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敷金トラブルにご用心!

山本 恵子  解説委員

この春、進学や就職などで、マンションやアパートなどを借りて新生活をスタートした方もいると思います。
この引っ越しの時期に多い「敷金トラブル」について、名古屋放送局の山本恵子解説委員です。

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実は私もこの春、引っ越ししたんですが、借りていたマンションを退去する際、畳替えの費用を一部負担してほしいと言われました。支払う必要があるのか調べたところ「事前に知っていればよかった!」「知っていれば、もしかして数万円分は支払わずに済んだかも」と思うことがあったので、お伝えしたいと思います。

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そもそも「敷金」というのは何かというと、家賃の滞納や原状回復などの費用に充てるために、あらかじめ、大家さんに渡すお金のことで、通常は、退去するときに、原状回復の費用が差し引かれて返ってきます。

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この敷金で、どんなトラブルが起きているかといいますと、例えば、
▼賃貸物件を退去した際に、
「ハウスクリーニング代やクロスの張り替えなどで、敷金が返金されない」、
「敷金以上の費用を請求された」というものです。

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なぜ、こんなトラブルが起きるのかというと、この「原状回復」という言葉が鍵なんです。
賃貸物件を退去するとき、借りた人は「原状回復」を行う義務がありますが、どの程度まで戻す必要があるのか、という点で、トラブルになるんです。

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このため、国土交通省はガイドラインを作成して公表しています。

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その、ガイドラインによりますと、「原状回復」は、借りた人が「借りた当時の状態に戻すものではない」、と明記されていて、借りた人が故意、または不注意でつけた傷や汚れ、通常の使用方法を超えるような使い方をしたことによるものを元に戻すこと、と定義されているんです。

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国民生活センターによりますと、この原状回復について、毎年1万件を超える相談が寄せられていて、ことし2月には「賃貸住宅の『原状回復』トラブルにご注意」と、注意を呼びかけています。

そこには、原状回復の一般的なルールとして、日常の暮らしでできる傷み「通常損耗」や、時間がたつことによる「経年変化」については、原状回復の義務に含まれない、と書いてあります。

こうした賃貸住宅の現状回復義務や敷金返還のルールについては、2020年に施行された改正民法にも明記されました。

ただ、法律やガイドラインがあっても、どこまでが通常の使用でできた傷や汚れか、というのは判断が難しく、借りた人、大家さん、どちらの責任で修繕するのかで、トラブルになりやすいんです。

「国土交通省のガイドライン」には具体的な例も書かれているので見てみましょう。

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例えば、
▼壁の冷蔵庫の後ろにできる黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)。
▼家具による床、カーペットのへこみ。
▼畳やクロスの変色、フローリングの色落ち(日照などの自然現象によるもの)
▼壁に貼ったポスターや絵画の跡。
などは、「通常損耗」。
普通に使っていて生じた傷や汚れなので、修繕は大家さんの責任とされています。

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一方で、借主の責任となるのは、例えば、
▼壁の落書き。
▼タバコなどのヤニの汚れ。
▼ペットによる汚れや傷などです。

これは、借りた人の故意や不注意が原因なので、借主が修繕する必要があります。

ただ、実際は、ついた傷や汚れは、普通に使っていて生じたものなのか、そうでないのか、判断が難しいのが実情です。

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では、誰が、どう判断するのか、敷金問題に詳しい弁護士の方に聞きました。

「通常損耗、経年劣化と言えるかどうかの判断は、通常の住まい方、使い方によって生じたといえるかどうかという評価になるので、明確に線引きをするのが難しい。社会常識や過去の裁判例に照らして判断していかざるを得ないので、事前にトラブルになることを防ぐということが大切になる」ということです。

事前にトラブルにならない方法についても聞きました。

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まず、
① 契約時には、契約書の内容をよく読む。特約に注意!
国交省のガイドラインには、「ハウスクリーニングは、借りた人が通常の掃除をしている場合は、大家さんの負担、と書いてありますが、契約書の特約に「クリーニング費用は借主負担」と定められていることもあります。契約書は、特約までしっかり読んで、納得して契約することが大切。ガイドラインと比べて、あまりに不利な条項が入った契約については「消費者契約法」違反の可能性もあり、トラブルの元になるので、注意が必要です。

② 入居時、賃貸物件の傷などを記録しておく。
入居したらすぐ、家具などを置く前に、壁や床に傷や汚れがないか、不動産屋さんからチェックリストを渡される場合もありますが、チェックリストに記入し、写真も撮っておく。
「これだけ大きな傷だから、わかっているはず」とか、逆に、「こんな小さな傷まではいいだろう」と自分で判断せず、すべて記録しておくことが重要です。いちいち写真を撮るのが大変な場合は、動画を撮影しておく、という方法もあるそうです。大家さんや不動産会社の人と一緒に確認したり、チェックリストを共有しておくことがポイントです。

レンタカーを借りるときには、貸す側、借りる側、両方で、ここに傷がある、と確認しますが、両者で確認しておく、または写真に撮っておけば、あとで、この傷は最初からあったのか、後でついたのかを判断する際の客観的な証拠になるため、トラブルを防ぐことにつながります。

そして、
③退去時、精算内容をよく確認し、納得できない点は説明を求める。
国土交通省のガイドラインに示されている基準と照らし合わせて、納得いかない場合は、説明を求め、話し合うことが大切です。

○「大家さん、借主、どちらも納得して退去できるよう、備えを!」

わたしも、これまで10回ほど引っ越しをしましたが、退去するとき、敷金精算書が届くと、こんなものかな、と思い、支払ってきましたが、今回、初めてガイドラインを読み、「知っていれば、支払う必要はなかったのに!」というものもありました。

国土交通省のガイドラインのほか、東京都や大阪府などは独自にガイドラインを公表していて、イラスト入りでわかりやすいので、いずれもオンラインで見ることができるので、借りた人も、貸した人も、気持ちよく退去できるよう、ぜひ、参考にしてみてください。

もし、わからないことやトラブルになってしまった場合は、消費者ホットライン「188(いやや)」に電話して、相談してみてください。

また、話し合っても解決しないときは、60万円以下の支払いを求める場合は、「少額訴訟」といって、数千円の費用で、自分で訴えを起こす方法もあります。

国土交通省は、今月、トラブルになりやすい代表的なケースについて、いくらぐらいの負担になるのかなどを紹介した、ガイドラインの参考資料を公表しました。トラブルになった場合の方法も書いてあるので、ぜひ参考にしてください。


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