NHK 解説委員室

これまでの解説記事

日銀の政策修正 どう考える?住宅ローン

今井 純子  解説委員

先月、日銀が金融政策の修正に踏み切りました。今井解説委員。

m230825_002.jpg

【住宅ローンにはどのような影響がでているのですか?】
住宅ローンには、大きく分けて、金利が借りた時のまま固定される固定金利と、半年に一度など、一定期間ごとに金利が見直される変動金利があります。
日銀が先月、長期金利=長期国債の金利の変動幅の上限を事実上引き上げる、金融政策の修正に踏み切った。その影響は、今のところ固定金利が上がる形で出ていて、変動金利にはでていません。

【国債の金利が、住宅ローンに影響しているのですか?】
そうなのです。というのも、
▼ 各銀行は、住宅ローンの固定金利について、10年ものの長期国債の金利(=長期金利)の水準を参考に決めているからです。
▼ 日銀が大規模な金融緩和で、金利をどう抑えているかのイメージ図です。本来、長期金利は、マーケットの売り買いで上がったり下がったりするものですが、日銀は、それを0.5%以下に抑えてきた。その上限を今回の修正で1%に引き上げました。
▼ そして、実際、長期金利は、それまでの0.4%台から、今週0.6%台の後半と、9年7か月ぶりの水準まで上がりました。

m230825_011.jpg

【変動金利はどうなのですか?】
変動金利は、1年以下の短期金利を参考に決めています。指標が違います。
そして、日銀は、短期金利については、マイナス金利政策を据え置きました。だから変動金利は変わっていないのです。

【固定金利はどのくらい上がっているのですか?】
住宅ローン金利の推移を見てみます。
例えば、10年固定のローン。8月は、メガバンク3行ともに金利を引き上げ、平均の水準は年1.173%。7月から0.08ポイント上がりました。9月には、さらに上がるとみられています。

【固定金利が上がっても、すでに固定で借りている人は、影響はないのですよね】
はい。新たに固定で借りる人の金利が上がるということです。
一方、変動金利は、直接影響がなく、ほとんど横ばい。9月もこの傾向が続くとみられています。

m230825_013_004.jpg

【住宅ローンの金利が上がると、負担はどのくらい重くなるのですか?】
例えば、3500万円を35年ローンで借りる場合、金利が0.1%分上がると、支払総額が70万円近く。0.5%だと、340万円あまりと、結構な負担が増えることになります。

m230825_013_006.jpg

【今後、金利はどうなるのでしょうか?】
金融の専門家の中からは、すぐにではなくても、いずれ、日銀が長期金利を無理に抑えるのをやめたり、マイナス金利をやめて短期金利を上げたりする可能性もでてきたのではないか。そんな指摘が出始めています。そうなると、住宅ローン。固定だけでなく変動も上がる可能性がでてくることになります。

【なぜですか?】
日銀は、今は、物価の目標としている2%を、安定的に達成する状況にはなっていないとして、大規模な金融緩和を続ける姿勢を強調しています。ただ、実際の7月の物価は、1年前より3.1%上昇。1年4か月続けて2%を超えています。このため、物価や賃金の上昇が続くようであれば、金融政策を正常に戻していく可能性がでてきたのではないかと、専門家はみているのです。

m230825_013_011.jpg

【住宅ローンの金利が全体的に上がってくると、多くの人に影響がでてきますね】
はい。住宅ローン。家計にとっての重みが増しています。というのも、まずは、住宅の価格が高騰しているからです。
今年上半期に売りに出された首都圏の新築マンションの平均価格は8873万円。近畿圏は4774万円。2013年と比べて、それぞれ87%と35%と、大幅に上がっています。

【ものすごい価格ですね】
資材価格や人件費が上がっていることに加えて、買う側も、将来、売る時のことを考え、都心や駅の近くなど、立地のいい場所を好む傾向が強まっていることから、全体的に価格が上がっています。中古や戸建ての価格も高くなっています。

m230825_026.jpg

この結果、1世帯当たりのローンの金額も増えています。
▼ 2022年に首都圏で新築マンションを買った人への調査では、ローンを借りた金額は、1世帯あたり平均およそ5000万円。2013年と比べて50%増えています。
▼ そして、特に若い人は、預貯金が少ないので、頭金を多く出せません。例えば30代は、40%の人が、頭金ゼロで家を買っている。そして、
▼ 「返済期間が35年以上」という人もほぼ40%に達するという調査結果もあります

【こんなに借りて大丈夫なのでしょうか・・】
共働きの増加で、2人合わせると年収が1000万円を超える、いわゆるパワーカップルが増えるなど、世帯としての購買力が上がっている。
加えて、今は金利が低いため、その負担が少なくて済む。という事情はあります。
ただ、心配な点もあります。

【なんでしょうか?】
割安な変動で借りる人の割合。10年前は、40%前後だったのが今、70%あまりに増えているからです。今後、変動金利が上がるようであれば、すでに借りている人も含め、負担が膨れることになりかねません。

m230825_031.jpg

【心配ですね。どうしたらいいですか?】
まず、これから家を買いたいという方は、住宅の販売事業者に「金利が上がるかもしれない」などとせかされても、あわてて買うのではなく、中古や戸建てを含め、自分にとっての最適な物件、最適な買い時を考えることが大事です。

m230825_032.jpg

【考えた結果、今、買いたい物件があるという人。あるいは、すでに変動で借りている人。借り換えもできますが、固定金利と変動金利。どう考えたらいいのでしょうか?】
それぞれメリット、デメリットがあります。例えば、
▼ 固定は、金利は高めですが、借りたあとに金利が上がっても、返済総額が変わらない安心感があります。
▼ 一方、変動金利は低い金利が魅力です。ただ、金利が上がる場合、返済総額が膨らむ心配があります。
▼ 変動金利が上がり始めたら、固定金利に変えようと考えていても、その時点で、固定金利が一段と上がっている可能性があることも考えておかなければいけません。

m230825_036.jpg

将来の金利の動向を正しく読むことは、ほぼ無理とも言われています。そうした中、業界団体や金融の専門家からは「変動リスクにどれだけすぐに対応できるか」を、判断材料のひとつにするとよいという声があります。

【どういうことですか?】
例えば、
▼ 家計に比較的余裕がある。借りている金額が少なく、返済までの期間も短い。こうした場合、とりあえず、変動金利で借りて、毎月の返済金額を抑える。そして、その分、貯金をして、金利が上がり始めたら、繰り上げ返済をする。こういう考えがあると。
▼ 一方、家計に余裕がない。これから教育費などがかかってくる。多額で、長期のローンが必要。毎日金利を気にする生活はいやだ。という場合、全期間固定でローンを組めば、返済額が確定しますので、家計の管理がしやすくなる。こういう考えもあるということです。

m230825_040.jpg

【自分の状況にあわせて考えることが大事ですね】
これまで長く続いた金利がない時代から、金利がある時代へ。そんな転換点の入り口にきているかもしれないということを頭に入れておく必要がでてきたのではないか。

m230825_041.jpg

長い目で見て、自分はローンを返せるか、教育資金・老後の資金は大丈夫か。これまで以上に慎重に住宅ローンを検討することが大事な時期になっているように思います。


この委員の記事一覧はこちら

今井 純子  解説委員

こちらもオススメ!