NHK 解説委員室

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マイナンバーカード 少子化 国民の意識は

伊藤 雅之  解説委員長

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今月のNHK世論調査で岸田内閣の支持率は、不支持が支持を上回りました。
その背景と今後の政治の行方について、担当は、伊藤雅之解説委員長です。

内閣支持率

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Q)支持率はどの程度下がったのですか。

A)岸田内閣を「支持する」と答えた人は先月より5ポイント減って38%。
一方「支持しない」人は4ポイント増えて41%でした。
岸田内閣の支持率が減少するのは2か月連続で、5か月ぶりに「支持」と「不支持」が逆転しました。
中でも特徴的なのが、年代別で30代までの若い世代の支持が28%というだけでなく、これまで比較的支持の高かった60代以上でも40%と支持と不支持が拮抗していること。
また支持政党別でも、与党支持層で岸田内閣を支持するのは7割を切り、特に支持する政党のない「無党派層」では18%にまで落ち込んだことです。

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Q)支持を減らした要因は何だと考えられますか。

A)「内閣を支持しない理由」をみます。「政策に期待が持てないから」という人は46%と、今月も最も多くを占めました。また、「実行力がないから」が22%と先月より6ポイントも増えています。

マイナンバーカード

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その実行力をめぐって政府が問われているのが、マイナンバーカードのトラブルへの対応です。
ことし3月にコンビニエンスストアで住民票など別人の証明書が発行される不具合が見つかりました。それ以降、健康保険証、年金、公金受取口座などでも登録情報の誤りなどが続いています。
これを受けて政府は、秋までをめどに、専用サイトで閲覧可能なすべてのデータの総点検を行うことにしていますが、こうした対応が「適切だと思う」は33%、「適切だとは思わない」は49%でした。この問題が支持率にも影響を与えていることが分かります。
また年代が上になるほど評価が厳しく、内閣支持の傾向と似ています。

Q)政府にいま、問われているのは何でしょう。

A)約束通りに秋までに確認できるのかという点だと思います。
総務省によるとマイナンバーカードの申請受付数は7月2日現在で9737万枚余り、人口に対する割合は77.3%に上っています。
政府は税金や医療など29項目すべてについて、市区町村や健康保険組合などに点検を要請していますが、膨大な個人情報の確認を日程ありきで急げば、かえって混乱を招くのではないかという懸念が現場から出ています。
岸田総理は「コロナ対応並みの臨戦態勢で臨む」としているが、そうであればこそ作業を自治体などに任せきりにせず、総理が先頭に立って対応し、全面的に支援していくことが重要です。

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そしてこうしたトラブル対応とともに大きな議論となっているのが、健康保険証の今後の扱いです。
政府は来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させる方針です。
そこで今の健康保険証を廃止する方針についてどう思うか聞いたところ、「予定通り廃止すべき」は22%、「廃止を延期すべき」は36%、「廃止の方針を撤回すべき」は35%でした。
「廃止の延期」と「撤回」を合わせると7割を超えています。

Q)政府はどう対応するのでしょう。

A)岸田総理は「保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払しょくするための措置が完了することを大前提に取り組む」としていて、カードを取得していない人が必要な保険診療が受けられるよう、「資格確認書」を本人の申請を待たずに交付することを検討しています。

Q)制度が複雑になるような心配もありそうですね。

A)相次ぐトラブルに加え、カードを預かる高齢者施設や、認知症の方、障害者などがカードを紛失しないか、パスワードを漏洩することなくきちんと管理できるのか。
これまで通り病院で受診できるのか不安を感じている人も少なくなく、日本(H)医師会は、来年秋に今の保険証を廃止するスケジュールを見直すよう政府に求めています。

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Q)マイナンバーカードの用途は、今後さらに広がるのですね。

A)カードを利用できる範囲はこれまで、社会保障と税、災害対策の3分野に限定されていましたが、先月の法改正で自動車に関わる登録や国家資格の更新などにも広がります。
私たちの利便性が向上するというのが政府の説明です。カードの利用範囲の拡大について聞いたところ「反対」が49%と、「賛成」の35%を上回っています。
デジタル社会に向けて誰でも安心して、使いやすいものにいかにするのか。
カードをめぐるシステムに大規模なエラーやトラブルが起きた際の体制も含め、国民に丁寧に説明し、理解と納得が十分に得られるかが問われています。
国民の理解と納得が大事という点で、岸田内閣の肝いり政策も同じことが言えます。

財源問題 

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Q)といいますと。

A)少子化対策の効果に「期待している」人は「大いに」「ある程度」あわせて33%にとどまった一方で、「期待していない」は「あまり」「まったく」あわせて62%に上り、先月の調査より6ポイント増えています。

Q)対策に期待が高まらない理由、何でしょう。

A)児童手当の拡充など、その内容や規模をめぐって評価が分かれていることに加え、政策実行する裏付けとなる財源問題があります。
政府与党は今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保する方針です。ただ、財源の具体策は年末の予算編成に事実上先送りしました。
同じようなことは防衛増税の実施時期をめぐっても、当初の「来年以降」から「再来年・2025年以降も可能になる」となるなど、肝心の財源の見通しが必ずしも明確でないことも影響しているとみられます。

政治の行方は 

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Q)今後の政治、どうなっていくと見ていますか。

A)今月の政党支持率で自民党は、他の党に比べて高い水準にありますが、実は今年に入り緩やかな低下傾向にあります。今月の34.2%は岸田内閣で最も低い数字です。
一方野党側は、日本維新の会が立憲民主党を3か月連続で上回りました。

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そこで今後の政治の行方です。政界は先の通常国会の最終盤で衆議院の解散が見送られたことで、各党・各議員ともに秋の解散も視野に準備を急いでいます。
与党側は、内閣支持率の下落に加え、公明党が自民党と東京で選挙協力を解消したことが全国にどの程度影響するのか。
これに対し野党側は立憲民主党が従来の方針を転換し、候補者の一本化に向けた調整を行うことにしています。ただ日本維新の会はこれまで見送ってきた公明党の現職がいる小選挙区も含め全国で擁立を目指しているほか、共産党、国民民主党には立民の進め方に異論もあります。野党側の動きも、まだまだ続きそうです。
こうした政治状況や、先ほど説明したマイナンバーカードなどをめぐる世論の動向を岸田総理がどう捉え、解散戦略をどのように描くか。
その際、夏から秋にも行われるという見方がある内閣改造・自民党役員人事の顔ぶれがどうなるかも、総選挙のタイミングを占ううえでの焦点となりそうです。


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