◆健康寿命と健康日本21
健康寿命とは、介護の必要がなく健康的に社会生活ができる期間のことです。2019年の最新データでは、男性は72.68歳、女性は75.38歳。一方、平均寿命は、男性81.41歳、女性87.45歳。平均寿命と健康寿命の差は、「健康上の問題で日常生活に制限があり自立困難な期間」とも言われ、この健康寿命をのばしてこの差を縮めることが大切とされています。
先日、「健康日本21」が厚生労働省から発表されました。これは、約10年ごとに見直されている国の健康づくり計画です。これまでの調査で、健康寿命をもっと延ばすための基本的な「健康づくり」ができていないことがわかり、睡眠・運動・食事など心がけるべき目標が設定されました。今後、これらの目標をもとに、今度は各都道府県が、どの目標が未達成なので、こうして解決するというように、具体的な計画を作り、2024年度以降に実施していくことになります。実は、これらの目標、私たちの健康づくりにも役立つので、ポイントを4つ、ご紹介します。
◆健康づくりのポイント① 十分な睡眠時間
健康になるための「健康づくり」、具体的にはどんなことがポイントなのでしょうか?
まず、十分な睡眠時間をとること。これは今回、初めて取り入れられた目標です。「十分な睡眠時間」とは、20歳から59歳は6~9時間、60歳以上は6~8時間で、6時間未満は睡眠不足。十分な睡眠時間がとれるかどうかは、時にその人の労働時間なども影響し、個人差もあります。実は、現状、十分な睡眠がとれているのは、20~59歳では53.2%。60歳以上は55.8%と、半分ほどの人しかとれていません。最近の研究で、睡眠不足だと、日中の眠気・疲労だけでなく、頭痛など心身の不調に関係。さらに肥満・高血圧などの発症リスク上昇につながり、寿命に影響することがわかってきています。是非、十分な睡眠時間をとるようにしてみてください。
◆健康づくりのポイント② 歩数を増やす
日常生活の中で歩く、歩数を増やすことも、健康づくりのポイントです。20歳から64歳は8000歩、65歳以上は6000歩が目標です。歩数が増えると、病気にかかる・死亡する割合が低下しますが、実は、ここ10年間、すべての世代で、横ばい・減少傾向で、20歳~64歳 男性7864歩 女性6685歩、65歳以上では、男性5396歩 女性4656歩と歩数が不足しています。
歩くことが大切なのはわかるが、8000歩と考えると難しいと考える方もいるかもしれません。例えば、女性で現状程度の歩数を普段から歩いていれば、あと1400歩ほど増やせばいいだけです。これは早歩きで10分ほどとも言われ、これなら歩けると思う方もいるかもしれません。
◆健康づくりのポイント③ 適正体重の維持
そして、3つ目のポイントとして、適正体重を維持すること。
ここで注意すべきは、まずは肥満。また20代から30代の女性の場合、ダイエットなどでやせていたら注意が必要です。骨量が減少したり、低出生体重児を出産するリスクが高くなる可能性があるからです。さらに高齢者での体重減少も、栄養不足や偏りが考えられ、注意が必要です。
◆健康づくりのポイント④ 食事
ポイントの4つ目は食事です。まず気をつけたいのが必要な栄養がとれる「バランスの良い食事」。ごはん、めん、パンなどの「主食」、たんぱく質の供給源となる肉、魚、卵、大豆・大豆製品などの「主菜」、ビタミン・ミネラル・食物繊維の供給源となる野菜・きのこ・海藻などが含まれる「副菜」。そして、果物などをとりましょう。コツとしては、例えば青菜のお浸しなど野菜の副菜を少なくとも1種類は食べるように心がけること。そして、バランスがよくないときがあってもいいので、数日間の食事の中でバランスをとるようにしましょう。
これ以外に、1日に野菜350g・果物200gをとることも目標になっています。野菜350gは生野菜だと、両手で3杯分。なかなか食べられないかもしれませんが、ゆでた野菜であれば、片手で3杯分の量になります。
果物は、100g相当がオレンジ・キウイだと1個分、バナナで1本なので、これら2つで200g相当に。野菜・果物の摂取で、心臓病・脳卒中での死亡率が低下することがわかっているので、是非、取り入れていただければと思います。
もう一つ、忘れていけないのが、「減塩」。1日の塩分摂取の目標は1日7グラム未満。でも現状は 10.1gとまだ減塩が必要なんです。減塩するためにも、気をつけたいのは汁物です。味噌汁1杯で塩分は約1.5gなので、のむ場合は1日1杯までにした方がいいかもしれません。あるいは野菜をたくさん使った具だくさんで、だしのうまみを生かし、汁を少な目にすると、塩分が抑えられるだけでなく、副菜にもなります。
この減塩について、「健康日本21」の策定から携わっている東北大学の辻一郎名誉教授は、「塩分摂取については、個人の努力も必要だが、食塩の含有量が低い食品の開発など社会全体で取り組んでいく必要がある」と話をしていました。実は、ある研究で、日本人が摂取する1日の塩分の半分ぐらいは、お惣菜・お弁当などの加工食品や外食でとっていることがわかってきたからです。
都内のコンビニエンスストアのカップめんの売り場で、こんな減塩実験が行われました。何をしたかというと、棚に陳列する際に、塩分の少ないカップめんの割合を増やし、塩分含有量別に並べ、さらに、塩分量がよくわかるように表示したのです。また、大人の人が棚の前に立ったときに、塩分少な目のものが、簡単に目に入りやすいようになっているだけでなく、とりやすい配置にもなっています。そして、棚の並べ方を変更した前後5か月間で、売れた商品をチェック。販売量はほとんど変わらなかったそうですが、塩分含有量別に販売割合を比べてみたところ、塩分の少ないものがよく売れ、塩分が多いものは減少したのです。このような試み、お惣菜・お弁当など、さまざまな加工食品でもできるかもしれません。そして、もし、このようなことが社会の中で広まれば、自然と健康な行動がとれるようになるかもしれません。
◆自然に健康になれる環境づくり
この「自然に健康になれる環境づくり」は、減塩などの食環境だけでなく、歩数の増加についても、例えば、地域で歩きたくなるような街づくりをすることで、意識しなくてもいつの間にか歩いてしまうというように、健康的な社会が作れるかもしれません。辻さん曰く、「健康への関心のある人とない人の間で、健康格差が広がりつつあり、国・自治体・企業なども協力し、自然に健康になれる社会環境づくりがますます重要になってきている」とのことでした。
健康寿命をのばすためのポイントは、特別なことでなく、普段の生活に密接にかかわっていることの積み重ねです。ここ数年、コロナの影響で、歩く歩数が減少するなど、健康習慣が乱れた方もいるかもしれません。乱れた健康習慣は戻すことが可能です。人100時代とも言われます。是非、健康で、元気に暮らせるように、一人一人が、自分の生活を見直し、多くの人が、健康になれる社会になったらと思います。
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