今回のテーマは2025年に開かれる大阪・関西万博です。
再来年4月の開幕まで2年を切り、ニュースで目にすることも増えてきました。
どんな万博になるんでしょうか。担当は大阪放送局の米原解説委員です。
■動き出した大阪・関西万博とは
Q
2年後の大阪・関西万博、大阪は盛り上がっているのでしょうか?
A
様々な動きが出てきて、私達も関西のニュースで取り上げることが増えてきています。
大阪・関西万博は国内で開かれるものとしては6回目。
規模の大きい万国博覧会としては1970年の大阪万博と愛知万博に続いて3回目です。
この公式キャラクターはミャクミャクといいます。赤は細胞、青は水を表していて自由に形を変えられるそうです。
会場は大阪湾に浮かぶ夢洲という人工の島です。
先月起工式が開かれ、これから建設が本格化します。
新型コロナの影響が心配されましたが、目標の150を超える国々が参加を表明。パビリオンがずらりと並ぶ予定です。
いち早く計画を発表したスイスは風船のような白い球体が連なったパビリオンでで分子や細胞を表現し、素粒子の国際的な研究所や製薬企業などスイスが誇る技術力をアピールする予定です。
中国も先月、参加を正式に発表し、自然と共に生きるコミュニティの構築などをテーマに竹を使ったパビリオンを作るということです。
半年間に2820万人が入場し、経済効果は2兆円と試算されていて、訪れた人を観光に呼び込もうという動きも関西周辺では始まっています。
Q
万博というと最新の技術が展示されて、それをきっかけに広がったものがたくさんありますよね。
A
前回の大阪万博の動く歩道や、愛知万博の暑さをしのぐドライミストが有名ですが、そういう意味で今回注目されているのは「空飛ぶクルマ」です。
空飛ぶクルマは電動で垂直に離着陸し、手軽に乗れる空の交通手段として移動革命を起こすとも言われています。今回の万博では今のところ4つのグループが国内で初めて客を乗せて飛行するべく開発を続けていて、万博会場に発着場を設けて遊覧飛行や移動に使おうとしています。商社などはその後の実用化をにらんで、大都市から遠い遠隔地への旅行に活用できないか、すでに検討を始めています。
また、大阪大学などが開発している培養肉は、筋肉や脂肪の細胞を培養して、実際のステーキ肉の構造に合わせて3Dプリンターで作っていきます。大きさはまだ1.5センチくらいで、なかなか作るのに時間がかかるのだそうです。それに安全性の基準が明確に定まっていませんので、実際に商業利用となると、超えていく壁があるのが現状です。ただ、家畜の飼育には多くの場所や水が必要ですから、食料問題や地球温暖化対策の一つとして注目され、万博で食べることができるよう研究が進められています。
■テーマは「いのち」
Q
万博というと、毎回最新の技術が展示されますが、今回はどんな内容が中心になるんですか?
A
今回のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」となっています。
国内外で活躍する8人がプロデューサーとして「命」をテーマにパビリオンを作るんですが、このうち2人をご紹介したいと思います。
ロボット研究で知られる大阪大学の石黒浩教授は、科学技術によって人間の命が広がっていく未来を表現します。スマートフォンが今や人間の記憶を担い、コロナによってリモートで働くのが普通になりましたが、そこからさらに、自律AIロボットやアバターが活躍する進化した未来の社会を、例えばアバターが先生として教える授業など、学校や病院、職場といった暮らしに関わる多数の場面でロボットをたくさん使って表現する予定です。
また、メディアアーティストの落合陽一さんが考えているのは、自分の分身をデジタル上に作って対話するパビリオンです。例えばスマートフォンのアプリで自分自身をスキャンして、自分のデジタルヒューマンを作ります。それに普段から語りかけることでAIが考え方を蓄積していき、見た目も考え方も自分にそっくりのデジタルヒューマンができていくということです。
パビリオンでは自分や他人のデジタルヒューマンと対話を楽しんでもらう予定だということです。落合さんは「自分自身と違って寝なくてもずっと働けるし、死なずにデジタル上に残り続けるわけで、働き方や死生観も変わるだろう。対話をどう感じるか体験してほしい」と話していました。
Q
二人ともデジタルの技術革新よって命や生き方がどう変わるのかが色濃く出ているんですね。
A
今回の万博はコロナでリモートワークが普及する一方、チャットGPTに代表されるように、AIの発達によって社会がどうなるのかという議論が活発になる中での開催になります。
BIE=博覧会国際事務局のディミトリ・ケルケンツェス事務局長は「人工知能が日常生活の一部になりつつある今、その変化が将来の社会にもたらす非常に現実的な脅威にも対処しながら、世界にプラスの影響を与えることができるアイデアやツールに光を当てたい。『人生』とは何か、『生きる』とは何を意味するのかよく考え、充実した人生を送るためにどうすればいいか議論する機会にしたい」とコメントしていました。
■課題はお金?
Q
開催まで2年を切ったと言うことで、準備は順調に進んでいるんでしょうか?
A
目の前の大きな課題はお金の問題です。
▽会場建設費VS資材価格
パビリオンなどの会場建設費は1850億円、国と自治体と経済界が3分の1ずつ負担しています。しかし資材価格が高騰していて、いろんな建物で入札の不成立が相次いでいます。どこかで折り合いをつけなければならなくて、例えば大阪府と大阪市で作るパビリオンは、74億円で整備する予定だったのが115億円まで膨らみ、設計を見直すなどして99億円まで圧縮したんですが、それに伴って、特徴的だった屋根を見直すことになりました。外から見える分には影響の小さいようにした形ですが、これに限らず様々な展示は、万博の魅力にかかわるだけに、どこまでコストを重視するかは難しいところです。
▽運営費VSチケット代
もう一つはチケット代です。今公表されている万博の運営費は809億円ですが、この8割以上をチケットでまかなう予定になっています。チケット代は以前はおよそ6000円で検討を進めていましたが、人件費の高騰やこのところの要人の警備の問題もあって、運営費がさらに膨らむ見通しで、チケットの価格を上げることを含めて検討しています。
それでも訪れる人にとって満足度の高い万博になるかどうかは、その魅力が入場料に見合うものになるかが、大きなポイントになると思います。
■実験場となるか
Q
その満足度の高い万博にする魅力のポイントは?
A
私は万博が開かれる「2025年」という年がポイントの一つだ思います。
というのも、万博が開かれる2年後は、「2025年問題」といわれるように、いわゆる団塊の世代全員が75歳の後期高齢者に入る年なんです。例えば認知症の高齢者はおよそ700万人、独り暮らしの高齢者が750万人を超える一方で、人手不足が医療・介護だけでなく、広い分野で深刻になる、日本にとって象徴的な年となるわけです。
その意味で、万博を訪れる人は新しい技術を見るだけではなく、AIやロボットなど、社会を一変させるかもしれない最新技術とどう向き合い、どう社会に位置づけて使っていくのかが、身の回りの大きな関心事になっているはずです。
“右肩下がり”とも言える時代に、万博が本当の意味で未来社会の実験場になれるかどうか、それが、これから2年の準備に問われていると思います。
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