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開幕まで1年 パリパラリンピックの見どころは?

竹内 哲哉  解説委員

開幕まで1年を切ったパリパラリンピック。東京パラリンピックをきっかけにパラスポーツに関心を持った方も多いと思いますが、どんな大会になりそうなのか、お伝えします。

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【キーハードは“共通” 】
Q.パリパラリンピック、もう1年後なんですね。

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A.新型コロナウィルスの影響で東京大会とパリ大会の間が3年になってしまったので、「えっ、もう?」というのが正直なところです。
開幕は来年の8月28日、パリでのパラリンピック開催は初めてです。184の国と地域から4400人の選手が参加する見込みです。大きな特徴の一つは組織委員会がオリンピック・パラリンピック、2つの大会に区別をつけないという方針を打ち出していることだと思います。
公式スローガンの「広く開かれた大会」、エンブレム、そしてマスコットなど、共通したものが使われます。
マスコットの「フリージュ」は一体は右足が競技用義足となっていますが、モチーフはどちらもフランス革命で自由の象徴とされた帽子です。このモチーフが同一なのは史上初めてです。

【開会式はパリ中心部】
Q.こちらは開会式の画像ですか。

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A.開会式はパリ中心部のコンコルド広場です。選手入場は広場につながるシャンゼリゼ通りで計画されています。観客はおよそ6万5000人を見込んでおり、このうちシャンゼリゼ通りの3万人は無料で観覧できるようにするということです。
組織委員会のエスタンゲ会長は「開会式をパリの中心部で開催することは、障害者を社会の中心に据える考え方を象徴したものだ」としています。

【気になる競技のポイントは?】
Q.これまでにない開会式になりそうですね。そして、やっぱり楽しみなのは選手たちのプレーです。実施競技は決まっているんでしょうか。
A.東京大会と同じく陸上、競泳、車いすバスケットボール、ボッチャなど22競技が行われます。ただ種目は10種目増えて549種目です。
目的は2つあって、1つは女性アスリートを増やすこと。もう一つは、障害の程度の重い選手の活躍の場を増やすことです。

【ポイント①ボッチャの改革:女子アスリートを増やす】
Q.女子の種目の数が増えたと言うことですか。

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A.女子の種目を235とし過去最多にしました。どの競技で増えるのかというとバドミントンやボッチャなどです。たとえば、ボッチャはこれまで個人戦は男女混合で行われていましたが、男女に分けられることになりました。
女子の枠ができたことで強化できる選手も増えました。ボッチャ協会は一戸彩音選手ら6人を強化選手に選び、実力アップに力を注いでいます。しかし、出場資格を得るためには国際大会でタイや中国、韓国などアジアの強豪国の選手と競う必要があり、そう簡単ではありません。
東京大会をきっかけに日本ではボッチャをプレーする人が障害のあるなし問わず増えています。できる限り多くの人と対戦し、戦術の幅を広げることができるかが、実力を磨く鍵となると考えます。

【ポイント②柔道の改革:障害の程度の思い選手が活躍できる場を増やす】
Q.もう一つ、障害の程度の重い選手も活躍できる場を増やすということですが。

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A.そのための大きな改革が行われたのが視覚障害者柔道です。柔道はこれまでアイマスクをつけるなど条件を一緒にすることはせず、全盲から軽度の視覚障害、いわゆる弱視まで一緒にして体重別で競ってきました。結果、メダル獲得数は全盲の選手が弱視と比べて少ないというデータがあり、公平性が担保されているのかが疑問視されていました。
そのため、IPC=国際パラリンピック委員会から依頼を受けたオランダのアムステルダム自由大学の研究チームが7年ほどかけて調査をおこない、その結果をもとに国際視覚障害者スポーツ連盟が2022年から競技の公平性を保つために全盲と弱視の2つのクラスに分けることとしました。

Q.全盲の選手が活躍できる場が広がったということですね。

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A.いままで弱視の選手に勝てずに代表の座を逃してきた各国の選手が競い合える場ができたというのは大きいと思います。
ただ基準の変更に伴い、男子7階級、女子6階級の体重別で行われてきたものが、いくつか統合され男女ともに4階級となりました。
例えば、男子73キロ級は66キロ級と81キロ級の選手の選択肢となる階級です。視覚障害者柔道は常に組んで試合をするため、パワーは欠かせません。加えて適切な体重で切れのある動きができることも求められます。しかし、66キロ級や81キロ級だった選手が73キロ級にするとなると、これまで以上に増量や減量の幅が大きくなります。調整は非常に難しいんです。

Q.階級はそのままで全盲と弱視と2つに分けるというわけにはいかなかったのでしょうか。

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A.実はパリ大会の選手の上限は4400人と決まっています。というのも、パラリンピックを運営するにあたって費用や効率を考えると、現状ではこのぐらいの規模が妥当とされています。
そのため、種目を増やした分の人数は調整しないとなりません。これは柔道に限らず、陸上や競泳などでも参加選手が少ない種目はなくなっています。また一部の団体競技、たとえば東京大会で男子が銀メダルを獲得した車いすバスケットボールも参加チームは12から8に減らされました。
4年ごとに選手によっては出場種目がなくなるなど、厳しい現実にさらされることもあります。そんな制約があるなかでも、努力する選手の姿に注目して欲しいと思います。

【決まりだした出場選手】
Q.出場をめぐる大会は始まっていますか。

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A.始まっています。日本勢で出場枠を獲得した第1号は射撃の瀬賀亜希子選手です。

Q.出場枠ということは、瀬賀さんがそのまま出られるわけではないんですか。
A.射撃の出場枠の1つが日本に割り当てられたということです。今後、いくつかの手続きを経て代表選手が選ばれますが、瀬賀さんが選ばれれば4大会目の出場となります。
団体競技でいうと、東京大会で銅メダルを獲得した車いすラグビー、そして今月27日、ゴールボール男子が出場権を獲得しています。今後、どれだけの選手、チームがパリへの切符を手にするか注目したいと思います。

【ウクライナの選手のいま】
Q.そして、気になるのはウクライナの選手。状況はどうなんでしょうか。
A.先日、ウクライナパラリンピック委員会のハラチ報道局長と電話で話をしました。多くの選手はウクライナ国内に留まっているが、ロシアやベラルーシからのロケット弾やドローンの攻撃が続いているので、思うように練習ができる安全な場所はないということ。
大会に出るために政府や市民などが資金援助をしてくれているが十分ではない。また、移動が非常に大変で、ほかの国の空港まで20時間以上かけなければならなない。というのも、ウクライナから飛行機で現地に行けないからです。そのため選手は会場に行くまでに疲れてしまい、ベストコンディションで試合に臨めない状況だということでした。それでもパリ大会では17競技での出場を目指していて、現在59人が出場枠を獲得したということでした。

【ロシアとベラルーシの参加は?】
Q.本当に不屈の精神ですね。一方、ロシアとベラルーシの選手の出場はどうなるのでしょうか。
A.北京パラリンピックでは一度、中立的な個人としての出場を認めましたが、最終的には各国の反対で覆ったということがありました。来月下旬に開かれるIPCの総会で両国の参加資格について改めて協議されるということです。
ウクライナ侵攻が一刻も早く終わり、ともに参加できるようにしてほしいですし、改めて障害のある人たちが生きやすい社会を構築するための大会になって欲しいと切に願います。


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