子どもの育児や親の介護で、仕事を辞めざるを得ない。
そんな人は今も相次いでいて、「仕事」との両立は大きな課題となっています。
そんな中、国の支援制度を見直していこうという議論が進んでいます。
制度の課題や見直しのポイントについて、牛田正史解説委員がお伝えします。
【ますます重要な課題に】
日本にとって、育児や介護と仕事の両立は、今後ますます重要な課題となります。
というのも、これからどんどん人口が減って、働き手が不足していくからです。
最新の人口推計を見ると、15歳から64歳までの人数は3年前、7500万人いました。
それが、20年あまり後の2045年には5800万人、2065年には4800万人まで減ると推計されています。
このように人口が減る中で、社会の支え手を維持するためには、育児や介護をしていても働き続けられる環境を整備していくことが不可欠なわけです。
【課題はまだ多い】
しかし、現実はまだ課題が多く残されています。
以前と比べると状況は改善してきていますが、例えば育児では、最初の子どもが生まれて、仕事を辞める女性が全体の3割にのぼります。
非正規労働の人が特に多くなっています。
また、家族の介護で仕事を辞める「介護離職」は、年間でおよそ10万人います。
深刻な状況が今も続いていると言えます。
【国の研究会が支援制度の見直し案】
こうした中で、国の支援制度を見直す検討が行われました。
国が大学の専門家などを集めて研究会を開き、議論を重ねてきました。
そして6月に、報告書をまとめました。
今の支援制度をどう見直すべきだと指摘したのか。
ここからは、その内容についてお伝えしていきます。
【育児と仕事の両立】
まずは子育て、つまり「育児と仕事の両立」についてです。
子どもが生まれて、まず利用するのが育児休業です。
原則、子が1歳になるまで取得できます。
今回の議論では、この育児休業を終えた後、つまり職場に復帰してからの支援をもっと拡充していくべきだという指摘が多く出ました。
まず子どもが3歳になるまでの期間。
すでに、1日の働く時間を短くする「短時間勤務制度」が、義務化されています。
これに加えて、今回の研究会では「テレワーク」を推進していくべきと指摘しています。
自宅で仕事が出来る働き方ですが、現在は法律で規定されているわけではなく、企業の自主的な判断にゆだねられています。
導入する企業は、まだ全体の3割あまりに留まっています。
このテレワークの導入を、少なくとも子どもが3歳になるまでは、事業主の努力義務にすべきだとしています。
そして、その後の子どもが3歳から小学校に入るまでの期間。
ここでも多様な働き方を推進すべきとしています。
具体的には、今お伝えした「テレワーク」。
それに「短時間勤務制度」。
さらに出社時刻を遅くする「始業時刻の変更」。
そして、有給休暇とは別に企業独自の「新たな休暇を付与する」。
こうした制度の中から、事業主が2つ以上選んで導入することを義務化すべきだとしています。
業種によっては、テレワークが難しいという会社もあるかもしれないので、選択できるようにしたわけです。
このほか「残業免除」の延長も打ち出しています。
これは会社に残業を免除してもらう制度で、今は子どもが3歳になるまで請求できますが、それを小学校に入学する前まで、延長するという案です。
子どもの成長に応じて、その都度、いろんな働き方を選択できることが重要です。
当然、これは女性だけの話ではなく、男女を問わず多様な働き方を実現していかなければなりません。
【介護と仕事の両立】
続いて、「介護」と「仕事」の両立についてお伝えします。
先ほど、毎年10万人が、家族の介護で仕事を辞めているとお伝えしましたが、介護と仕事の両立を支援する重要な制度として「介護休業」があります。
介護する家族1人につき、93日間、つまりおよそ3か月間、休業することが出来ます。
要件を満たせば、どの企業に勤めていても取得でき、期間中は一定の給付金が受け取れます。
その間にケアマネージャーと相談して介護の計画を立てたり、利用する介護事業所を探したりして、仕事と両立するための体制を整えるための制度です。
また、それ以外に年5日の介護休暇を取得することも出来ます。
ところが、これらの制度を利用する人は、極めて少ないんです。
介護をしている人で、介護休業を取得しているのはわずか1%、介護休暇でも2%に留まっているというデータがあります。
その大きな要因の1つは、制度が知られていない、そして取得しづらいことにあります。
事業主がもっと情報を周知して、取得しやすい環境を整える必要があります。
研究会では、例えば社員が40歳になった時、これは介護保険料の支払いが始まる年齢ですが、その時に、事業主が介護休業などの制度を一律に情報提供していくことが必要だと指摘しています。
会社から制度を紹介されれば、それだけ気持ち的にも取得しやすくなると思います。
また、育児でもあった「テレワークの導入」を、家族を介護する社員に対しても、事業主の努力義務にすべきだとしています。
会社から制度を紹介されれば、気持ち的にも取得しやすくなりますよね。
【課題は他にも】
ここまでお伝えした研究会の見直し案は、正式な決定ではありません。
国がさらに検討していくことになりますが、いずれも重要な指摘ですので、実現させるべきだと思います。
また、両立の課題は、他にも多く残されています。
例えば育児休業を見ると、男性の取得率が低い上、日数が短いという課題があります。
男性の半分は、2週間未満です。これをどう伸ばしていくのか。
さらに今回は、子どもが小学校に入る前の支援を中心にお伝えしましたが、小学校に入学した後の支援も、さらに充実させる必要があります。
介護で言えば、介護休業など支援制度の利用を、どう伸ばしていくのか。
企業の情報提供以外に、どんな対策があるのか。
そして、休業や休暇制度の内容は今のままで良いのか。
取得日数を増やす必要はないのか。
こうした論点について、引き続き、国、そして企業単位でも、検討してもらいたいと思います。
育児や介護をしながら、仕事を続けていくためには、やはり国の支援制度や企業のサポートが最も重要です。
社会の機能を維持するためにも、対策を一層、強化していかなければなりません。
この委員の記事一覧はこちら