ことしもシーズンがやってきました。
8月18日、北海道根室市の港に1隻の漁船が戻りました。翌日に漁船が初水揚げしたのはサンマ、およそ470キロです。値段は大きいサイズで、1キロあたり13万円で取り引きされました。漁はこれから本格化します。
ことしは手ごろにサンマを食べられるのでしょうか。調査結果を交えて、詳しくお伝えします。
【サンマ、どうして秋に旬?】
サンマがこの時期に旬を迎えるのは、生態にワケがあります。
サンマは、日本の近海からアメリカの沖合にかけて広く生息していて、例年春から夏にかけてエサとなるプランクトンを食べながら北上します。
エサを食べて脂の乗ったサンマは、従来、秋になると日本の沿岸を南に下りてきて、漁獲されてきました。
冬には南に移って産卵が盛んな時期に入り、漁獲シーズンが終わるということになります。
「サンマは最近、不漁続きだ」ということはよく聞くと思います。では、どのくらい減っているのでしょうか。
最近のピークは、今から15年前の2008年で35万トンあまり取れました。ところがその後どんどん減り、ここ4年、1950年以降の最低を更新しています。
農林水産省によると、去年は1万8400トン。15年でほぼ20分の1になってしまいました。
【ことしの調査結果は?】
それではことしはどうなるのでしょうか。
国の研究機関、「水産研究・教育機構」はことし、北西太平洋にやってくるサンマについて去年と同じ水準で「低水準」にとどまる、という予報を明らかにしました。
その根拠は、水産研究・教育機構が、毎年6月から7月にかけて北西太平洋でサンマがどのくらい生息しているか調べた結果にあります。
北西太平洋で決められた経度を調査船で走り、トロール網を引っ張ります。そして、海水温ごとに、どれくらいのサンマが取れたかを計測します。
サンマの耳石(じせき)、耳の石を調べて、年齢もつかみます。サンマの寿命は2年で、主に漁獲対象となるのは1歳のサンマです。大きい1歳が多いとより豊漁になります。
ことしの調査結果の図です。日本の近くの海域に絞って去年と比較してみます。左が去年、右がことしです。
図の「バツ」印は網を入れたものの、まったく取れなかったことを示しています。
円は大きいほど、たくさんのサンマが取れたという意味です。また、円のうち、青が0歳、赤が主に漁獲対象となる1歳です。赤が多いほど、サンマがたくさん取れると期待できます。
一見分かりにくいのですが、分布している量を算定すると、去年の117万トンに対して、ことしは94万トン。20%ほど、減ったということです。過去最低の漁獲量だった去年よりもさらに少なくなったことになります。
ただ、少しだけ、よい材料もあります。
1つが日本に近い海域で取れたケースが多かったことです。去年はバツが目立ちますが、ことしはちょっとだけでも取れたという小さい円が多くありました。
日本に近い海域なので、群れが集まれば、ピンポイントでまとまった漁獲につながる可能性があります。
もう1つが、1歳の割合が少し多かったことです。去年は22.9%、ことしは30.5%でした。この結果、水産研究・教育機構では、去年に比べてやや大きく、110から120グラム台が主体になると予想しています。
それでも全体としては、不漁が続く予想と言ってよいと思います。
【サンマが減った理由は】
サンマが激減したのはどうしてなのか。ことし、水産研究・教育機構が考えられる理由を発表しました。
大きくまとめると、①日本近くに親潮が流れなくなってサンマが沖合に移動した、②沖合はエサが少ないのでサンマが減った、という2点です。
まず、1点目、沖合に移動というのはどういうことでしょうか。
比較的冷たい海を好むサンマは、以前は北からの親潮に乗って、日本の沿岸を南下していました。
ところが、近ごろは親潮が日本近くになかなか入り込まなくなりました。
とくに2010年代後半以降、北緯40度から41度にかけて海面の水位が高くなり、親潮にとって「壁」になったことが原因の一つだとみられています。このため、サンマも日本に近づかず、沖合を南下する傾向が強まったということです。
次に沖合はエサが少ないというのはなぜなのでしょうか。
北海道から東北にかけての太平洋の近海は、親潮と黒潮の水がよく混ざることでプランクトンが豊かに発生することで知られています。
それに比べて沖合はエサがそれほど豊富ではありません。
沖合を回遊することになったサンマは、エサが少なくなり、成長が悪くなったうえに、死亡率も上がり、さらに稚魚の数も減ったと推測されています。
【自然だけでなく社会的な理由も】
その上、日本の漁獲という点で見れば、社会的な要因も影響しています。
日本の漁船は生のサンマの価値が高いため、小さな漁船で何度も漁場を往復して新鮮なサンマを水揚げします。しかし、漁場が遠くなったため、水揚げの頻度が落ちてしまいました。
さらに近年、韓国や台湾、それに中国などが大型漁船で操業を続けるため、資源に影響を与えたという見方もあります。
【スルメイカまで深刻な不漁に】
これまでサンマの説明をしてきましたが、調査でとても厳しい見通しが示されたのは実はサンマだけではありません。
それがスルメイカです。スルメイカも、夏から秋にかけて最盛期を迎え、主に北日本の日本海と太平洋で漁獲されます。
たくさん種類があるイカのなかでも、スルメイカはもっとも量が多い、大事なイカです。しかし、こちらも不漁続きで、去年の漁獲量は過去30年でもっとも多かった44万トンあまりのほぼ15分の1、2万9700トンまで減りました。
そうした中、水産研究・教育機構は、今年度、主力となる日本海に来遊するスルメイカの量が、一部の海域を除いてさらに「前年を下回る」という予報を明らかにしました。
実際、すでに操業を始めている地域の漁は不振に陥っているということです。さらに太平洋での調査でも低迷が予想されています。
【今後はどうすれば・・・】
サンマもスルメイカも不漁というのはショッキングな予測です。しかも、どちらも当面、増えるというのは見込みにくい状況です。
その中でも心がけるべきことは2つあります。1つは将来、増え始めたときに取りすぎないこと。もう1つは、豊富にある水産物を食べるようにすることです。
海は複雑なメカニズムで変化していますので、不漁を避けることは容易ではありません。一時は日本で年間400万トンを超える漁獲があったマイワシが、わずか数年で忽然と消えたこともありました。
ただ、専門家は急に取れなくなるのは自然の要因が多い一方、一度減った資源がなかなか回復しない原因は乱獲を疑うべきだと指摘します。しっかり資源状況を把握し、増え始めても管理を厳格にして取り尽くさないこと、そして、サンマやスルメイカは海外の船も漁獲していますので、国際的に協力して管理することも欠かせません。
もう1つは、増えている水産物もあるので、それをうまく活用することです。
水産庁の検討会が、ことし5月にまとめた報告書では、マイワシやブリが増加傾向にあること、それにタチウオやフグなどの生息海域が北に広がっている魚もあると指摘しています。
問題は漁業者や水産加工業者がうまく変化に対応できないことです。
報告書では、たとえば漁業者が複数の魚種を対象に操業できるように設備を整える、加工業者は広域で協力して受け入れ態勢を整備する、また、政府も漁業者にもっと柔軟に許可を出すといった対策を提言しています。
一方で、消費者も、水産物の取れ方が年々変化しているという情報をよく知る必要があります。サンマのように不漁になっている魚ではなく、たくさん取れているマイワシなどを食べるようにすることが一案です。
限られた水産物を末永く食べていくために、消費を生産とうまくかみ合わせることがますます大事になります。
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