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みんなで出資 みんなで運営!労働者協同組合の新しい働き方

牛田 正史  解説委員

労働者協同組合という名前をご存じでしょうか。
去年、新たな法律ができ、設立が可能になりました。
働く人が自ら出資し、みんなで運営に携わっていくという法人です。
新しい働き方にも繋がると期待されるこの組合、どんな組織なのか。
牛田正史解説委員がお伝えします。

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名前は労働組合と似ていますが、まったく別の組織です。
事業を行って収益を上げていく「法人」ですが、会社やNPOとも異なります。
去年10月に新しい法律が施行され、制度が始まりました。
では会社などと何が違うのか。

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株式会社の場合は、株主が資金を出資し、社長が経営を担います。
ところが労働者協同組合は、そのどちらも、働く人自らが行います。
つまり、みんなで作り、みんなで運営するという組織です。
働く人は組合員と呼ばれますが、1人1人に議決権が1つ与えられます。
会議の場で、給料の金額、働く時間、そして事業の内容まで、あらゆることに意見を出し合い、決めていきます。
これが大きな特徴です。
ちなみに、出資金は1人1万円から5万円の所が多いそうです。

でも、みんなで事業の内容を決めていくというのは簡単では無い気がする、とお感じの方も多いと思います。
やはりある程度、目的や志が一致した人たちが集まる必要があると思います。

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この労働者協同組合は、派遣事業が禁止されている以外は特に縛りはないんですが、想定されている主な事業があります。
介護や障害福祉、子育て支援、それに農林業や街の活性化など、いわば地域の課題に取り組む事業です。
これらは、どちらかというと、NPOがやってきた事業に近いです。
ただNPOと違うのは、NPOだと10人以上のメンバーが必要なんですが、労働者協同組合は3人いれば設立できます。
またNPOは行政の認証を受ける必要がありますが、労働者協同組合は登記すれば設立できます。
つまりNPOより作りやすい面があるんです。
事業は都道府県が監督します。
介護や子育て支援などは今、人手不足が深刻化しています。
労働者協同組合という制度の大きな目的は、まさに、この地域の課題の担い手を、NPOなど以外でも、増やしていくという点にあります。

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去年10月から制度が始まり、これまでに全国で36の法人が出来ました。
去年まで任意の団体として活動していた所が、労働者協同組合に移行するケースも多くあります。

ここからは具体的な例を基に、実際、どのように運営されているのか見ていきます。

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まずご紹介するのは、横浜市にある「Lavori」です。
組合員は40人で、1人3万円を出資しています。
手掛けているのは家事代行サービスです。
高齢者や共働き世帯の家庭を訪れて、掃除や料理などの家事を代行しています。
組合員は、主婦など全員が女性で、30代から70代までの幅広い年齢層がいます。
働く時間は、それぞれ違います。
例えば子育て中であれば、午前中だけ勤務するといった、自分の生活に合った時間帯に働くことが出来ます。
このように「多様な働き方」を自分たちで決められるという点も、大きなメリットとされています。

でも、組合員が40人もいたら、みんなの意見を集約するのって、難しいんじゃないか?そう感じる人もいるかもしれません。
そこは月に1回、全員参加のミーティングを開いて、話し合いを行っていますが、中には全会一致で決まらないこともあるそうです。
それでも意見を出し合って、ある程度、まとまったら一度やってみる。
それで問題があれば次に修正する。そんな進め方をしています。
最近では、賃金の引き上げも皆で話し合って、時給を200円上げたそうです。
また、全員で話し合うことで色んなアイデアも出てきます。
例えば若い子育て世帯を対象にした「家事コーチング」や、「空き家の管理」といった新しい事業もやりたいという意見が出ているそうです。
労働者協同組合Lavoriの五十嵐仁美 代表理事は、「スピード感としては、やっぱり、決定までに2・3か月かかることもありますが、私はこのプロセスが大事だと思っています。意見も言うし、きちんとやることもやるし、責任を持ってやっていく。自分たちの手で運営するからこそ、責任感も強くなる」と話していました。

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全国では、今お伝えした家事代行サービスのほかに、山林を整備してキャンプ場を運営したり、特産品を生産販売するなどの事業がすでに行われています。
また、子育て支援やグループホームの運営のほか、新聞やWEBなど子どもたちがメディアの制作体験を行う事業や、葬祭業を営む組合なども出てきています。

ただ、労働者協同組合は運営していく上で、注意すべきこともいくつかあります。
ここからは、そうした課題面をお伝えしていきます。

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まずは「安定した収益を上げていく必要がある」という点です。
というのも、労働者協同組合は働く人たち自身が運営していくんですが、組合員とは全員、雇用契約を結びます。
そして、きちんと法律に乗っ取って賃金を払わなければなりません。
最低賃金も必ず適用されます。
「今月は収入が少ないから、給料は我慢して」ということは出来ません。
一部のNPOのように、ボランティアで運営することはできません。

ただ、特に公共性の高い事業だと、収益を確保するのは簡単ではありません。
ポイントの1つにあげたいのは、自治体など行政機関との連携です。
福祉や地域活性化の事業が想定されていますが、そこは行政が担当する分野と重なる部分も多くあります。
労働者協同組合は法人格を持っていますので、行政から事業を請け負うことが可能です。
例えば、熊本市に「あるく」という組合があります。
障害福祉サービスに携わってきたソーシャルワーカーなどが結成した組合です。
ここでは、障害者を対象に実施する「生活介護」という事業について、今年度中に熊本市から指定を受ける予定で、現在、準備を進めているところなんです。
このように、行政と連携して事業を進めていこうという組合も出てきているんです。
一方の自治体側も、地域の課題に取り組む担い手を増やしたいという考えがあります。
中には、設立を支援する補助金制度を新たに設けた自治体も出てきています
労働者協同組合が広がって行くかどうかは、行政との連携が1つ鍵になると思います。

これから介護や障害福祉、それに子育て支援などは、ますますニーズが高まっていきます。
多様な働き方に繋がるとされる労働者協同組合によって、その担い手の拡大に繋がっていくのか、注目していきたいと思います。                  


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