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続く値上げ 今後は?

今井 純子  解説委員

今月も値上げの動きが続いています。今井解説委員。

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【値上げの勢いはとまらないですね】
はい。今月も多くの食料品。そして、地域によっては電気料金が上がっていますが、その前に、まず、消費者物価の推移を振り返ってみたいと思います。
ロシアのウクライナ侵攻による、国際的な原材料価格の高騰を受け、去年4月に消費者物価は、一気に、日銀の物価目標の2%を超えました。そして、円安も加わって、今年の1月には去年の同じ月と比べてプラス4.2%と、41年ぶりの上昇。その後、政府の電気代・都市ガス代への補助金が始まり、4月はプラス3.4%でした。

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【3月より、上昇率が上がったのですね】
そうなのです。内訳をみてみたいと思いますが、電気代やガソリンなどのエネルギーの価格は、1年前と比べて下がりました。一方、食料品が9%の上昇と、46年11か月ぶりの高い水準となりました。

【食料品、上がっていますよね・・】
▼ 食用油などの値上がりが続いているほか、豆腐やお菓子、卵なども大幅に上がりました。
▼ そして、食料品以外でも、エアコンや洗剤
▼ さらに、ここへきて、サービスの分野でも、値上がりが目立ってきています。
調査対象の83%の品目で価格が上がりました。歴史的な物価上昇となった今年1月よりも4ポイント近く増えていて、値上げのすそ野が広がっていることがわかります。

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【なぜ、値上げのすそ野が広がっているのですか?】
物価を押し上げる要因が変化してきている影響があります。
ロシアのウクライナ侵攻から1年以上たって、原材料などの国際価格は、落ち着いてきています。輸入品の価格を示す、輸入物価指数。円ベースでみて、去年7月は、一年前と比べて+49.2%と大幅に上昇していましたが、今年4月には、-2.9%と下落に転じました。

【輸入品の物価が下がっているのに、消費者向けの物価は上がっている。これは、何が押し上げているのですか?】
▼ 1つは、過去のコストの転嫁です。長くデフレが続いてきたこともあり、多くの企業は、コストの負担が増えても、値上げに慎重で、少しずつしか転嫁できていなかった。ですので、まだ、転嫁できていない分があって、今後、転嫁したいという意欲が強い。
▼ そして、もう1つは、人件費です。人手不足から、アルバイト代が上がってきたほか、今年の春闘では、正社員も30年ぶりの高い賃上げ率となりました。人件費は、サービスの料金にもきいてきます。
4月は、年度替わりのタイミングということもあり、企業がこうしたコストや人件費を、販売価格に積極的に転嫁したとみられます。

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【その値上げの動き。6月も続いているのですね】
はい。
▼ まずは食料品と飲み物。帝国データバンクがまとめた調査では、6月におよそ3600品目が値上がりします。去年の秋や今年の春と比べると、若干減ってはいますが、コストを販売価格に転嫁する動きは、まだ続いています。
▼ そして、電気料金。大手電力7社で6月の使用分から家庭向けの規制料金が値上げされ、
▼ さらに、サービスの分野でも、映画の鑑賞料金や引越し・家事代行サービスなどで、一部値上げに踏み切る動きがでています。

【今後も値上げは続く?】
続きます。というのも、7月も物価を押し上げる新たな要因がのっかってくるからです。
▼ 政府が輸入した小麦を製粉会社などに売り渡す価格が4月に上がったことを受け、それを使った家庭向けの小麦粉や食パンなどが7月に値上がりするほか、
▼ 生乳の取引価格が引き上げられることを受け、牛乳やチーズの値上げに踏み切る企業もでてきています。

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【物価の上昇は、まだ、続くのですね】
民間のエコノミストの予測の平均を見てみると、4月から6月の3か月の平均は2.9%、7月から9月は2.4%と2%台が続くという見通しです。

【今よりは、物価上昇の勢いが落ちついてくるということですか?】
今の時点では、そのような予測です。ただ、物価の予測は、繰り返し、上方修正されてきました。それだけ値上げの勢いが強いのです。さらに、今後についても、新たに物価を上げるかもしれない、要素がでてきていますので、勢いが予測通り緩やかになるか、わからない面もあります。

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【物価を上げるかもしれない要素。過去のコストの転嫁や人件費に加え、まだあるのですか?】
まず、為替が、再び、輸入品の物価を押し上げる「円安」の方向に動いていること。
そして、ガソリンの価格を押し下げてきた、政府の補助金。6月以降、段階的に引き下げられ9月末でいったん終了することが決まりました。物価を上げる要因になる可能性があります。
一方で、一部、値下げなどの動きもでてきています。

【どのような動きですか?】
はい。消費者の間で節約から買い控えの動きもみられるということで、値下げに踏み切る動き。それから、自社で開発して価格を抑えたプライベートブランドの商品を強化する動きもでています。まだ、一部にとどまっていますが、今後、節約の動きが広がれば、こうした「値上げ控え」の動きが進む可能性もあります。

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【消費者としては、ありがたいです】
確かに、国際的な原材料の価格は下がっていますので、コストが下がった分、値下げできるものがあれば、反映してほしいと思います。
ただ、それで、せっかく上がり始めた賃金が抑えられ、海外と比べて「安い日本」と揶揄される状態が続くようでは、経済全体としては、望ましいことではありません。本来は、経済の成長にあわせてゆるやかに物価が上がり、企業の業績が上がる。それが、物価を上回る賃上げにつながり、さらに消費が増える。このようなよい循環ができるのが望ましい。それだけに、焦点は「物価を上回る賃上げ」が達成されるのか。この点が、引き続き、大きな課題です。

【賃金は上がっているのですよね】
先ほど少し触れましたが、今年の春闘。全体で前の年と比べておよそ3.7%の賃金引上げと、30年ぶりの水準になりました。中小企業も3.4%近く上がりました。年齢などに応じて上がる定期昇給分を差し引いたベースアップ=基本給の底上げにあたる部分は、2%程度に達したとみられています。

【物価の上昇と比べると、どうなのですか?】
物価上昇分を差し引いた実質賃金。4月分がけさ発表され、3%の減少でした。賃金が上がっても、まだ、物価の上昇に追い付いていない状態が続いています。

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ただ、春闘で賃上げが広がった分は、4月の統計にすぐに反映されるわけではなく、効果は徐々に現れてくるとみられるということで、今後、物価上昇が緩やかになるにつれて、秋以降、年末ごろには、賃金の上昇分が物価上昇を上回るのではないか、という期待もでているのです。

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【そうなると生活も少し息をつけるかもしれませんね。そして、その後、来年も賃金の引き上げを続けてほしいですね】
企業は、深刻な人手不足に直面し、来年も賃金を上げないといけないという危機感は持っています。そして、そして今年度の業績も、全体では堅調と予想されています。企業は、コストが下がった分は販売価格を抑制する。そして、利益が増えた分、賃上げも続ける。

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このように、消費者や働く側にきちんと還元をして、私たちの生活がこれ以上厳しくならないよう、取り組んでほしいと思います。


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