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ドローン レベル4初飛行 安全性はどうなっているの?

中村 幸司  解説委員

ドローンの「レベル4」という新しい飛び方が可能になり、2023年3月、その初飛行が行われました。
住宅地など人がいるところの上空を飛行するということで、「大丈夫なの?」と心配している方もいるかもしれません。そこで今回は、ドローンのレベル4飛行の安全性について考えます。

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Q:ドローンは、技術の進歩を感じますが、今回、どのような飛行が行われたのでしょうか?

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A:初飛行は3月24日、東京・奥多摩町で行われました。飛行させたのは、日本郵便です。ドローン本体の重さは8.8キロ、運ぶ荷物は1キロ。

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奥多摩郵便局の屋上を飛び立って、GPSで位置を認識しながら、2キロあまり離れた住宅の庭まで、荷物を運びました。

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Q:レベル4というのは、どういう飛び方ですか?

A:ドローンの飛行には、レベル1からレベル4まであります。

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レベル1は、操縦している人が直接ドローンを見ながら、手動で操縦するケースです。「空撮」などがこれにあたります。
レベル2は、操縦している人が直接見ていますが、ドローンはプログラムされたルートを自動で飛行する場合です。例えば、農地のすみずみに「農薬散布」をするときの飛行です。
レベル3は、人のいないところを、操縦する人がドローンを目視せずに、自動で飛行するものです。山間部の飛行や、離島を結ぶルートを飛行するときなどです。
レベル4は、人のいるところの上空を、ドローンを目視せずに自動で飛行させるというものです。
法律が改正されて、レベル4飛行が可能になりました。

Q:奥多摩町でのレベル4飛行は、どのようなものだったのでしょうか?

A:順調に飛行を終えました。日本郵便は3年前の2020年に今回と同じ地点を結んで、「レベル3」で飛行させたことがありました。比較したのが下の図です。

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レベル3(図の左)の時は、人のいるところを極力避けるために、飛行ルート(図中の紫色の線)は遠回りしています。
一方、今回のレベル4(図の右)では、住宅など人のいるところの上空も飛べるので、ほぼ直線的に飛行できました。このため、飛行距離を短くでき、所要時間は片道5分と、レベル3の8分から短縮できました。
レベル3では、人や車の上空を通るところに、安全確認をする要員を置くことがあり、通行量の多い道路に1人を配置しました。レベル3では、複数の人が必要になりましたが、レベル4なら操縦士1人で飛行できます。

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物流などの業界は、いま人手不足の問題を抱えています。また、山間部のお年寄りの中には、なかなか街に出てこられない人もいます。
レベル4が広く導入されれば、必要な人に効率的にモノを運べるようになる可能性があります。

Q:必要性は感じますが、人の上空を飛ぶということで安全性が気になります。どのような、安全対策が取られているのでしょうか?

A:安全性の高い機体を、資格をもった人が操縦します。

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機体については安定した飛行ができること、耐久性、緊急時に対処する機能、雷や一定の風などでも安定して飛行ができることといった性能があることを確認し、国から認証を受けます。「第一種機体認証」を受けた機体でないとレベル4飛行はできません。
操縦できるのは、安全に飛行するための知識と操縦技術を持った人で、学科試験と実地試験をパスした「一等無人航空機操縦士」です。

Q:資格を持った人が、認証を得た機体を操縦するといっても、トラブルがあるかもしれません。トラブルの対策は、どうなるのでしょうか?

A:ケースによって、対処も変わってきます。
ひとつは、トラブルがあっても、軽微な異常など安全に飛行を続けられる場合です。

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このときは、上の図のようにルートの近くの安全な場所=広場やグラウンドのように人が少ない場所に着陸します。この緊急の着陸地点は、飛行計画をたてるときに、あらかじめ設定しておきます。自動で着陸させることもできます。

つぎに、安全な飛行の継続が困難な場合です。

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このときは、操縦士が機体の高度を下げます。機体には、真下や前方を映すカメラが取り付けられています。この映像を見ながら、安全な場所に着陸させます。
今回使われた機体は、プロペラが1つ止まっても、残りの5つのプロペラで飛行できるよう設計されています。状況によりますが、こうしたときは安全を考えて、すぐに着陸させることになると考えられます。

そして、突然、電源が切れるなど、飛行できなくなった場合です。

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このときは、機体に取り付けられているパラシュートが開いて降ります。こうして、地上の被害を最小限にするということです。

Q:今回の飛行では重さが10キロくらいありました。パラシュートが開いても危なくないのでしょうか?

A:パラシュートは最後の手段です。こうならないようにするために、機体の認証制度があって、さらに機体は整備や点検をすることになっています。

Q:目的地に着いたときに、着陸地点に人がいて、場所があいていなかった場合、どうなるのでしょうか?

A:操縦士は、着陸地点の安全をカメラで確認しています。人がいると、操作一つでドローンは、その高さで止まる=「ホバーリング」させることができます。

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人のいない安全な場所が近くにあれば、そこに着陸させるといった対応になると考えられます。

Q:安全の対策がとられていることはわかりましたが、他にはどのような課題がありますか?

A:他の航空機=旅客機と衝突しないようにするということがあります。

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これは、レベル4に限りませんが、空港の周辺は飛行禁止になっています。また、旅客機とは、飛ぶ高度も大きく違います。飛ぶ空間を分けて、衝突しないようにしています。

では、ヘリコプターはどうでしょうか。ヘリコプターは、原則、高度150メートル以上を飛んでいます。一方、ドローンは原則150メートルより低い高度を飛びます。ドローンが150メートル以上を飛ぶには、特別な許可が必要です。こちらも高さを分けていることがわかります。

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ただ、ヘリコプターは着陸するときは、150メートルより低いところまで高度を下げます。ドクター・ヘリは、患者のいる現場近くなどに着陸することがあります。ドローンを飛行させるときは、飛行計画をつくって、関係者で情報が共有されています。ドクター・ヘリの側は、自分の飛行したいところをドローンが飛行しないかどうかを、この情報で確認できます。着陸したいところがドローンの飛行ルートと近いときには、どちらか一方が、ルートや時間など飛行計画を変更して、同時に同じ空域にいないようにして、衝突しないようにします。

Q:住宅地などの上空を飛ぶということで、安全以外にも課題はいろいろありそうですね。

A:ドローンが身近になってくると、安全以外にも課題が見えてきます。

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ひとつは、騒音です。ドローンのように低空を飛ぶものは、なかなかありませんので、飛行中の音が気になる人はいると思います。
さらに、プライバシーの問題です。住宅など個人の敷地の上空を通過しますし、ドローンには、操縦のために下向きにカメラが設置されています。プライバシーが守られるのかといった指摘が聞かれます。

ドローンのレベル4飛行は、生活を大きく変える可能性があります。一方で、解決しなければならない課題も少なくありません。初飛行をきっかけに「レベル4」の飛行について、どのように国民の理解を得て、課題を解決していくのか、考えていくことが大切だと思います。


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