8月ももうすぐ終わり。多くの学校では夏休みが明ける時期です。
学校が始まるのが楽しみだというお子さんがいる一方で、夏休み明けは子どもが悩みを募らせやすい時期でもあります。子どもの悩みにどう向き合っていけばよいのか。
木村祥子解説委員です。
【子どもの異変に気付くには】
夏休み明けは例年、子どもの自殺が増えるなど悩みを募らせやすい時期だと言われています。
中でもきょうは「不登校」について考えたいと思います。
長期休暇後に登校ができなくなってしまう理由について、不登校問題に詳しい北海道教育大学大学院の齋藤暢一朗准教授によりますと、背景の1つに「生活リズムの乱れ」があるといいます。
特に今年は猛暑で家の中で過ごす時間が多く「生活のリズムを整えることが難しかったのでは」と指摘します。
今からできることは、まず、
▽ゲームやスマートフォンなどを「使わない時間」を作ることや、
▽比較的涼しい時間帯に散歩や外出をするなど、意識的にメリハリをつけた生活を送ってほしいと話しています。
また特にこの時期に不登校の兆候を示すサインとしては
▽学校の話題をしたがらない、
▽宿題に取り組まないなど
「学校を避ける様子」が見られるといいます。
また、元気がない、食欲がない、ささいなことでいらだって怒り出したり、イライラしたりしているケースも子どもからのSOSの可能性が高いといいます。
子どもから「学校に行きたくない」と言われた場合、
親は登校できない理由を「なぜ行けないの?」などと正論で返したくなってしまいます。
ただ、子ども本人も何が理由で登校ができないのか、わかっていないケースが多いので
まずは、否定せずに話しを聞いてあげてほしいといいます。
一方で不登校になる直前でも兆候がないことも結構、あるということです。
前の日までは行くつもりだったのに、朝起きたらお腹が痛くなったり、身動きが取れなくなったりしてしまうケースです。
こうしたなかには1学期にいじめや嫌がらせを受けており、親に心配をかけさせたくないと黙っていることもあるといいます。
この場合は子どもが学校以外に安心する場を確保してあげることが最優先になります。
問題が複雑化している場合は保護者だけで対応することは困難で、中には医療的な対応が必要なこともあるということです。
子どもの不調を感じたら早めに学校や専門家に相談してほしいと話しています。
【不登校の子どもたちに居場所を】
さて、新学期に向けて不登校の子どもたちを支援する取り組みが各地で進められています。
大阪・八尾市の教育センターでは2学期に向けて不登校の小・中学生を対象とした「オンライン上での居場所」作りが進められていました。
オンライン上の居場所づくりと聞いてもピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、インターネットの仮想空間を活用します。
パソコンやタブレットの画面には、椅子やテーブル、観葉植物なども置かれリビングのような空間が広がっていました。
子どもたちは学校から支給されたタブレット端末で自宅から参加します。
ここに参加する子どもたちは、顔や名前を出すことは強制されず、自分の分身となる動物のキャラクターなどで参加できます。
仮想空間を自由に移動しながらクイズやゲームを楽しみます。
また、仮想空間に設けられた相談室に入ると、他の人には聞かれずに先生に悩み事なども相談できるということです。
取り組みを進めている八尾市教育センターの打抜真由美所長は
「自宅から出られない子どもたちもオンラインを利用することによって社会とつながることができるので、子どもたちが次の一歩へと歩み出せたらと思います」と話していました。
八尾市のような取り組みは広がりを見せていて、文部科学省によりますと北海道帯広市や埼玉県戸田市、熊本市などでも行われています。
保護者からも「生活リズムが整う」とか「その日の健康状態で登校するか、オンラインかを選べるのでよい」などといった声が寄せられているということです。
文部科学省では今後はオンラインによる不登校支援の取り組みを強化していきたいとしています。
全国の小・中学生にはタブレット端末が配布されているので、それをうまく使って、不登校支援にもつなげていけるとよいなと感じました。
【不登校経験者がエール】
最後にこの夏、行われた不登校で悩んでいる子どもたちへエールを送ろうというイベントをご紹介します。
「不登校生動画選手権」というイベントで不登校の支援に取り組む東京のNPOが今月18日、東京・江東区で初めて開きました。
「自分の不登校経験が苦しむ誰かの力になる」をキャッチコピーに、10代の不登校経験者から1分動画を募集し、350本を超える作品が集まりました。
審査にはかつて不登校を経験したタレントの中川翔子さんや児童精神科医などが行い、イベント当日には中川さんも審査委員長として出席し、参加者たちと一緒に上演された作品を見ていました。
今回、最優秀賞に選ばれたのは新潟県長岡市のフリースクールに通う、中学1年生の女子生徒の作品でした。
彼女は小学校4年生から不登校になりました。当初は学校に行けなくなったことで自己嫌悪となり、苦しい思いをしたといいます。
去年からは母親の勧めでフリースクールに通うようになり、友達にも恵まれ、自分の居場所が見つけられたといいます。
そして動画の最後には
「あの時、勇気を出して学校に行かないと選んだこと
そして、学校以外の居場所を選んだことは正解だと思ってる。
環境を変えればきっと居場所はある。
一歩を踏み出す勇気を」というメッセージがつづられています。
会場を訪れていた不登校の高校生を持つ父親に話を聞くと
「息子が何を悩んでいるのだろう、どうして?という気持ちがすごく強かったのですが、イベントを見て、未来に向かって動画を発信することで、輝いていけるし、感動と勇気をもらいました」と話していました。
また、中学生の不登校の娘を持つ母親は
「経験をふまえている子たちからのメッセージというのは何よりも強い。胸を打たれるものがあった」と話していました。
動画のメッセージは子どもだけでなく、保護者にとっても励みになっていると感じました。
そして最優秀賞を受賞した女子生徒は「認めてもらえたことはすごくうれしいです。不登校は甘えではないし、大変な部分があります。自分のことを伝えるのはすごく大事だと思います」と話していました。
イベントを企画した不登校を支援する活動をしているNPOの代表で、自らも不登校経験がある石井しこうさんは「今、苦しんでいる子どもたちが動画を見て、自分も何かしてみようかという原動力になってくれたらうれしい。また、今回、動画を制作した参加者も自分を見つめ直す機会になり、その経験は今後の人生にきっと役立つと思う」と話していました。
作品はインターネットで「#不登校生動画選手権」と検索すれば見ることができます。
不登校の子どもたちや保護者が抱える背景や悩みは千差万別で、一律の解決策や特効薬はありません。
ただ、動画選手権のように「何かをきっかけ」に自分の考えを発信し、それが同じ悩みを抱える人たちを元気づけられた、ということになれば自信にもつながっていくと思います。
私たち大人が知恵を絞りながら、子どもたちが一歩を踏み出せる選択肢や環境を提示してあげることが大切なのだと感じました。
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