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広がる対話型AIの活用 企業やくらしでも

今井 純子  解説委員

話題になっている対話型AIについて、今井解説委員とお伝えします。

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【対話型AI。最近、ニュースで目にしない日はないほど、話題ですね・・】
この対話型AI。世界的に開発競争が繰り広げられていますが、特に、去年11月に、アメリカのベンチャー企業が開発したChatGPTが公開されて、大きな話題になっています。自然な言葉で質問をすると、自然な言葉で答えを返してくれることが大きな特徴です。例えば、山にハイキングに行く時の危険と必要な準備を教えてくださいと、打ち込むと「山にハイキングに行く際には、自然の力、突然の天候の変化、野生生物との遭遇など、様々な危険が存在します」として、危険な事例、準備すべきものを教えてくれました。

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【最後に「安全にハイキングを楽しんできてください」とありますね】
会話のようですよね。インターネット上にある膨大な文章をAIが学習して、質問に応じて、自然な文章の形で、もっともらしい回答をつくって返してきます。同じ質問をしても、少し違う答えが返ってきますし、間違えた答えが返ってくることもあります。ですので、注意は必要ですが、今、様々な場面で活用の動きが進んでいて、企業の間でも、仕事に活用しようという模索が広がっています。

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大手証券会社の大和証券は、情報が外に漏れない安全なシステムを構築して、今年4月、全社員9000人にチャットGPTを導入しました。効果的な活用方法を探るため、どう使うかは社員の自由に任せています。
人事部で、ダイバーシティ推進も担当している森さんは、この日、女性の活躍についての政府の公表資料を、AIに要約してもらい、その上で、女性の役員比率が低い理由について質問しました。「いろんな理由があるけれども・・」と返してきたAIの答えに対し、もっと積極的に登用すればいいのではないか、と、自分の考えをぶつけてみます。すると・・

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【確かに・・と返してきていますね。本当に対話をしている感覚ですね】
はい。このように、AIと対話を繰り返す中で、自分なりの考えをまとめる助けになるということでした。

【ほかには、どのような使い方がされているのですか?】
仕事の内容によって、例えば、英語の契約書の翻訳や稟議書の文章の修正、プログラミング。そして、法人担当の社員は、営業に行く前に、顧客の業界について、構造や課題を調べるなど、様々な使い方がされていました。

【どのような効果がでているのですか?】
いずれも、同じ仕事をするのにかかっていた時間が大幅に減ったという話でした。
そして、節約できた時間で、例えば、先ほどの森さんは、同僚と議論して、理解を深めたり、企画のアイデア出しにつなげたりすることができている。また、営業の社員は、より多くの資料を読んでお客さんへの提案を手厚くできるようになった、と言います。残業が減った時間で、新たに英会話やプログラミングの勉強を始めた社員もいました。

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【次の仕事につなげていく前向きの効果も期待できるのですね】
この証券会社は、いろいろな使い方を模索している段階ですが、企業の中には、対話型AIを使って、専門性の高い独自のシステムを構築して使い始めているところもあります。

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デジタル大手の電通デジタルは、ネットやSNSなどに向けたデジタル広告のキャッチコピー案をAIに作ってもらう試験運用を始めています。デジタル広告の場合、SNSなど様々な媒体向け、様々なターゲット向けに、大量のキャッチコピーが必要です。そこでAIを使って、例えば、フィットネスクラブついてと打ち込むと・・ネットの情報やSNSのつぶやきなどから、このクラブの強みを分析。今、世の中でどんなことが求められているのかも調べ、

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便利さを求める人向けには「駅前ジムで手軽にボディメイク」とか「アプリで手軽に管理」。健康やダイエットなどの理想を追求する人には「自信をもって鏡の前に立とう」など、これまで1~2日かかっていた大量のキャッチコピー案を数分で作ってくれると言います。

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執行役員の山本覚さんは「破壊力のある、人の人生に影響を与える、記憶に残り続けるキャッチコピーようなは、人間でないとつくれない。本来クリエーターがしたかったことに、もっと時間をさけるようになると思っている」と話していました。

【使い方を工夫していくと、企業での利用は広がりそうですね】
はい。この対話型AIは、企業の競争力を大きく変える可能性がある。また、深刻な人手不足対策にもなる、と感じている企業も多く、今後、利用は広がっていくと思います。ただ、注意しなければいけない点があると言います。
▼ まず、顧客の個人情報や、企業の機密情報が漏れたり、著作権法違反を起こさないよう、システムを構築し、ルールをつくって徹底する。
▼ そして、学んでいる情報量によって、間違いもありますので、情報の正確性を必ず人間が確認する。
▼ その上で、AIが示す回答は、あくまでも、材料のひとつ。他の情報をあわせて、最後は、人間が判断することが大事だということでした。

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【この対話型AI。私たちのくらしにはどのような影響があるのでしょうか?】
先行しているアメリカでは、対話型AIを組み込んだ新しいサービスとして
▼ 例えば、大手フリマアプリのメルカリが、利用者との間で、何を探しているのか、趣味とか好きな色、予算、サイズなどをやりとりした上で、AIがお勧めの商品を提案してくれるサービスを始めています。そして、
▼ AIと対話する中で、自分の好みにあわせた旅先や宿泊先、体験プログラムなどを提案してくれ、予約もしてくれるサービス。さらに、
▼ 好きな食材とか、健康で気をつけている点とか、やりとりをすると、献立を提案してくれ、ネットスーパーに食材の注文もしてくれる。こうしたサービスも登場しています。
日本でも身近なところで、これから様々なサービスが広がってくると予想されています。

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【便利そうですね】
ただ、企業と同じで、使う場合は私たちも注意が必要です。
▼ なにより、先ほども触れましたが、対話型AI。間違いが結構あります。かたよった回答をすることもあります。中には、悩み事を対話型AIに相談するという人もいますが、AIが寄り添うような言葉をかけてきても、文字を連ねているだけで感情はありません。疑う心、批判的な心をもって、適度な距離を持ってつき合うこと。そして、出てきた回答は、材料のひとつ。視野を広く最後は自分が決めることが大事です。
▼ また、入力した情報が、AIの学習に使われる可能性がありますので、個人情報を入力しないことも大事です。

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【つきあい方が大事ですね】
子どもが小さいうちから安易に頼ると、人間本来の深く考える力が育たなくて危険だという指摘もでています。広がり方が急なだけに、こどもから大人まで、対話型AIについて、きちんとした知識を得られる場。そして、安心してつきあうためのわかりやすい指針を、政府は早くつくって、わかりやすく示してほしいと思います。


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