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身近な危険も!ヒアリ国内定着を防げるか 外来生物法改正でなにが変わる?

土屋 敏之  解説委員

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◆強い毒を持つヒアリについて法律が改正され対策が強化された

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ヒアリは6年前初めて見つかった頃に比べメディアで取り上げられることも減って、心配がなくなったのかと思っている人もいるかもしれません。しかし実は、危険は減っていないばかりか、国や専門家は国内に定着しそうなギリギリの段階だとしています。
今年度から「外来生物法」という法律が改正施行され、ヒアリは特に緊急性が高い「要緊急対処特定外来生物」というものに指定され対策が強化された状況です。
去年10月には広島県福山港で陸揚げされたコンテナから7万匹以上という一度に見つかった数としては過去最多の集団が確認されています。そして例年ヒアリは初夏から秋にかけての気温の高い時期によく見つかりますが、今年は6月から連日のように発見が相次ぎ、件数的には去年を大きく上回るペースです。

◆そもそもヒアリとは?

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ヒアリは元々南米原産で、日本でよく見られる黒いアリが体長1センチぐらいですが、それより小さい2.5ミリから6ミリの赤っぽい色のアリです。
普通のアリと違い尻にハチのような毒針があり、刺されると焼けるような痛みのほか「アナフィラキシー」という激しいアレルギー反応を起こして命に関わることもあります。
ヒアリが定着してしまった国では人や家畜が刺される被害に加えてヒアリが電気設備の配線をかじって停電につながることもあるとされます。アメリカでは被害額が日本円にして年間7千億円以上にものぼると試算されています。

◆南米原産のヒアリがなぜ近年日本で問題に?

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2000年代に入り経済のグローバル化が進むにつれ貨物船に紛れ込むなどして、オーストラリアや中国・台湾などアジア太平洋地域にも急速に広がったとされます。
日本では2017年に初確認され、これまで18都道府県であわせて100件、見つかっています。アジア各国でヒアリが定着し増えてきたために、貿易を通じ日本に入ってくるリスクも増してきたと考えられます。
輸入業者や港湾関係者には特に大きく関わる問題ですが、私たちに身近な危険もあります。
これまでに、大阪府で家電製品を買った人が家で段ボール箱をあけたところ中からヒアリの死骸が見つかったケースがありました。この製品は中国の工場で梱包され大阪で売られていたものでした。また、アカカミアリというヒアリの仲間でやはり毒を持つ外来アリが、こちらは生きたまま長野県や栃木県の住宅で見つかっていて、これも輸入品に紛れ込んでいた可能性があります。幸い人が刺されることはありませんでしたが、港から遠く離れた場所で見つかっていますので誰の身にも起こり得るとも言えます。

◆対策は?

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現在、中国などヒアリが定着した国からの定期コンテナ航路がある全国65の港湾などで、目視やエサをつけたわなをしかけるといった定期的な調査が行われています。その調査でも毎年のようにヒアリが見つかっていますが、その都度殺虫剤で駆除し周辺も調査するといった水際の対策を続けています。
こうした対策で現時点では、“発達した集団が越冬して複数年にわたり繁殖し続けるような状態”=これを国は「定着」と呼んでいますが、そうした「定着」の段階にはまだなっていないとされます。とは言え、これだけ毎年発見が相次ぐともういつ定着してもおかしくないギリギリの段階とも言われ、今年度法律の改正施行で対策が強化されたのです。
外来生物法の改正施行で、外来生物の中でも特に発見し次第、緊急の対処が必要なものを新たに「要緊急対処特定外来生物」として、これにヒアリやアカカミアリなどのヒアリ類が初めて指定されました。
これによって、ヒアリがいる疑いのある貨物は、通関後でも倉庫やトラックなどへの国の立ち入り検査が可能になり、見つかれば消毒などが行えることになりました。また、あやしいアリが見つかってヒアリかどうか専門家が調べている間も貨物の移動を止められるようになりました。
さらに先月新たな対処指針が施行され、輸入・運送事業者などにもヒアリの発見や速やかな通報に努める努力義務が課せられました。これまで事業者には行政がお願いする形で協力してもらうことしかできなかったので、この点も変わったと言えます。
いまや海外からの輸入品が宅配で各家庭に届くことも増えていますから、こうした対策は私たち消費者の安全にも関わっています。

◆もしヒアリが日本国内に定着して繁殖してしまったら

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外来生物はいったん定着してしまうと根絶するのは非常に困難です。
ヒアリは繁殖し続けると大きなアリ塚を作ることもありますが、アリ塚ができるほど定着した後で根絶に成功したのは世界でもニュージーランドだけだと言われます。
ニュージーランドでも港や空港にエサ付きのわなを大量に設置して水際での侵入防止に務めていましたが、2006年にはそれをすり抜ける形で、港から離れた内陸部で侵入後2年ほど経ってしまったと見られるアリ塚と3万匹もの群れが見つかりました。この時、あらかじめ整備していた「バイオセキュリティー法」という法律に基づいて、羽アリが飛んでいける半径2km以内でヒアリが紛れ込むおそれのある物品の移動を禁止し徹底的な調査と駆除を繰り返し行いました。およそ7億円の費用をかけて、根絶宣言を出せたのはようやく3年後のことでした。

◆定着させる前に早期発見・早期対処が重要

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日本の大都市でヒアリが見つかったとして半径2km以内にある物の移動を禁じるというのはまず無理な話ですので、やはり水際で早期発見・早期対処が重要だと言えます。
こうした中、今年度国は新たな対策も試行する予定です。例えば、海外では既に使われている「ヒアリ探知犬」の導入が予定されています。また、ヒアリかどうかを見分けるのは専門家でないと困難なので、あやしいアリを画像に撮ってAIでヒアリかどうか判定するソフトウェアも導入予定です。さらに、ヒアリは実はワサビの成分を嫌うという研究結果があることから、貨物を送り出す側でワサビ成分を含むシートなどを入れることも試す計画です。

◆ヒアリかも?というアリを見かけたら?

つい先日も、新たに中南米原産で毒を持つコカミアリというアリが岡山県の港で確認されたと、国が発表したばかりです。
気温が高い今の時期、こうした外来アリの活動も活発になりますので、見慣れないアリを見かけたら環境省の「ヒアリ相談ダイヤル」や市町村に電話するか、スマートフォンで撮った写真をメールするのもよいと思います。
ただし、けっして素手でさわったりせず、万一刺されてしまい呼吸困難など深刻なアレルギー反応が疑われるような症状が出た場合はすぐに医療機関を受診して下さい。


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土屋 敏之  解説委員

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