を受けると地震保険の保険料で優遇を受けられます。優遇の程度は、等級によります。また、他の条件も満たせば、住宅ローンの金利の引き下げも受けられます。より安心して住めますし、金利などを考えると長期的には「お得」と考えられるかもしれません。
現在は、住宅メーカーが耐震等級3の建物を販売するケースが珍しくなくなってきています。2021年では、新築の一戸建てのおよそ2割が、耐震等級3の評価を受けています。今後は、耐震性を高めた住宅が当たり前になってくるかもしれません。

見てきましたように、木造住宅の耐震性を考える上では、
▽耐震診断や改修には、自治体の助成制度があること
▽2000年以前の新耐震は、今の基準を満たしていないかもしれないこと、
▽建築基準法は、最低限の基準であること、
こういったことを知っておくことが大切です。
自分の住宅の地震対策をどうするのか、関東大震災100年の機会に考えてほしいと思います。


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