スマホが1円など安い値段で売られていることがありますが、政府は、こうした極端な値引きについて、規制を強化する方針を打ち出しました。今井解説委員。
【1円スマホ、数年前にもなくすという話がありましたよね】
極端に安いスマホ。以前も問題になって、2019年の制度改正で、なくそうとしました。ですが、その後、復活してきているのです。そこで、先月、総務省の有識者の会議が「適切でない」とする報告書案をまとめ、政府は年内にも規制を強化する方針を打ち出しました。
【規制したのに、復活していたのですね】
まず、その仕組みを見てみます。
スマホは、今、ネットをふくめいろいろな店で買うことができますが、問題になっている、いわゆる1円スマホは、大手通信事業者の販売代理店などで、通信もセットで契約する。そして、特に、別の通信事業者から契約を乗り換えるお客さんを対象にしているケースが多いのです。
そして、この「端末と通信のセット」の場合、例えば、税込み11万円で売っているスマホで見てみますと、2019年の制度改正で、最大2万2000円までの値引きが認められています。つまり、8万8000円まで値引きしてもよいということです。
ところが、その後、競争が激しくなったことで、多くの代理店が、「端末単体の値引き」など、規制の対象とならない抜け穴とも言える、値引きを始めたのです。それで、例えば8万7999円値引きすると、販売価格は1円となる仕組みです。
【これを、今回は、どのように規制を強化するのですか?】
端末単体の値引きを含め、セット割引の上限を、4万4000円までにする。そして、それ以外の値引きや割引は禁止する方向です。このケースでは、販売価格は6万6000円になります。
【それにしても、1円では利益がでませんよね。なぜ、代理店は、こんな値引きをしてきたのですか?】
主導してきたのは、大手通信事業者です。ねらいは、他社からの乗り換えによって新たに得られる、毎月の通信料金です。というのも、
▼ スマホは、国民にほぼいきわり、新たに通信契約を結ぶ人がそう多くない。そうした中
▼ 制度の改正で、他社に乗り換える際、必要だった違約金がなくなるなど、乗り換えやすくなりました。
このため、端末の安さで関心をひきつけ、乗り換えてもらい、新たに通信料金を得ようと、通信事業者が代理店に、乗り換え獲得のノルマを課して、成功した場合に多額の奨励金も出すようになったのです。代理店からみると、端末の販売では赤字でも、奨励金で元が取れるわけです。
【それを、なぜ、今、総務省は規制を強化しようというのですか?】
大きく2点。公正な競争を確保する。そして、通信事業者もダメージを受けた。この2です。まず、公正な競争について。この点からは、公正取引委員会も独占禁止法の不当廉売にあたるおそれがあると指摘しています。
というのも、仕入れ価格を下回る極端な値引き販売を続けることは、体力のある大手しかできません。値引き合戦についていけず、中古販売店が事業を続けられなくなるおそれがあります。また、格安の通信事業者からも、大手で、人気の高いスマホを1円で買うために、いったん、格安事業者に乗り換え、1日とか数時間とかで、また元の大手に戻る人が増え、手続きの手間が増えて困っているという声が上がっているのです。
【もうひとつ。通信事業者がダメージを受けた。これは、どういうことですか?】
当初の想定を超えて、1円スマホを次々買っては、すぐに中古の販売店や海外向けに転売する人が相次いだのです。事業者からみると、期待していた通信料金が得られず、奨励金を出した分をカバーできないことになります。一社だけやめようとしても、ライバル社が「こっちは1円ですよ」と乗り換えを呼び掛け、利用者を奪われてしまう。ということで、国に規制を強化するよう訴える異例の事態になったのです。
【自ら始めた1円競争なのに、自分ではやめられなくなったのですね。今後は、高くなるということですね・・・】
その点、指摘したいことが、2つあります。まず、本当に1円スマホがなくなるのか?という点。
【え?1円スマホは、残るのですか?】
通信事業者や専門家に聞くと「なくならないのでは」「わからない」という答えが返ってくるのです。というのは、例えば、7万7000円の端末でみてみると、新たな規制で、4万4千円までのセット割引ができますので、まず、価格を3万3千円にする。その上で、端末を“事実上は2年間借りる”形で、2年たったところで、代理店が端末を3万2999円で下取りをする契約を結ぶことで、”実質1円“にできる手法もあるからです。
【これは合法ですか?】
下取り価格をあらかじめ契約の中に組み込むこと自体は、違法とはいえません。ただ、総務省や公取の目が厳しくなっています。下取り価格が適切でないと、規制を超える割引、あるいは、不当廉売と判断されますので、これまでのように、10万円を超える高額な機種を1円にすることは難しいのではないか。限られた機種。年末や年度末などスマホを買い替える人が多い時期。都心など競争が激しい場所で、一部、残る可能性があるという見方もあります。
その上で、指摘したいもう1点。そもそも、1円スマホで、不利益を受ける人もいることを忘れてはいけないという点です。
【不利益ですか?】
はい。確かに、1円で、しかも、2年など短期にスマホを買い替える人は、メリットがあるかもしれません。一方、それ以上に長く通信の契約を続けている多くの人は「通信料金の高止まり」という不利益を受けています。というのも、端末の大幅な値引きのための奨励金は、通信料金の全体の利益から補填されているからです。通信料金は、以前より安くなっていますが、それでも、大手通信事業者の中からは「1円スマホをなくし、奨励金を払う必要がなくなれば、もっと引き下げることができる」という声も聞こえてきます。
【できるだけ安く携帯電話を利用したいという人は、どうしたらいいでしょうか】
今、端末は、大手の代理店のほか、家電量販店や中古店、ネットなどで買えます。通信事業者も、大手のほか、大手の第2ブランド、格安通信事業者があって、それぞれの中で、様々なプランがあります。組み合わせは自由です。
▼ 自分の使い方にあわせて、少し前の機種や中古を選んだり、容量の少ない通信プランにしたりすると割安になります。そして、
▼ 初期設定などを自分でする必要がありますが、格安通信事業者を利用することでも、割安になります。
▼ 特に、大手が格安の通信プランを始めた2021年春より前に契約を結んで、古くからの通信プランを利用している人は、プランを見直すことで通信料金が安くなる可能性が高いといいます。
▼ 総務省が、料金プランを選ぶ際の手順や、考え方、乗り換えの注意点などをわかりやすくまとめた携帯電話ポータルサイトもありますので、参考にしていただきたいと思います。
【自分の使い方にあわせて選んだり、見直したりしていくことが大事ですね】
はい。その上で、端末も通信料金も、競争の中で全体として安くなっていくよう、そして、より便利なサービスをアピールできるよう、通信事業者は取り組んでいってほしいと思います。
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