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はしかで注意呼びかけ どこまで知っている?はしかのこと

中村 幸司  解説委員

厚生労働省が2023年、はしかの感染に関して注意を呼び掛けています。
海外で感染して、日本で、はしかと確認される事例が、報告されています。はしかの予防には、ワクチンが有効とされています。今回は、はしかがどういった病気なのか、ワクチン接種の重要性について取り上げます。

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◇はしかの感染の状況
国内でどういった感染があったのでしょうか。

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2023年4月27日に、茨城県の30代の人がはしかに感染していることが確認されました。この人は、確認される前の4月23日に新幹線のグリーン車に乗っていました。同じグリーン車に乗っていた東京の2人が、5月になって、はしかを発症しました。この車内で広がったとみられています。

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茨城県の人は、インドから帰国したということで、海外で感染したものとみられています。

◇国内のはしかの感染状況とその推移
国立感染症研究所によりますと、2023年に入って、5月21日の時点で10人です。

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10人という数をどう見たらいいのか。2つの点から、警戒すべき状況だと思います。
2008年以降の感染者の推移が上の棒グラフです。はしかの感染者数は、2001年に推定で20万人以上とされるなど、かつては非常に多くの人が感染していました。その後、ワクチン接種が進んだことなどから大きく減少しました。日本は、国内で感染が長く継続するケースがなくなったとして、2015年、WHO=世界保健機関から、はしかの「排除状態」にある国に認められました。
その後も、海外で感染した人が日本に入ってくる、いわゆる「輸入症例」や、その人から国内で感染が広がるケースはありました。2015年以降、感染者が増える傾向が続き、「このままでは排除状態を維持できなくなるのではないか」といった懸念が聞かれましたが、2020年以降、新型コロナの影響で海外との行き来が減って、年間10人以下になっていました。これが、2023年は、半年にもならない5月21日の時点で10人です。

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海外との行き来する人が増えている中で、コロナ前のように、再び感染者が増えるのではないかというのが、1つ目の警戒点です。
もう一つは、はしかは「油断してはいけない感染症だ」という点です。

◇はしかは、どういった感染症なのか
はしかの潜伏期間は10日から12日あります。初期の症状は、発熱、せきや鼻水などです。かぜに似ていて、一時的に熱が下がることがあり、この時は、はしかと思わずに過ごしてしまうケースもあります。そのあと、39度から40度の熱になって、体に発疹があらわれます。

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特徴のひとつは、感染力です。新型コロナより強いとされ、空気感染しますので、マスクをしても防ぐことは難しいと考えられています。
発症した人の1000人に1人が死亡するとされています。今もリスクの高い病気であることがわかります。というのも、治療方法は、熱が出たら、熱を下げる薬を投与するといった「対症療法」になります。特効薬はありません。
感染したこともワクチンを接種したこともない免疫のない人が感染すると、ほぼ100%発症します。妊娠している人が感染すると、流産や早産のおそれがあります。
こうしたことから、感染拡大は防がなければならないのです。

さらに危険なのが「SSPE」=亜急性硬化性全脳炎という病気です。

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回復して治ったと思っても、体の中にはしかのウイルスが潜んでいることがあり、数年後、あるいはおよそ10年後になって、発症する病気です。

SSPEは、治療法が確立されていない難病で、記憶力の低下や運動障害、さらには意識がなくなるというように進行する病気です。
はしかの感染者の数万人に1人が発症すると言われていますが、5歳未満の子どもは、もっと高い割合でSSPEを発症するという海外の報告もあります。子どもがはしかに感染することを抑える必要性は、こうしたところにもあります。
ワクチン接種には、発熱などの副反応がみられることがあります。一方、ワクチン接種には、はしかを予防し、SSPEを防ぐといった効果が期待でき、専門家はメリットが非常に大きいとしています。

◇はしかのワクチンの接種と制度
はしかのワクチンは2回の接種が推奨されています。

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はしかのワクチンは、1回の接種では、十分な免疫ができない人が5%程度いるとされています。2回接種すると、多くの人に免疫ができ、1回目の接種の効果が増強されることも期待されます。このため、2回の定期接種が行われています。
はしかのワクチンといっても、現在多く流通しているのは「MRワクチン」といって、はしかと風疹のワクチンを混合したものです。はしか対策としても、ほとんどの人がMRワクチンを接種することになります。

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上図は、接種回数を年齢別に示したものです。
現在の制度では、1歳のときに1回目の定期接種、小学校に入る前の1年間に2回目の定期接種を受けるようになっています。したがって、小学生以上は2回接種受けたことになります。
しかし、いまの制度になる前の年代には、2回の定期接種はありませんでした。2023年6月1日現在で、33歳2か月から50歳8か月の人は、定期接種が1回でした。50歳8か月より上の年代は、定期接種はなく、一部に任意の接種を受けた人がいます。

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上図の2回接種していない30代以上が感染しやすいということになりますが、50代以上は、状況が違います。多くの人が子どものころにはしかにかかっています。つまり、免疫を持っている人が多いと考えられます。
一方で、33歳以下は、2回の接種機会はありましたが、接種率が高くなかった時期もありました。この年代でも、1回しか接種していない人が一定程度います。
このように、各年代で2回のワクチン接種を受けていない人がいます。
さらに、現在の子どもの接種でも懸念が聞かれます。1歳と小学校入学前の1年間に行われている子どもの定期接種では、新型コロナの拡大以降、接種率が下がっていると指摘されています。専門家は、子どもが免疫をつけるために、2回の接種は着実に実施してほしいと話しています。

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2023年、感染が確認された10人のうち、2歳で2回接種したという特殊ケースを除いた9人について接種回数をみると、いずれも0回か1回、あるいは接種したかどうか不明という人でした。はしか対策では、2回の接種が大切だということがわかります。

◇ワクチン接種歴の確認を
では、どう対応したらいいのでしょうか。

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まずは、ワクチン接種について、母子手帳で確認してください。ワクチンを2回接種していれば良いですが、受けていなかったり、1回だったり、あるいは母子手帳がないなど、接種したかどうかわからないというときは、医師に相談してください。そのうえで、ワクチンの接種を受ける、あるいは免疫が十分かどうかを検査して、接種するかどうか判断してください。
感染したことのある人は、ワクチン接種は必要ありません。ただし、子どものころの記憶は、別の病気と勘違いしているなど、正確でないことが少なくないと指摘されています。なるべく記録で確認するようにしましょう。

費用は、定期接種でない全額自己負担の場合、医療機関によって幅があります。
▽ワクチン接種が、概ね数千円(8000円くらい)から1万円前後、
▽免疫の検査は、数千円(3000円から5000円程度)かかります。

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妊娠中や妊娠の可能性のある人は、ワクチンを接種してはいけませんので、注意してください。
そして、特に海外に行く予定のある人は、自分のワクチン接種についてチェックしてください。下図は、2023年3月までの1年間の人口あたりの感染者数を国別に濃淡で示しています。

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アフリカや、インド、東南アジアなどに色の濃い国があるのがわかります。海外では、感染者が多い国があります。最初に示した新幹線のケースは、インドから帰国した人から感染が広がりました。夏休みに、海外に行く計画がある人などは、免疫の検査やワクチン接種を検討してください。

はしかは、重症化するリスクはありますが、ワクチンで予防できる病気です。自分がかからないよう、周囲に広げないよう対策をしてほしいと思います。


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