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ジャガイモの食中毒 油断せずにきちんと知ろう

佐藤 庸介  解説委員

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ポテトサラダに肉じゃが、フライドポテト…。

きょうも何かのかたちでジャガイモを食べたなぁ、という方も多いのではないでしょうか。

そのジャガイモを原因とした食中毒が、ほぼ毎年のように起こっているということです。身近な食べ物のジャガイモで、どうしてそんなことが起こるのでしょうか。

【どんなジャガイモに注意?】
食べるときにより注意が必要なジャガイモはどんなものだと思いますか?

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一番左が一般的なジャガイモ。2番目は緑色に変わったジャガイモです。3番目は芽が出たもの。一番右は小さいジャガイモです。

芽が出ているのは食べてはいけないというのは、なんとなく聞いたことがあるかもしれません。しかし、緑色のものや極端に小さいイモも注意が必要です。

一方で、ジャガイモはきちんと処理すれば、まったく問題なく食べられます。過剰に心配することなく、ポイントを理解さえすれば大丈夫だということも知ってほしいと思います。

【どうしてジャガイモで食中毒?】
ジャガイモの食中毒の原因は何なのでしょうか。

原因となる毒素は「グリコアルカロイド」と呼ばれる物質です。代表的なのは「ソラニン」と「チャコニン」いう種類です。

これらは胃や腸などの消化管の働きを必要以上に活発にする作用があり、吐き気や腹痛、下痢などの症状を引き起こすと考えられています。

ほとんどは軽症で済みますが、強い吐き気など子どもにとってはつらい症状が出ます。

こうした毒素は、植物が虫や菌などの外敵から身を守るために持っていると言われ、たとえば未熟なトマトにも多く含まれています。

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【ジャガイモのどこに毒が】
毒素が一番多いのが芽です。皮にも比較的多く含まれています。「塊茎(かいけい)」と呼ばれる中身にも一定程度、含まれています。

ジャガイモの毒素は体の中で分解されてたまらないので、問題は一度に食べる「量」にあります。

どのくらいなら影響が生じる可能性があるかというと、「体重1kgあたり1mg」以上と言われています。体重50キロの大人だと、50mgです。

この数字だけを示されても、分かりにくいかもしれません。

農林水産省によりますと、芽に含まれている毒素の量は100gあたり200から730mgです。皮だと30から60mg。中身はそれより少なく、4.3から9.7mgです。

この数字は、品種や個体によってもかなり違うのであくまで参考ですが、影響が出るのが50mgとすると、ごくごくおおざっぱにみて、芽だとわずか10g、皮だと100gほど。中身では700gくらいにあたります。

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ジャガイモは一般的なMサイズが1個、100gくらいです。皮をむいて食べるとほとんど問題ない一方で、皮つきだとたくさん食べると影響が出る量を超える可能性があります。

さらに留意点があります。

1つは、個人差があるのでたくさん食べたから必ず症状が出るわけではないということ。

もう1つは、反対に子どもだともっと少ない量でも影響が出る可能性があるということです。体重が少ないですし、感受性が高いことがあるからです。

【ジャガイモの食中毒を防ぐには】
それでは、どうすれば食中毒を防げるのでしょうか。保管と調理、それぞれの注意点を説明します。

まず、保管です。緑色のジャガイモは光に当たって変色したものです。

光にあたると毒素は増え、日光だけでなく蛍光灯などどんな光でも毒素は増えることが分かっていますので、暗いところで保管する必要があります。また、温度が高いと腐る可能性もあります。

通気性が良い紙袋に移し替えて冷蔵庫の野菜室に置いたり、光に当たらないよう段ボール箱に移し替えて保管したりするのがより適切です。

それでもずっと真っ暗なところで保管するのは難しいと思いますので、できるだけ早く食べることです。

次に食べるときの注意点です。

ポイントは、芽や周りを取り除くこと。とくに緑色に変わっている場合は、普段よりも皮を厚めにむいてください。皮をむいても中まで緑になっている場合やえぐみや苦みなどを感じたときは食べないようにしてください。

中まで緑になっているのは、かなり光に当たったことを示しています。また、緑色になっていなくて毒素が増えていることもあり、えぐみでそれが分かることもあります。

ジャガイモの毒素は熱に比較的強いので、調理してもあまり減りません。ですから、毒素が多い部分を取り除くのがもっとも有効です。

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また、ふだんスーパーで売っているジャガイモについて心配はないのかと思うかもしれません。

これについて農林水産省は「販売されているジャガイモは適切に管理されているので、一般に毒素は低く抑制されている」と説明しています。ですので、買ってきてから家での保管状況を気にしておいたほうが良いということです。

【学校で頻発するジャガイモの食中毒】
ジャガイモの食中毒は、家庭だけでなく学校でも注意が必要です。

6月にも東京・日野市の小学校で、調理実習で食べたゆでジャガイモが原因の食中毒が起きました。あわせて20人が頭痛や吐き気などを訴えました。全員、症状は軽かったということです。

学校で起きるのは、珍しいことではありません。これは過去10年に起きたジャガイモを原因とする食中毒です。

ほとんどが学校で起きているんです。時期にも特徴があります。6月、7月が圧倒的に多くなっています。

実際は家庭でも起きている可能性が指摘されています。ジャガイモが原因で、体調が悪くなっていることに気づかないケースもあるとみられています。学校だと多くの子どもたちに異変があるので発覚しやすいということはあります。

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【学校菜園での栽培に問題が】
6、7月によく起きている背景は何なのでしょうか。それは原因となるジャガイモは、学校の菜園で作られていることが多いからです。

ジャガイモは成熟するのに、100日ほどかかります。たとえば新学年に変わった4月の中旬に植えつけると、成熟するのは7月下旬になります。

ただ、全国の多くの学校はそのことには夏休みに入ってしまいます。その前に収穫しようとすると、ジャガイモがまだ熟しきっていない場合があります。

極端に小さい未熟なジャガイモは、もともと全体的に毒素が多い傾向にあります。さらに小さいので皮をむくのが面倒だということで、毒素が多い皮ごと食べてしまうことがよくあります。

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夏休みの前に学校の菜園で収穫した未熟なジャガイモを、調理実習で皮をむかずに食べて、食中毒になるというのが典型的なケースです。

文部科学省などでも学校に注意を呼びかけていますが、学校側の意識が浸透しきれていない面があります。

一方で、ジャガイモの栽培には教育上のメリットもあるので、食中毒の可能性があるからといってすべてやめるというのも過剰反応です。

植物の毒に詳しい国立医薬品食品衛生研究所安全情報部の登田美桜室長は「ジャガイモの栽培は楽しく、子どもたちが食品とリスクの関係について学べる教材になる。食中毒はジャガイモのことを正しく知り、適切に扱えば防げるので、学校側が責任を持って気をつけてほしい」と話しています。

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【まずはよく知って食べましょう】
改めて家庭での注意点をおさらいしましょう。

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①芽は周りも含めて必ず取り除くこと
②とくに緑色に変わっている場合は皮を厚めにむくこと
③えぐみ、苦みがあったら食べないこと

どんな物にも食べた時に何らかのリスクはつきものです。大事なのは、それを知ったうえで対処することです。

油断してはいけませんが、決して心配しすぎることもなく、きちんと知ってジャガイモを利用してほしいと思います。


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