◆SDGsの最新の達成状況と国別ランキングを国際組織が発表
SDGs「持続可能な開発目標」は、カラフルなアイコンで知られる17の目標を通じて2030年までに持続可能でよりよい世界をめざそうというものですが、最近は学校の授業でも教えることが増えたので子どもたちの方が詳しい面もあります。
このSDGsは、2015年の国連の会議で全会一致で採択されたもので、今年は2030年までの「中間地点」にあたることから、どんな状況か注目されます。
◆目標がたくさんあって難しい?
3段に並んだ17の目標は段ごとにテーマがまとめられているので、それだけ頭に入れておけば理解しやすくなります。
上から1段目は「人間」の命や権利に関する目標で、1番は「貧困をなくす」、2番は「飢餓をゼロに」。以下、医療や教育の普及、女性の権利などです。
2段目は「経済」活動の目標です。クリーンエネルギーの普及や雇用確保と経済成長、インフラ整備など、10番には格差の解消も挙げられています。
そして3段目は気候変動や海の環境保全など「地球」規模の課題で、いわゆる環境問題がここに入っていますが、それだけでなく16番は「平和と公正」というようにより幅広く「世界全体で取り組む課題」とも言えます。
これらの目標は1番の貧困であれば、「1日1.25ドル未満で暮らす人をゼロにする」など実現すべき指標がそれぞれ定められています。
ただし、SDGsはあくまで各国が自主的に取り組むもので、強制力はありません。
◆このSDGsの国別ランキングが発表された
国連自体はSDGsの国別の評価というのは出していませんが、国連と連携する「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」という国際組織が独自に評価を行って毎年報告書を出しており、その最新版が先週発表されました。
17目標の達成度のランキングで1位は3年連続でフィンランド。日本はランキング21位で、すべての目標達成を100点とすると79.4というスコアでした。
データのある166か国のうち21位でアメリカや中国より上ですし、この順位自体はそう悪くない気もしますが、去年は19位で実は毎年少しずつ順位が下がっていて、今回初めて20位以下になってしまいました。また、達成度のスコアも前回より少しだけですが下がっており、2030年までに100点目指して向上していくべきものなので、残念な評価とも言えます。
◆日本のSDGs達成状況
この報告書では国ごとに17の目標がどんな達成状況かを独自の指標をもとに評価し、最も高い「達成済み」から最も低い「深刻な課題あり」まで4段階で評価しています。日本は、目標4「質の高い教育」と9番「産業・技術革新」については去年に続き最も高い評価でした。一方で5番の「ジェンダー平等」や12番の「つくる責任つかう責任」など5つの項目は去年に続き最も低い評価でした。
◆日本の課題は?
低評価だった目標はなにが課題なのか?
例えば「ジェンダー平等」は評価基準のひとつに「女性国会議員の比率」というのがあります。日本では女性の議員はまだ衆議院で1割、参議院でも2割台で、この点が世界的に最低ランクの評価になっています。また、「男女の賃金格差」も基準の1つで、これも世界的に見て格差が大きく低評価です。
そして、目標12の「つくる責任つかう責任」は持続可能な生産や消費についての目標で、この報告書ではごみの排出量などが評価の指標に入っています。日本は携帯電話や家電など電子機器の廃棄の量が多く、またプラスチックごみも多い上、それを途上国などにいわゆる“ごみ輸出”をして処分している点も問題とされています。
◆日本の順位が今回さがったのはなぜ?
目標5や12などは去年までも低評価でしたので、今回順位が下がったのには他にも理由がありそうです。
そういう意味では、これまで日本がずっと一番高い評価を得ていた目標16の「平和と公正」の評価が今回一段階下がっています。ウクライナ侵攻が関係しているのかと思うかもしれませんが、内訳を見ると評価指標のひとつに「報道の自由」というものがあり、この評価が今回下がっていました。
◆日本は報道の自由が低下?
この指標は、ジャーナリストの非政府組織である「国境なき記者団」のアンケートへの専門家の回答を総合して評価とされていて、それ以上は報告書には書かれていません。
ただ、この国境なき記者団が指摘している日本の報道の自由を損なう要素としては、近年作られた特定秘密保護法や、新型コロナ対策を理由に政府の会見に参加できるジャーナリストの数を大幅に減らしたことなどが挙げられています。我々メディアに携わる人間も、あらためて報道の自由について考える必要があると思います。
◆世界的なSDGsをめぐる状況は?
非常に厳しい状況です。今回の報告書では、2015年から30年に向けた中間評価として「SDGsはすべての目標で達成への軌道から大きく外れている」と危機感を示しています。
世界全体の達成度の平均では2019年までは少しずつ向上していたものの、それでも 2030年に100点に向かうにはほど遠いペースでした。そして、2020年以降は新型コロナのパンデミックなどで、世界的に経済活動や貧困問題、医療・教育の機会減少など様々な分野で停滞しています。とりわけ所得の低い途上国に限るとSDGsの達成度はむしろ下がっています。そういう意味で、SDGsは各国がコツコツ積み上げていくものなのに、パンデミックや戦争など世界的な問題によって大きくダメージを受けてしまうこともわかります。
一方で今回の報告書は「SDGsはまだ達成可能であり、どの目標も私たちの手が届かないものはない。世界は軌道から外れているが、だからこそさらに力を入れるべきだ」と訴えています。
◆SDGs達成に求められること
世界的には、特に途上国の医療・教育・インフラ整備など持続可能な開発に向けた資金が不足しているため、先進国などの民間の資金や貯蓄などのお金をSDGsに向けての投資に回すよう報告書は求めています。
日本では岸田総理をトップとする政府のSDGs推進本部が、優先的に取り組む分野などを示す「SDGs実施指針」を今年中に7年ぶりに改定する予定です。
そして、わたしたちにできることも沢山あります。職場や家庭でもジェンダー平等を進める意識を高めたり省エネやごみになる買い物は減らすなども、持続可能な社会につながる大事な一歩です。SDGsは難しく考えられがちですが、実はくらしに関わる身近な目標だということが広く認識されることが、まず大切だと思います。
この委員の記事一覧はこちら