NHK 解説委員室

これまでの解説記事

各地の図書館 地域をどう支える?

高橋 俊雄  解説委員

今月は「図書館振興の月」。各地の公立図書館がどのように地域と関わり、役割を果たそうとしているのか、事例をご紹介したいと思います。

m230502_001.jpg

■図書館で「にぎわい」を
公立図書館は本を読んだり調べものをしたりと、無料で誰でも利用できる公共施設です。その特性を生かして、図書館をまちのにぎわい作りや活性化につなげようという事例が各地に見られます。

m230502_002.jpg

亀山市立図書館(三重県)は、JR亀山駅の目の前にことし1月に開館しました。亀山駅周辺は店の数が減るなど空洞化が進み、市が再開発を進めています。新しい区画の正面部分に整備されたのが、4階建ての図書館です。
駅から1キロほど離れた公園からこの場所に移転し、広さは3倍に。列車を待つ高校生などの利用が増えたということで、1日あたりの利用者数は4倍になりました。イベントも開催しやすくなり、図書館では「人々がつながる場」として交流の拠点にしたいとしています。

駅前や中心市街地に出来た利便性の高い図書館はほかにも。

m230502_008.jpg

豊橋市まちなか図書館(愛知県)は、亀山市と同じように再開発にともなって新たに整備されました。高層ビルの2階と3階に入っています。
兵庫県明石市の「あかし市民図書館」は駅前の複合施設の4階にあります。5階と6階には「こども広場」や市の総合窓口があり、同じ建物内でさまざまな公共サービスが受けられます。
2018年に市街地の中心部に移転した都城市立図書館(宮崎県)の建物は、もともとはショッピングモールでした。ここが閉店し、そのあとに入ったのが図書館です。
以前とはまるで違った空間になり、コロナ禍の前は1日の平均入館者数が3000人、1年間で100万人を超す人が足を運びました。
図書館が、人が集まる場所になることで地域を支えている実例と言えます。

■「課題解決」で地域を支える
次にご紹介したいのは、「蔵書」や、調べ物の相談=「レファレンスサービス」を通じて地域を支えている図書館です。

m230502_010.jpg

鳥取市にある鳥取県立図書館は「仕事とくらしに役立つ図書館」を柱の1つに掲げ、20年近くにわたって「課題解決」に向けたサービスの充実を図ってきました。
最初に目に入るのが、「暮らしの困りごと解決ナビ」というチラシ置き場。「相続」や「インターネットトラブル」など、さまざまなチラシが用意され、関連図書や棚の場所、さらには相談窓口などが記されています。
館内にはテーマ別のさまざまなコーナーがあります。ビジネスや子育て支援、がん患者の手記などをそろえた「闘病記文庫」もあります。
相談カウンターには基本的に2人の司書がいて、「こんな資料はないか」といった相談に応じています。年間1万5000件前後の相談があり、このうちの2割ほどがビジネス関連だということです。

m230502_011.jpg

この図書館は、こうした相談を生かして起業や商品開発に結び付けた事例を、マンガやインタビュー記事で紹介しています。
例えば鳥取県内に3つの店舗を持つ白髪染め専門店の経営者は、店を出すにあたって商圏分析をしてもらったほか、就業規則を作る時などにも図書館を活用したということです。

■欠かせない「連携」
ただ、図書館で得られる情報だけで課題が解決するとは限りません。そこで力を入れているのが、ほかの機関との連携です。

m230502_012.jpg

ビジネス関連では、日本政策金融公庫や中小企業診断士、経営相談所の「よろず支援拠点」などと定期的に無料相談会を開いています。

m230502_013.jpg

もう1つ重視しているのが、市町村などの図書館との連携です。
鳥取県の場合、すべての市町村に公立の図書館があり、県立図書館の蔵書を取り寄せたい場合、原則2日以内に届く仕組みが整えられているということです。
県西部、南部町の図書館には、小さいながらも「闘病記文庫」が設けられています。
鳥取県立図書館の小林隆志館長は「ネットワークを生かすことでそれぞれの図書館の力を高め、「課題解決」を通じた地域貢献を進めたい」と話しています。

■住民が図書館づくりに関わる
もう1つ、「地域を支える」という視点で欠かせないのが、図書館と関わる地域住民の活動です。

m230502_014.jpg

岡山県瀬戸内市に2016年にオープンした「瀬戸内市民図書館」は、3つの町が合併してできた瀬戸内市の中核となる図書館で、「もみわ広場」という愛称があります。
「もみわ」は図書館の基本理念、「もちより・みつけ・わけあう」のこと。疑問や課題を「持ち寄る」。解決策や展望を「見つける」。その発見や気づきを「分け合う」、という意味です。図書館が目指すものではなく、利用する側の行動を記しています。
この図書館は、作るときから市民が主体的に関わっています。自分たちの図書館をどのようにしたいか、建設前から開館までに「としょかん未来ミーティング」という会議を12回開催。希望する市民は誰でも参加でき、意見を出し合いました。
小・中・高校生を対象にした「子ども編」もあり、中学生と高校生が企画運営委員を務めて準備にあたり、自主的にアンケート調査も行ったということです。
「気兼ねなく話ができるチャットルームがほしい」といった意見が、実際に反映されました。

■住民が地域文化を支える

m230502_017.jpg

この「未来ミーティング」で友の会を作ったらどうかという意見が出て、開館後に「せとうち・もみわフレンズ」が発足しました。現在およそ100人の会員がいて、図書館の枠をこえた活動をしています。
例えば手作りのかるたは、地域ゆかりの人物や観光名所などを題材にしたもので、図書館の郷土資料を参考に作られています。2種類作られ、市内の小・中・高校にも配られたということです。
また、画家で詩人の竹久夢二の出身地であることなどにちなんで、デザイン画や詩を募集し、すぐれた作品を冊子にまとめています。
一つ一つは地道な取り組みかもしれませんが、まさに地域文化を下支えする役目を果たしていると思います。
事務局長の水田清志さんは「図書館を拠点として、自分たちのまちに誇りを持てるような活動を続けていきたい」と話していました。

■「学び合い」を支えて「まち育て」に
こうした図書館の役割について、瀬戸内市民図書館の初代館長で京都橘大学教授の嶋田学さんは次のように説明しています。

m230502_019.jpg

▽図書館は資料を提供するだけでなく、住民のさまざまな活動の場になることができ、住民相互の「学び合い」を支えていくことができる。
▽そうした住民の「知りたい」「学びたい」に応えていくことが,多様な興味でつながるコミュニティーづくりや「まち育て」につながり、地域活性化にも結び付いていく。

ご紹介した「課題解決」や「住民参加」の取り組みは、いずれも一朝一夕に出来たものではありません。各地の図書館にとっては、住民との関わりを大切にして、地域に必要とされる「場」になるための取り組みを、少しずつでも続けていくことが求められると思います。
また、私たち図書館を使う側も、自分たちの図書館を「よりよいものにしていくんだ」という意識を持って、「もっとこうしてほしい」と声を上げていくことが大事なのではないかと、取材を通じて感じました。


この委員の記事一覧はこちら

高橋 俊雄  解説委員

こちらもオススメ!