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コロナ5類移行 介護施設の面会 気をつけるポイント

牛田 正史  解説委員

新型コロナの影響で、介護施設では、家族との面会を取りやめる所が相次ぎましたが、コロナが5類に移行され、制限を緩和する施設が広がっています。
一方で、引き続きクラスターなどへの警戒は必要ですし、本当に会いに行って大丈夫だろうかと心配される家族もいると思います。
面会で気を付けるべきポイントは何か、牛田解説委員がお伝えします。

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コロナ禍の初期の頃は、ほとんどの施設が、面会を禁止せざるを得ない状況でしたが、その後、少しずつ再開する施設が増えていきました。
そして5月に5類へ移行したことで、その動きがさらに広がっています。
短い時間にするなど、何らかの制限をかけている施設は珍しくありませんが、面会そのものは、すでに多くの施設で再開していると見られます。

このうち、東京にある介護施設では、コロナの感染拡大で1年半ほど面会を禁止していましたが、その後、再開し、今では入居者の部屋で面会することも可能です。
私が取材した日には、90代の女性の入居者の基に、娘さんが面会にやってきました。
入居者の女性は、「やっぱり家族に会いたいですし、今どうしているのかなと思うことがよくあります。今はとても幸せです」と話していました。
この介護施設(「ラヴィーレ駒沢公園」)の眞部由里子ホーム長によりますと、面会を禁止していた時は、食欲が落ちてしまったり、活気が出なくなってしまった人もいました。
それでも、面会を再開すると、楽しみが増えて、活力や食欲がアップした人もたくさんいたそうです。

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介護施設で暮らす高齢者にとって、家族との面会は非常に重要です。
東北大学大学院の小坂健(おさか・けん)教授に話を伺ったところ、面会が出来なくなると、物忘れが激しくなったり、認知機能の低下に繋がるということです。
また気持ちが沈んだり、不安から食欲がなくなって、十分な栄養が取れなくなったりするおそれもあると指摘しています。
小坂教授は「面会は入所者の基本的な権利であり、可能な限り対面での面会を実現していくべきだ」と話しています。
これは国も同じスタンスでして、「面会の再開や推進を図ることは重要」として、各施設に積極的に進めていくよう呼び掛けています。
ただ面会を再開するかどうかは、あくまでも事業者の判断にゆだねられています。
まだ制限を続けざるを得ないという考える施設もあると思いますし、そこは、感染状況に応じて、いろんな判断があります。

今後、出来る限り、面会が広がってほしいと思いますが、再開した場合、重要になるのが「感染対策」です。これを忘れてはなりません。

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新型コロナは、5類に移行されたとはいえ、その脅威が無くなったわけではありません。
高齢者は重症化するリスクが高いとされていますし、施設で感染者が出ると、それが一気に広がってクラスターになるおそれもあります。

最近では、5類に移行する直前の1週間に少なくとも54件、確認されています。
年末の第8波のピーク時には、週に900件以上ありましたので(954件)、それと比べると大幅に減ってはいますが、ゼロになったわけではありません。
ですので、面会に訪れる家族と施設の双方が、出来る限りの感染対策を実施していく必要があります。

では、私たちは具体的に、何をすべきなのでしょうか。
ここからは、介護施設で面会を行う際の主なポイントを紹介します。
専門家の意見を基に、国がまとめたものです。

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最初に、まず面会の当日に検温を行います。
施設を訪れる前に、平熱と変わりないかを確認してください。
熱が無くても、咳やのどの痛みなど感染が疑われる場合は、面会を控えるべきですし、同居する家族に、発熱や咳などの症状がある場合も同様です。
そして、施設に入る時には、手洗いや手指の消毒を行う。
さらに、いまマスクを着けるかどうかは個人の判断となっていますが、介護施設へ面会に訪れる人は、きちんと着用することが望ましいとされています。

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また面会の仕方についても、留意点があります。
出来るだけ少人数で行う。
大声での会話は控える。
飲食も出来るだけ控えるべきとされています。
そして、部屋を十分に換気する。
夏や冬などは、どうしても窓を閉め切りがちになりますが、面会を行う際は、きちんと窓を開けて換気を行うことが重要です。
さらに、面会が終わって自宅に戻った後、一定の期間内に発症してしまったり、感染が分かったりした時は、速やかに施設に連絡をすることも大切です。
この一定期間とはどれくらいなのか、国に聞いてみたところ、一概に何日とは言えないそうですが、新型コロナの場合は、少なくとも面会して2日以内に、発症したり感染が明らかになったりした場合は、施設に連絡してほしいということです。
いまお伝えしたポイントは、介護施設だけでなく、重症化リスクの高い障害者が暮らす施設で面会を行う際にも、重要となります。
感染を恐れすぎて、面会に行くことを全くやめてしまうということは、出来るだけ無い方が良いと思いますが、感染を全く気にしないというのも危険です。
面会の際は、可能な限り感染対策を行う、これが重要になってきます。

ただ、新型コロナは、いくら気を付けていても感染者が出てしまう場合があります。
そうした時に、いかに感染の広がりを抑えられるかも重要です。

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もし大規模なクラスターが起きれば、再び長い期間、面会を禁止せざるを得ない事態となってしまいます。
クラスターが増加すれば、やっぱり面会を止めようという施設が出てくる可能性も、十分あります。
施設では、感染者が出たら速やかにほかの入居者に広がっていないか、検査を行っていくことが必要です。
また、国や自治体の取り組みも重要です。
過去には、介護施設で感染者が出ても、受け入れてくれる病院がなかなか見つからず、施設での療養を余儀なくされて、感染が広がってしまうケースが相次ぎました。
国や自治体は、感染した高齢者が、速やかに入院できる医療体制を、きちんと整えておく必要があります
いざという時の対策がしっかりしていれば、それだけ施設や家族の安心感にも繋がり、面会がさらに進んでいくことが期待できます。

介護施設で暮らす高齢者にとって、家族との面会はかけがえのない時間です。
必要な感染対策を続けていきながら、面会の再開など、平時を取り戻していく。
それが、今、重要なことだと感じます。


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