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プラスチック汚染対策 国際条約に 2040年汚染ゼロ?くらしに影響?

土屋 敏之  解説委員

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◆プラスチック汚染を防止するための条約を作る政府間交渉が今週パリで行われている

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これは去年、世界各国が参加した国連環境総会で、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際約束、つまり条約を作る政府間交渉をすることが決議されたことによるものです。対象はプラスチックの生産から消費、廃棄に至るまで、いわゆるライフサイクル全体で、2024年の末までに交渉を終えることになっています。
この政府間交渉は5回予定されていて、その2回目が5月29日~6月2日の予定でフランス、パリで行われています。今回からいよいよ条約の中身の議論が始まる予定で注目を集めています。

◆なぜ今プラスチックに関する条約?

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近年世界的にプラスチック汚染が急激に進んでいると見られています。プラスチックの利用は20世紀後半から急増し、2019年には年間消費量が4億6千万トンにも達しました。これは地球上の人類の総体重に匹敵する量です。一方、廃棄された量も3億5千万トンと大半はごみになっているのが現実です。その一部、年間2千万トン以上が環境中に流出しているとも推計されます。プラスチックは波で小さく砕かれるなどしても、自然に分解することはほとんどないことから結局小さなマイクロプラスチックになって、これが海流や風に乗って世界中に拡散していきます。

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最近は私たちが呼吸する大気や飲んでいる水、ミネラルウォーターからもマイクロプラスチックが検出されたとの報告が出ており、私たちは既に毎週5g=クレジットカード1枚分のプラスチックを体内に取り入れているとの試算もあるほどです。多くは体から排出されるとしても、マイクロプラスチックには有害な化学物質が吸着しやすいとの指摘やそれが海の食物連鎖で蓄積するおそれもあり、長期的に私たちの健康や生態系への悪影響が懸念されています。
こうしたことから、プラスチック汚染を防止すべきということは今や世界的なコンセンサスになってきています。
さらに、プラごみは先進国から途上国へいわゆる「ごみ輸出」が行われてきましたが、汚れたプラごみが途上国で環境汚染を引き起こしたり、石油から作られたプラを燃やして処分することで、二酸化炭素を出し地球温暖化を悪化させる問題もあります。
このようにプラ問題は複合的で一国だけでは解決が難しいため国際ルールが必要だと考えられるようになってきたのです。

◆G7でも話し合われたプラスチック問題

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広島で開かれたG7サミットで各国首脳が合意した文書には、「2040年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする」つまり新たな汚染を増やさないことが目標として盛り込まれました。これまで国際的な目標としては、2019年のG20で合意された「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにする」というものがあったので、これを10年前倒しした上、海だけでなく大気や陸など環境全体に広げたと言えます。
実はこの「2040年ゼロ」という目標は、今回のG7が初めて掲げたわけではなく、去年ノルウェーやルワンダなど20か国が立ち上げて現在は50か国以上に増えている「プラスチック汚染をなくす高い野心連合」というグループが提唱していて、日本政府も26日にこの連合への参加を表明しました。とは言え、実際にどうやって目標を実現するのかは難題で、世界中の国が取り組む必要があります。

◆条約交渉の焦点

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具体的な議論はこれからですが、プラスチックのライフサイクル全体が対象と言っても各国それぞれ重視する点に違いもあります。交渉に先立って各国が意見書などを提出していますが、例えば日本や中国などは「廃棄物管理」、つまりプラごみをきちんと回収してそれをリサイクルなどで利用する仕組みを特に重視しています。つまりライフサイクルの川下の部分を重視とも言えます。また各国の自主的な取り組みを重視していて、この点はアメリカも同じ主張です。
これに対しEUなどは、プラスチックの生産量自体も減らす必要があるなどと川下だけでなく川上も重視していて、各国に対策を義務づけるなどより強い規制も求めています。
途上国からは適切なごみ処理の仕組みを作るためにも、先進国からの資金や技術の支援増加を求める主張があります。
交渉は予断を許しませんが、現在のようなプラスチックの大量消費・大量廃棄を前提にした社会をどうするかも問われることになりそうです。
プラごみが流出して汚染が広がるのをなくすのが目的なら、きちんと廃棄物を回収・処分すればそれでよいのでは?とも考えられますが、ごみになるプラスチックの量が多ければ、どうしてもそのうちの一部はポイ捨てされたり、あるいはごみ置き場などから意図せずともこぼれ出したりするものがあり、それが街から川、海へと流れ込むこともわかってきています。世界全体ではこれは膨大な量になります。
それに加えて、プラスチックのリサイクルにはコストやエネルギーがかかることや品質の劣化などの課題もあり、本当の意味でのリサイクルは現在もそれほど広がっていません。

◆プラスチック「リサイクル」の実態

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こちらは日本のプラごみの流れを最新データからまとめたものです。ペットボトルなども含め廃プラの排出量は年間824万トンで、そのうち「有効利用」とされているのが87%も占めています。

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ところが、その大半は「エネルギー回収」と呼ばれるものです。これはプラごみを燃やして電気や熱を生み出し利用するというもので、例えば清掃工場の近くに温水プールを作り熱の一部でも利用していればこれに含まれます。もちろんただ焼却するよりは「有効」ですが、温暖化対策の面からは石油由来のプラを燃やすこと自体を減らしていく必要もあります。そして、「リサイクル」と分類される中でも16%は実は途上国への輸出です。こうしたいわゆるごみ輸出は相手国で本当に全てがリサイクルされるならばともかく、中には適切に処理されず環境汚染につながるようなケースもあります。

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結局、私たちがリサイクルと聞いてイメージする新たなプラ原料に国内で循環しているのは33万トンとわずか4%ほどなのです。
もちろんごみの分別は、資源の有効利用やきちんと処分されることにもつながるので効果はありますが、リサイクルに頼る対策には限界もあると言えます。
やはりごみになるプラスチック自体も減らしていかなければ、その一部は最終的には水や空気の中に入って私たちの健康をも脅かすプラスチック汚染を広げます。

代替素材を開発することなども重要ですが、私たちもレジ袋からエコバッグへの切り替えのように、使い捨てプラに頼らないライフスタイル・社会への転換が求められています。これから暑い時期、まず毎回ペットボトルを買っていたのを水筒に切り替えるだけでも身近な一歩だと思います。


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土屋 敏之  解説委員

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