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新入生が狙われる 大学での「偽装勧誘」にご用心

木村 祥子  解説委員

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新入学を迎えたみなさん、おめでとうございます。
新生活に期待を膨らませている人も多いのではないでしょうか。
しかし、この時期、注意をしなければいけないのが、新入生を狙うトラブルです。
どんなトラブルなのでしょうか。木村祥子解説委員です。

【新入生にひそむ危険】
今回は特に成人年齢の引き下げなどで、トラブルに巻き込まれやすいとされている、大学の新入生に絞って、話をしたいと思います。
こちらをご覧ください。

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去年、大学生協が全国の大学生、およそ9000人を対象に行ったアンケートの結果です。入学後に遭遇したトラブルについて、このような結果になりました。
1位はバイト先での金銭・労働環境
2位はSNSのやりとり
3位は訪問販売契約
4位は宗教団体からのしつこい勧誘
5位は自転車による交通事故などとなっています。
2位のSNSは大学生にとって欠かせないツールです。
ただ、軽い冗談のつもりで書き込んだものが他人や友人を傷つけてしまったり、最近ではアルバイト中に勤務先である飲食店の食材で遊んだりする様子をSNSに投稿し、炎上した例もあります。

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そして特にことし、全国の大学が危機感を強めているのが、4位の宗教団体からのしつこい勧誘だということです。
理由としては新入生の多くは、高校時代をずっとコロナ禍で過ごしてきました。
ようやく制限も緩和され、「友達を作ったり、サークルに入ったりして充実した学生生活を送りたい」と考えている人もいると思います。
対面での交流も盛んになる中、学生たちの「弱み」につけ込んで、「正体を隠して」近づいてくる団体もあるということで、大学は警戒を強めています。

【新入生を守る】
対策に取り組んでいる大阪大学です。取材に訪れた日は「大学生活環境論」という授業が行われていました。
この日のテーマは「キャンパスにおけるカルト問題」。
すべての新入生が受ける、必修科目です。
授業を担当している太刀掛俊之教授です。危機管理と応用心理学が専門で長年、この大学でカルト対策に取り組んできました。
太刀掛教授は「カルト」について
▽何らかの強い信念や思想を共有し、それに基づいた行動を熱狂的に実施するように組織された閉鎖的な集団で
▽個人の自由と尊厳を侵害し組織とリーダーに絶対服従をさせる特徴があると説明しました。
そして
▽日本ではオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件以降、社会問題視される教団を「カルト」と呼ぶようになったと話しました。
大阪大学ではこれまで「正体を明かさない勧誘」、いわゆる「偽装勧誘」が行われており、なかには、カルトと思われる団体も確認されているので注意をしてほしいと呼びかけました。
では「偽装勧誘」はどうやって行われているのでしょうか?
太刀掛教授によりますと過去に、知り合いの学生が大学のキャンパスで「歩こう会」のサークルに勧誘されたそうです。
「手に持っている勧誘のチラシを下さい」というと、声をかけた人は「チラシは渡せない」と言ったそうです。
太刀掛教授によると、チラシを渡してしまうと大学に存在を知られることになり「偽装勧誘がばれしまうと考えたのでは」と分析しています。
学生は機転を利かせて、チラシを写真に撮って太刀掛教授に渡しました。
調べてみるとオウム真理教の後継団体が正体を隠して勧誘をしていたことがわかりました。
この他にも大学が主催するイベントとデザインを似せたチラシを作って「偽装勧誘」を行っている団体もあるということです。
私もこのチラシを見せてもらいましたが、一見したたけでは、見分けがつかず、手口が巧妙になっていると感じました。
気をつけるポイントとして太刀掛教授は、偽装勧誘のチラシには代表者とメールアドレスしか書いていないことが多いので、イベントを主催する団体名をきちんと確認し、書いていなかったり、聞いても教えてもらえなかったりした場合には「怪しい」と思って無視してほしいということです。
大学でも監視を続けているということですが、手口を紹介すれば、また別の手口ということで、根絶は難しいということです。

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太刀掛教授は「本来の名称や活動内容を示さずに近づき、マインドコントロールをはかって、学生から選択の自由を奪ったり、ゆがめたりする行為は基本的人権にもかかわる大きな問題だと考える。学生たちに『自分の身は自分で守る』という知識を身に着けさせることは大学の責務で、今後も続けていく」と話していました。
授業を受けた男子学生は「新入生歓迎会をどの部活でもやっているので、気をつけようと思った」と話していました。

【SNSの投稿に注意】

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「#春から○○大」。
こちらのハッシュタグ、ご存じですか?
○○には自分の大学名を入れるのですが、新入生の中には、はやる気持ちでこのハッシュタグを検索し、「大学のことを教えて下さい」などと投稿してしまったという人もいるかもしれません。
全国の大学ではこのハッシュタグにも気をつけほしいと呼び掛けていて、九州大学では啓発動画を作っています。動画の内容をご紹介します。
春から一人暮らしを始めた新入生が「#春から九大」と検索し、軽い気持ちで大学や福岡のことについて教えて下さい」と投稿します。
すると、先輩を名乗る人物からダイレクトメッセージが届きます。
最初はSNSでのやりとりでしたが、先輩がとても親身に相談に乗ってくれるので、実際に会うことになりました。
そして誘いにのって同じバレーボールサークルに入ったり、社会人と一緒の食事会などにも参加したりして、楽しい日々を過ごしていました。
ところがある日、聖書の勉強会に誘われます。
実はこのサークル、宗教団体が正体を伏せて勧誘をしていた、という内容でした。
これは実際に九州大学で起きた話ではありませんが、啓発のため、別の大学の被害をもとにつくったということです。
同じ大学の先輩と言われれば、新入生は心を許してしまうと思います。
「#春から○○大」に投稿することで、多くの個人情報がオープンになってしまう危険性もあるのといいます。
メッセージをやりとりする中で、年齢やどこに住んでいるのかなどを会話の流れで伝えてしまうのだといいます。

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情報法や情報リテラシーに詳しい明治大学法学部の横田明美教授はさらにプロフィールや過去の書き込み、フォーローしているアカウントまでたどると、出身地や親元を離れて1人暮らしかどうか、高校の部活、趣味や興味関心などもわかってしまうということです。
横田教授は「こうしたやりとりは入学前の時期がピークで大学の注意喚起や対策が及びづらい」と指摘しています。
そのうえで「悪質な団体の中には時間をかけて信頼関係を築き、気が付いた時には学生が断りにくい環境となってしまっているケースもある。少しでも怪しいと感じた時には連絡を絶ち、ひとりで悩まずに大学の相談窓口などに来てほしい」と話していました。

【「自己防衛」を忘れずに!】
私自身、入学前からというのはとても驚きました。合格発表の時に大学から入学書類と一緒にこうした情報を受験生に伝えてほしいと思いました。
私が取材をした学生の中には合格発表の日に投稿してしまい、送られてきたダイレクトメッセージを見せてくれた学生もいました。
知らず知らずのうちに仲間に入ってしまい、抜け出せなくなることは危険です。
団体の活動にのめりこんでしまって、大学をやめてしまったり、友達や家族との関係が壊れてしまったりするなど、取り返しがつかなくなってしまうケースもあるということです。
しっかりと情報を確認してサークルなどを選んでほしいと思います。
また、「狙われているかもしれない」と心の片隅に持つだけでも自己防衛になります。
危険を回避して、充実した学生生活を送ってほしいと思います。


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